不動産会社に問い合わせをすると、「物件概要書」と「レントロール」が届く。一見、物件の情報が羅列されているだけのその紙には、指値につながるたくさんのヒントが隠されている。

物件購入時の「指値力」を学ぶ連載第4回目は、いよいよ実践編。3つの物件サンプル資料を、3人の投資家がどう読み込み、どこに指値のチャンスを見出すのかを検証する。「売り出し価格」や「入居者の情報」、「間取り」などからも、交渉相手である「売主」の情報を予想していく。記事を読みながら、自分ならどう予想するか是非考えてほしい。

<取材協力>

築古大家のコージーさん
2012年から不動産投資をはじめ、築古物件に集中投資し、家賃収入が本業の収入を抜くほど規模を拡大する。戸建て5軒、テラスハウス6軒、1棟アパート5棟を所有。京都で20戸全部屋空室のアパートを購入し、1年で満室に再生した経験を持つ。

地主の婿養子大家さん
大手不動産会社で売買仲介営業の経験を経て専業大家となり、投資歴13年で総投資額24億円。一棟マンション、一棟アパート、戸建など220戸を所有、稼働率は98%を維持し、年間家賃収入は約2億円に上る。

安藤新之助さん
総投資額15億6000万円、年間家賃収入1億3500万円、保有物件数10棟173室。所有する10物件の金利は3年~10年固定で、0.6%~1.3%と驚きの条件で借り入れに成功している。「融資獲得アドバイザー」として、楽待新聞の連載企画にも出演中。

※以下の資料はすべてサンプルです。
※エリアは検討条件から除いています。

ケース1. バブル崩壊直後に建てられた、大学生向け物件

物件概要書(クリックして拡大)

muko

この物件が建てられたのは平成4年とちょうどバブルが弾けた時期。当時「不動産は儲かる」と唆された地主が建てたアパートかもしれない。「物件名」がハウスメーカーのシリーズの名前であれば、その可能性がより高いです。バブル崩壊後に売れず、物件を保有していたけど、家賃も下がってきたから売却しようとしているなら、指値はしやすいかも。

waka

法定耐用年数超えの物件なので、建物の価値はほぼないですね。上物に価値がないなら解体費用も指値の金額に含めたい。第一種低層住居専用地域には厳しい高さ制限がありますし、更地にして戸建て用地として売る…が最終的な形でしょうか。

kado

近隣の家賃相場を調べると、1Kで広めの部屋が4万円で出ています。対してこの部屋の家賃は、3万円未満。売主は家賃を下げて空室を埋める施策をとった投資家か、管理会社のいいなりになっている地主か…。投資家なら臨機応変な対応ができる人で、交渉しにくいかも。

waka

この物件、3点ユニットなんですね。家賃で勝負するか、リフォームするかですが…。おおよそ1室50~60万円×10部屋で600万円かかります。リフォーム費用を指値の理由にすることもありますが、「3点ユニットのままでも入居が付いてるから」と反論されるかもしれないな

レントロール(クリックして拡大)

waka

丁寧に書いてありますね!私はこういう「小綺麗な資料」よりも、地場の不動産会社が書いた、少し雑な資料の方が指値チャンスがあると感じます。積算価格とかが書いてある資料は親切ですけど、そういう不動産会社は収益物件に詳しく、価格交渉がしにくそうなイメージ。 ただ、地場の不動産会社は面倒くさいことが嫌い。「この資料も見せてください」とか、手間がかかることを言いすぎると「もうお前には売らん!」ってなっちゃうから注意です(笑)。

muko

この契約期間は「更新日」じゃないか確認したいですね。レントロールに書かれた「契約期間」に書いてあるのが、賃貸契約の期間とは限りません。会社によっては「最新の賃貸契約の更新日」になっている可能性も。丁寧な会社は「賃貸契約を結んだ日」と「更新日」を分けているので、不動産会社に確認したいです。

