「旗竿地でも長屋ならアパートが建てられます!」そんな売り文句が踊るメーカーの広告を見たことはないだろうか。

旗竿地(旗と竿のような形状の不整形地。敷地延長、または路地状敷地とも)では、自治体の条例によってマンションやアパートの建築が規制されているケースがある。その場合、法律上は戸建てと同じ扱いとなる「長屋」形式にすることで、条例の適用を回避できる。この手法で、旗竿地のような不整形地を活用しようという話だ。

なかでも住戸を上下に重ねた「重層長屋」は戸数を増やすことができ、敷地をより有効に活用できる。そのためアパートメーカーだけでなく一部の不動産投資家の間でも知られた手法となっている。

しかし、今後はこの重層長屋を取り巻く状況が変わってくるかもしれない。国や東京都が、大規模な重層長屋への規制を強める方向で動いているからだ。本記事では規制の背景、そして不動産投資家への影響を探っていきたい。

長屋とアパート、そもそも何が違う?

まずは「アパートがダメでも長屋ならOK」という状況がなぜ起こるのかについて触れておこう。

長屋とは、外廊下などの共用部分を持たない集合住宅の一形態。各戸それぞれの玄関が共用部を介さず、直接外部につながっていることがアパートとの大きな違いだ。上下階に住戸が重なる重層長屋では、上階へ直接アクセスが可能な各住戸専用の階段が必要となる。

重層長屋(左)とアパート(右)の例。外廊下などの共用部の有無、専用玄関から外部へ直接アクセスできるか否かが両者の違いだ

次に法律や条例における両者の違いについて。マンションやアパートは、多数の人が1つの建物内で就寝することから、建築基準法上、ホテルなどと同じく「特殊建築物」に分類される。

こうした特殊建築物に対しては、各自治体が条例を定めて規制をかけ、災害時に必要な避難通路の確保などを義務づけることができる。例えば東京都では、旗竿地へのアパート建築が条例により原則として禁止されている。これも旗竿の「竿」の部分の幅が狭い場合、災害時の避難に影響が生じる可能性があることなどが理由だ。

自治体は建築基準法第40条にもとづき、個別の内容で条例を制定し、独自に敷地や設備への規制を強化できる

一方、各住戸の玄関が直接外部につながる長屋は戸建て住宅と同様という位置づけ。特殊建築物には該当しない。このため「アパートがNGでも長屋ならOK」となるわけだ。重層長屋は、建物のつくりという視点ではアパートと大きな差はない。そのため、安価な旗竿地に重層長屋を建てるという手法が存在しているのである。

ただし東京都の場合、延べ面積が200平方メートル以下、階数が3以下、住戸数が12を超えないなど小規模な共同住宅については規制の対象外。したがって、小規模なアパートであれば建築可能だ。「長屋でなければ建てられない」といったケースは、これを超える大きな旗竿地の場合に限られる。

なお、旗竿地での長屋建築については、各自治体が条例で個別に条件を設けており、その要件はそれぞれ異なっている。また自治体によっては規制そのものが設けられていないケースもある。

東京都が規制に乗り出す

こうした大規模重層長屋では昨今、安全上の問題が指摘されている。そもそも長屋に厳しい規制が及ばないのは、前述のとおり玄関と外部が直接つながっているためだ。しかし自治体の条例制定時には、実質アパートやマンションと変わらない大規模重層長屋の登場が想定されていなかったのだろう。建物の規模が大きくなるにつれ災害時における避難の安全性不足が危惧されるようになり、近隣住民から不満の声も上がるようになった。

こうした動きを受け、東京都は今年10月「近年、大規模かつ狭小な住戸からなる長屋が建設されるようになり、居住者の避難などが懸念されている」として建築安全条例を改正、重層長屋の規制強化に乗り出した。

条例の改正に伴う主な規制内容は以下の3点。いずれも敷地内の避難通路の幅に関するものだ。

東京都建築安全条例 改正の概要(10月15日改正)
(1)主要な出入り口が道路に面しない住戸の延べ面積が300平方メートル超、または住戸数が10超の場合、敷地内の通路幅を現行の2メートルから3メートルに広げる
※住戸の床面積等による適用除外あり

