この連載では3回にわたり、昨今の不動産融資情勢と、地銀や信金・信組から融資を受けるためのポイントなどについて紹介してきた。金融機関の種別や本人の属性、実績などにもよるが、昨年4月以降に融資情勢が厳しくなったことは多くの投資家が認めるところ。今回は、そんな厳しい時代にこそ強い味方となりうる政府系金融機関「日本政策金融公庫」について取り上げる。

独自の審査基準を持ち、民間の金融機関では融資が通らないような物件でも糸口を見出せる可能性がある公庫。現在、全国の投資家たちはどのように公庫を活用しているのか、そして、好条件で融資を引くために必要なことは何なのか。実際の事例を基に考えていきたい。

「公庫」とは?

日本政策金融公庫は2008年、国民生活金融公庫、農林漁業金融公庫、中小企業金融公庫の3つが合併して誕生した100%政府出資の金融機関で、所管は財務省。「一般の金融機関が行う金融の補完」を掲げ、利潤追求ではなく個人事業者や中小企業の支援を目的としている。

収益物件への融資に関していえば、メリットの一つは金利の低さで、1%台前半~2%台前半の固定金利がメイン。また担保評価以上に事業性・収益性を重視し、耐用年数超えの築古物件も対象としていることが大きな特徴といえる。実績を重視する銀行と比べれば新規開業者でも融資を受けやすく、無担保・無保証の融資制度もある。

逆に融資期間が基本的に10~15年と短く、この期間で安定したCFが出ない物件では融資を受けにくい面がある。加えて、基本的に投資用不動産への融資は4800万円が上限で、規模の大きい物件を持ち込むことは難しい。ただ、35歳未満の若者と55歳以上の高齢者、女性の場合は上限が引き上げられ、金利や期間などの面でも優遇を受けられるケースがある。

楽待新聞編集部は昨年12月、不動産投資家を対象に公庫の融資に関するアンケートを実施。「昨年4月以降に公庫から融資承認を受けた」という投資家35人の回答をみると、融資金額は4800万円以下が95%を占めていた。(※調査期間:2018年12月12~18日、有効回答数:192件)

融資金額に一定の制限がある以上、融資にあたっては「公庫に適した物件」を選んで持ち込むことが必要になってくる。では実際に、最近公庫を活用して融資を受けた投資家の話から、公庫の特徴や融資の受け方、昨今の融資姿勢の変化について紐解いていきたい。

築50年前後の物件でも

「公庫は他の金融機関と比べると『事務的』という印象が強く、ある程度の担保評価が出て収支が回れば融資が引ける。自分の中ではどの金融機関よりもハードルが低いと感じます」

6棟51室を所有し、年間家賃収入3000万円という東京都のAさん(50代男性)は2015年10月と昨年2月、山形県と北海道の築古木造アパートを公庫の融資で購入。物件価格はそれぞれ2300万円と1770万円で、ともに耐用年数を超える期間で1%台前半のフルローンを引いた。「公庫の場合は融資期間や上限金額もある程度決まっていて、窓口は書類を受けるだけであとは『上』が決めるというイメージ。だから、融資の可否は担当者の質にもそれほど左右されない気がします」

公庫の大きな特徴は耐用年数をそれほど考慮しないこと。そのため、築古の高利回り物件を狙う投資家にとっては使い道が広い。アンケートの回答をみると、「残存耐用年数(法定耐用年数-経過年数)-融資期間」がマイナスとなる案件、つまり融資期間が残存耐用年数を超えているケースが80%に上った。

融資期間が短い分、CFを確保するため頭金が必要になるケースも多い。

埼玉県のBさん(30代男性)は昨年3月と8月、いずれも築50年弱の戸建てを公庫の融資で購入した。利回りは11%と12%で、金利2%台前半・10年という条件。「2物件ともフルローンを希望したんですが否認され、2~4割程度の頭金を入れました。フルローンだと家賃で返済を賄えるシミュレーションではなかったのが理由。公庫は他に収入があっても、その事業単体で収支が回るかを見ています」

女性の味方

通常、金融機関は年収や金融資産などの属性を踏まえて融資の可否を決めるが、社会的弱者の支援を掲げる公庫の場合、例えば安定した収入のない女性にも積極的に融資する傾向が強い。融資にあたって金利が0.4%引き下げられたり、借入期間が通常より長くできたりといった優遇を受けられるケースがある。

東日本在住のCさん(40代女性)は昨年11月、初の収益物件として築24年の木造アパートを購入。価格は1000万円、利回り25%の物件だった。「直前に仕事を辞めていたので当時は無職で、しかも自己資金もほぼゼロでした。築年数を考えても公庫以外無理だと思い、フルローンが通るようなら買いたいと思って、資料なども全て1人で用意して持ち込みました」