waka

生活保護を受けている方が3名入居しているので売主は投資家でしょうか。空室を臨機応変に埋めていますね。気になるのは204号室。「入居者の親族が病死」となっているのに、家賃設定は他の部屋とそこまで変えていない。指値するなら、この部屋の家賃減額分も含めて、厳しめの家賃設定から利回りを算出し直します。個人的には告知物件は買いませんが…。

muko

「一度誰かに住んでもらうと告知義務がなくなる」と言われていますが、それは不動産会社や投資家が勝手に作っているルール。204号室のことを知った他の入居者が退去する可能性もあるし、売却後に問題になった事例もあります。告知物件を買うなら、そのリスクを把握した上で安く買う。この物件は正直2000万円以下くらい安くないと買う価値がないです。

kado

部屋によって保証会社が違うのも気になります。管理会社が変わっただけかもしれませんが、○○保証会社で通らず、審査が甘い▲▲保証会社で通したのかもしれない。入居者の属性が下がっている可能性がありますね。保証会社によっては「独立審査」といい与信を調べていないところもあると聞くので、不動産会社には「どこの保証会社ですか」と質問します。

ケース2. レントロールが「空欄だらけ」の狭小アパート

物件概要書(クリックして拡大)

muko

売り出し価格を5300万円に設定していますが、300万円の値引き分を想定して「5000万円」で売りたい売主の思惑を感じます。初心者のうちだと「5300万円の物件を300万円値引きできた!」と買ってしまうかもしれませんね。指値をするなら売主の思惑以上に安く買わないといけません。

kado

利回りが7.99%ですか。本当に売りたい物件だったら「利回り9%」とか見栄えのいい利回りに設定する気がします。この物件は「この金額で売れたらいいな」と考えている売主かな?それだと指値はしづらいですね。

waka

路線価から計算すると、土地値が2500万円くらいですね。売り出し価格との差額で考えると、半額以下…。これで買いますとは、さすがに言えないです(笑)。こういう物件は、そもそも指値をいれても無駄かもしれません。

muko

狭い土地なのに容積率が200%だから、無理やり8戸を建てていますね。部屋数が多いと利回りは表面上は良くなるから売りやすい。業者が建てて、初心者に売り逃げした物件だと思います。駅から遠いし部屋の狭さから空室になったら埋めづらそう。売主は運営が苦しくて、値引きはできない状態なんじゃないかな。

レントロール(クリックして拡大)

waka

レントロールの情報が少ないと読み取れる情報が少ないですね。物件購入だけでなく、指値をするためにも、情報は必要です。空白になっている「契約期間」等は不動産会社に確認しないといけません。リスクを事前に把握して、それを担保できるよう安く買うことを目指します。

muko

レントロールに詳しく書いていないということは、何か隠したい理由があるのかも。高く売るために無理やり満室にしていて、ばれないように隠したとか? 私は疑い深い性格なので、怪しいと感じてしまう…。怪しい会社だと「何名かは長く入居している人がいるそうですが、契約書がなくなって、今は更新の書類しか残っていません」とか言ったりします(笑)。

kado

3840万円、利回り10%になるよう指値をして、融資期間20年、月々のキャッシュフローが約10万円残る計算になります。ただ、この時勢では15年の融資期間が限界になるので、やっぱり買えないですよね。本当に買いたい場合は、物件の調査と同時に金融機関にも打診しにいきます。

muko

記事では社名が伏せられてしまうけど、この仲介会社は「財閥系」の不動産会社ですね。これは指値するチャンスです。財閥系の不動産会社は、銀行のお客様の所有物件を扱うことも多い。メガバンクのお客様ということは「地主」や「地元の経営者」が連想されます。そういう人は素人のことが多く、価格交渉できる可能性が高いですね。