(2)建築規模に関わらず、各住戸の窓などから、避難上有効な幅50センチメートル以上の通路を設ける

(3)道路から最も遠い住戸の主要な出入り口から道路までの距離が35メートルを超える場合、通路幅を4メートル以上に広げる

東京都の建築安全条例の改正内容(『東京都建築安全条例の改正概要』より 図は路地状敷地の例)

要するに、敷地内に十分な幅の通路を設けることで、災害時の避難をスムーズにするという改正である。

影響範囲は限定的も、市区町村で上乗せの可能性

この改正条例に抵触する敷地の場合、重層長屋を建てるメリットはなくなる。また既存の建物についても、条例の要件を満たせなければ既存不適格となり、同じ用途での再建築もできなくなる。そうなれば土地の評価が出にくくなり、出口戦略にも大きな影響を来す。不動産オーナーや投資家への影響はどの程度のものなのか。

旗竿地などの不整形地で長屋形式のアパート投資を実践する大長伸吉さんは、今回の改正による投資家への影響範囲は限定的だと見ている。理由は改正内容(1)と(3)に盛り込まれた、建築規模に基づく前提条件だ。

「改正で規制の対象になるのは、延べ面積300平方メートル超、または住戸数が10超という大規模な建物です。具体的な数はわかりませんが、そもそも東京にこのような土地、長屋はそう多くはないでしょう。(3)についても同様で、該当するほど大きな長屋は少ない」(大長さん)

では建築規模に関わらず適用される(2)についてはどうか。一級建築士で不動産コンサルタントの猪俣淳さんは「クリアできない建物はそこまで多くないのでは」と指摘する。

「そもそも民法234条において、隣地境界から外壁表面までの距離を50cm確保するよう定められています。加えて一般的な集合住宅では、排水枡などを設置するため、隣地境界からの距離は60~70cm程度取っているケースが多いはず。ただし、『避難上有効な幅員』と定められているので、給湯器やガスメーターの移動は必要でしょう」(猪俣さん)

ただし、今回の改正では、都条例に加え、区市町村が独自の条例を制定することも可能となる。つまり、例えばある区では「延べ面積300平方メートル超」の長屋が対象だが、別のある区ではこの要件が「述べ面積200平方メートル超」というケースも「制度上は可能」(東京都の担当者)になることも覚えておくべきだろう。

広がる包囲網

大規模重層長屋への包囲網を張るのは東京都だけではない。国土交通省は今年9月の基準法改正で規制を強化することを打ち出している。これまで自治体は路地状敷地に建つ長屋のみしか規制できなかったが、これを袋路状敷地にも広げるというものだ。

これまで、自治体が条例で接道に関する規制を強化できたのは路地状敷地のみだった。今回の法改正により、行き止まり道路のみに接する「袋路状敷地」にもその対象が拡がる(延べ面積150平方メートルを超える建物が対象)

大規模重層長屋を規制する動きは、今後東京都以外の自治体に波及する可能性も考えられる。

一方で、こうした規制には疑問の声もある。建築プロデューサーで法政大学江戸東京研究センター客員教授の織山和久さんは、今回の改正が建物の構造に関わらず一律に適用される点に疑問を投げかける。

「火災による倒壊や延焼が懸念される木造の長屋のみを規制し、RC造など耐火構造のみ可とする、という方法もあるはず。今回の改正では、構造種別による耐火性能の違いが無視されていると感じます」

また織山さんは、規制の強化は空き家問題の解決を阻害する可能性もあると指摘する。「今回規制の対象となる300平方メートル超の敷地は、戸建て住宅を建てるにしては広すぎる。旗竿地の重層長屋による活用が封じられれば、今後こうした土地を相続したオーナーは売却先を見つけられず、空き家のまま放置されることもあるのでは」

今回紹介した東京都の改正条例により、個人の不動産投資家が直接不利益を被るケースは少ないかもしれない。しかし、仮に所有する不動産の用途に制限が加わればその資産価値が下落する。逆に規制の緩和によって価値が上昇することもあろう。条例や法改正の動きに対し、不動産オーナーも敏感になっておく必要がありそうだ。

(楽待新聞編集部・坪居慎太郎)