結果的には、1.3%・10年のフルローンという条件で融資を受けることができた。「担当者の方がどうすれば融資が通りやすいかなど親身になってアドバイスしてくれて、物件の収支に問題がないこと、これから働く意思があることなどを丁寧に伝えたら、申し込みから2日程度で融資が決まりました。社会的弱者の支援という名目は大きいということを実感した経験でした」

今でも「20年」で引けているケース

公庫での借入期間については、かつては20年まで延ばせることも多かったが、スルガ銀行の不正融資問題などの影響で、投資家からは「一律10年になった」という声が目立つ。実際に、今回のアンケート回答者の中では10年以内の融資期間が6割を占めた。返済期間が短ければその分、頭金を入れないと採算が合わなくなるため、持ち込める物件の基準が以前より高くなっている状況がうかがえる。

現在でも「20年」という期間で融資を引けているのは、何かしらの要因があるケースが多いようだ。

東京都のDさん(30代女性)は昨年10月、初めての物件として埼玉県の2700万円の木造アパートを購入した。築30年で利回りは12%。「信託銀行やノンバンクに打診したら金利が3%台と高かったので見送ったんですが、公庫に持ち込んだところ『立地もいいので余裕でいけますよ』という反応でした」

やはり融資期間については当初、「10年しか無理です」と言われていた。「でも幸運だったのが、たまたま仲介会社の営業マンと以前付き合いのあった担当者がその支店にいたんです。その担当者が不動産融資に積極的だというので紹介してもらったら、なんと『1.55%固定・20年』という好条件になって、周りのオーナー仲間からも驚かれました。『他の担当者では20年は無理です』と言われたので、同じ支店内でも担当者によって違いがあるというのが発見でした」

「最長でも20年」のリスク

公庫は融資期間が延びにくいため、収益性の高い物件を持ち込むことが必要になってくる。短い返済期間で収支が回るかどうかをシビアにシミュレーションしなければ、一転して窮地に追い込まれてしまうリスクもはらんでいる。

福岡県のEさん(40代男性)は年収350万円の会社員。昨年6月、初めて融資を受けて北海道の築34年、2000万円の木造アパートを購入した。「この2年ほど前から買える物件を探していたんですが、地銀や信金は門前払いで、どの仲介会社に相談しても『この年収では無理です』と言われていたんです」

あきらめかけていた時、ホームページで公庫とのパイプをアピールしていた不動産会社を見つけ、すぐに問い合わせた。「私の年収でも公庫なら買える物件があるという話で、それがこの北海道のアパートでした。その不動産会社がツテのある兵庫県の支店に話をつけてくれて、1.9%・20年で2350万円のオーバーローンという条件ですぐに融資が実行されたんです」

公庫にはその不動産会社と出会う前、知人オーナーの紹介で物件を持ち込んだこともあった。「その時は10年までしか無理と言われて見送ったので、パイプを持つ不動産会社の紹介はこんなに強いんだと実感しました。私が福岡在住で、不動産会社は東京、物件は北海道、公庫は兵庫ということで、面談や契約での移動にかなり苦労しましたが、受けられてよかったと思いました」

しかし、その後が問題だった。「購入時の入居は6室中4室で、2室分は1年間空室保証がつくという話だったんですが、購入から3カ月で空室保証の会社が倒産して入金が止まったんです。さらに公庫を紹介してくれた会社も倒産してしまい…。今は6室中5室の入居でCFはプラスですが、2室空けば赤字という状況です」

借入期間が20年とはいえ、安定収入のためには満室を維持していく必要がある。「その仲介会社が収支シミュレーションを作ってくれたんですが、見せてほしいと言っても断られたので、少しおかしいと思っていたんです。事業計画書も私の作ったものを修正し、私に見せずに提出していた。初めての物件だったので知識が不足していた面があるのですが、業者に任せきりなのは問題だと感じます」

金利0%台のワケ

公庫の融資金利は時期や属性、利用する制度によっても変化する。今回のアンケートでは、1%台前半~2%台前半で融資を受けたという回答が大半を占めた。

中には0%台の金利で融資を受けている投資家もいる。

東京都のFさん(60代女性)は昨年5月、都内の区分マンションを公庫の融資で購入した。「夫がいくつか物件を買っていたんですが、ある日、買取再販業者が営業に来て、その時に教えてくれたのが公庫でした。夫だと事業者なので逆に金利が高くなり、収入がないほうがむしろいいという説明。他の金融機関だとあなたは融資がつかない、と言われたんです」

本業の収入は約200万円。40年ほど付き合いのあるメガバンクには相手にされず、別の地銀にも断られ、単独で公庫に持ち込むことを決めた。「その前に顔つなぎとして公庫のセミナーに参加し、事業計画書の書き方などを教わりました」

4月の面談で持ち込んだ物件は都内の駅徒歩4分という好立地。「その買取再販業者がいくつか紹介してくれた物件があったんですが、シミュレーション上はすべて月のCFがプラスだったので、月のCFがマイナスになるシミュレーションでは借りられないのだろうと感じました」。金利1.2%と仮定し、管理費を引いても月のCFがプラスになるように必要な頭金の額を計算した。