ケース3. 大手ハウスメーカー施工のサブリース物件

物件概要書(クリックして拡大)

waka

この物件は唯一、面白そうだなと思いました。施工会社が大手ハウスメーカーなのもいいですね。ハウスメーカーなら建物のトラブルやクレームに対応してくれますし、建物の安全性も確保されていると思います。

kado

投資家なら大手ハウスメーカーで物件を建てず、安い施工会社を自分で探すはずだから、地主が建てたと思います。安いところなら坪単価で30万円くらい建築費用が浮きますし。間取りは1Rが4部屋に2DKが1部屋ですか。投資家だったら、2DKにせず1Rを2部屋作りますよね。その分賃料がとれますから。でも地主だったら自分の住む家がありそうなものを、アパートに住むのかな…可能性は色々考えていきますね。

waka

2DKの部屋はオーナーが住んでいる可能性が高いです。下手するとクレーマーになる可能性があるから、買うとしたらこの部屋からは出て行ってもらいたいですね。自分の所有物をワケがあって売るのだから、人によっては新しいオーナーをやっかむことがあるんですよ…。だからここは情け無用、契約時に前オーナーの退去いただくことを条件にいれます。

muko

この9.0%という表面利回りは「サブリースの賃料」で計算した場合かどうかを確認したいですね。サブリースの賃料であれば、元々の賃料から1割から2割差し引かれているはず。サブリースが外せた場合、賃料アップが狙えるかもしれません。

レントロール(クリックして拡大)

kado

サブリース契約が外せるならいいかもしれないですが、サブリースの契約次第ですね。引き渡しと同時に解約できる場合もありますが、口頭だけで確認せずに、書面を確認するべきです。サブリースの解約と同時に入居者も全員退去してしまったという話も聞いたことがあったので。

muko

サブリースの場合、家賃が減ることはあっても、増えることはないです。私なら購入しないですね。もし購入するとしたら、サブリースを外す特約をつけます。サブリースを外すと、サブリースにかかる費用がなくなるため、年間賃料は300万円ほど。駅徒歩3分の立地やハウスメーカー施工という点も踏まえると、2700万円の利回り11%で買ってもいいんじゃないでしょうか?

waka

家賃の開きが気になります。この場合、2DK以外のすべての部屋の家賃を3万4000円と仮定して、利回りの計算をし直します。そうなると年間賃料は約230万円。どれくらい指値をするか考えるときは、収支は厳しく見ます。そうなると指値する額は大きくなりますが、この売主さんは利回り9.0%に設定しているから売りたいのかも。ひょっとしたら交渉ができるかもしれないですね。

登記簿謄本(クリックして拡大)

muko

この物件だけ登記簿謄本があるんですね! 最初の売主は絶対、地主。高齢の方に多いような名前、例えば平仮名や片仮名の名前だったら、その可能性が高いです。加えて大手ハウスメーカー施工だから、相続税対策で建てたんでしょうね。

waka

地主が建てた物件だけど、謄本をみると今の所有者は投資家かな? 今買おうとしても指値はあまり通らなそうですね。基準となるのは、2500万円の借入。金利2.20%でまだ購入から2年しか経過していないから、元金はあまり減っていないと予想されます。そうなると、残債+αを取り返したいという売主の思惑があるでしょう。残債があるとそれ以上の指値は厳しいので、ちょっと様子見ですね。

muko

今の所有者に渡る前に買いたかった! 相続して1年で売却しているということは、物件に愛着が全くない。相場も知らないでしょうから、大きく指値ができるチャンスでした。こういう物件を見つけられると大きいですね。

このように、物件概要書やレントロールからは「売主像」や「思惑」など、交渉に必要な材料やチャンスを見抜くことができる。築古大家のコージーさんは「物件資料をもらったら、どんな物件かを予想します。実際に内見に行くときは、もう検討しきった後で、確認作業をするだけです。予想が外れることもありますが、当たっていたら自信を持って交渉に臨むことができます」と話す。

いまだ不動産価格は高止まりしている状況で、先安感から足踏みをしている投資家も多いが、その中でも「チャンス」を見抜く力があれば、良い物件を購入できるかもしれない。

(楽待新聞編集部・尾藤ゆかり)

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