「周りから返済期間は10年だと聞いていたので、物件価格1660万円のうち約5割の頭金を入れると自分の方から伝えたんです。すると、担当した女性が『ちょっと待っていてください』と上司と話をして、持ってきた条件は『0.84%固定・15年7カ月』というもの。80歳になるまでに完済できればいいという期間だったんです。買取再販業者は『公庫なんて1人で行くと門前払いですよ』と言っていたので、結果を伝えたらびっくりしていました」

この好条件で融資を受けられた要因は何だったのだろうか。「夫の年収が比較的高くて後ろ盾がしっかりあったこと、立地が良く担保価値がしっかり評価されたこと、最初から頭金を入れる前提で話を持ち込んだこと、自分自身も空室発生時に返済を続けられるだけの収入があったこと…などでしょうか。セミナーに参加したことも講師の方は該当の支店に伝えておくといってくれていたので、その効果があったのかもしれません」

事業計画書に社会貢献目的

公庫に融資を打診する際は事業計画書を提出する必要がある。本人の経歴や物件の収支、空室対策、修繕の見通しなどを記載し、将来にわたる事業性をアピールすることが重要になってくる。融資を受けている投資家たちは、どのような事業計画書を提出しているのだろうか。

東京都のGさん(40代男性)は昨年12月、初めて公庫から融資を受け、茨城県の築48年の木造戸建てを1400万円で購入した。「公庫とツテのある業者から、事業計画書について『投資という言葉を使わない』『物件購入の目的をはっきり書く』『事業の継続性をアピールする』などとアドバイスされました。築古戸建てなので、『安い家賃で生活できる環境を整えられる』という社会貢献的な内容も盛り込んだところ、金利1.5%・10年という条件で受けられました」

神奈川県のHさん(40代男性)も昨年12月、初めての収益物件として築40年の戸建てを公庫の融資で購入。「周辺で同じようなスペックの競合物件15件ぐらいの情報を調べてまとめ、シミュレーションも2.2%・10年の想定で厳しめに行い、物件価格700万に対して230万の頭金を入れました。もっと出すと言われても断るつもりで…。担当の方からは『普通は質問すべきことが全て書いてあるので質問はありません』と言われ、希望通りの条件で受けられました」

「これなら貸せる」という条件をそろえる

これまでの実績を事業計画書で明確にアピールすることで、好条件で融資を引いている投資家も存在する。

高知県在住のIさん(60代男性)は昨年6月、5棟目の収益物件として築25年、1500万円の重量鉄骨アパートを購入した。購入時は18室中11室が空室という状況だったが、公庫からリフォーム費の一部を含む1800万円を1.3%・10年という条件で融資を引いた。リフォーム込みの利回りは26.5%となった。

「当然ですが金融機関が心配するのは、本当に返済できるのか、収支が回る計画なのか、ということ。なぜ、こんなに空いている物件を買うのかという理由付け、満室までのストーリーがしっかりしていれば稟議書も書きやすくなります」

これまでに公庫で3棟購入しており、賃貸経営の実績が裏付けになっていると語るIさん。「一昨年9月にも6室中5室が空室の木造アパートを購入したんですが、どのようにリフォームをして、どういった設備を付けて、どんなステージングをして、いつまでに満室にする、というプレゼン資料を作ってオーバーローンを引き、実際に昨年6月に満室にしました。その時と同じ担当者だったこともあって、今回もスムーズに借りられたと思います」

今回アピールしたのは学生需要。「エリアに国立大があって、毎年進級でキャンパスが変わる学生たちが部屋を探すんですが、このエリアの学生向け物件の家賃が少し高めで、他の地域に流れていることが分かった。リフォームして無料Wi-Fiを導入し、現況の地域相場家賃より少し下げて募集すれば競争力が高まると感じ、間違いなく来春には満室になります、と伝えました」

9月の募集に合わせてリフォームを仕上げ、読み通り空室全てに入居予約が入った。「公庫は都道府県によっても担当者によっても対応が違うし、資産背景にもよるのでケースバイケースですが、しっかりと実績を作ったうえで、金融機関がこれなら貸せる、という条件をそろえて申し込むことが重要だと考えています」

Iさんが実際に提出した事業計画書。物件の現状や空室対策などが記されている

今回紹介したのはあくまでも個別の事例で、公庫の場合は支店によっても融資姿勢は大きく異なる面がある。持ち込む物件次第で効果的な使い方ができることは確かだが、短い返済期間の中で安定した収支が実現できるか綿密にシミュレーションしなければ、採算が合わず苦しい状況に陥る可能性があるのも事実。その特性を把握したうえで、自らの視点で収益性や事業性をしっかりとチェックし、将来を見据えた投資判断を下すことが重要になってくる。

(楽待新聞編集部・金澤徹)

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