「右目のここんとこ、分かります? 試合で眼窩底骨折をやっちゃいましてね。いまもプレート入ってるんですよ」。
あっけらかんと話すのは、弁護士にして総合格闘家、そして不動産投資家でもある堀鉄平氏だ。8名の弁護士を擁する弁護士法人を率いる立場でありながら、40歳を超えてなお、過酷な総合格闘技のリングに上がり続けている。
不動産投資家としては、都心・駅近に絞って土地を仕入れて新築するというファイトスタイル。戸建から一棟レジ、ホテルまで手がけ、これまでに25億もの売却益を得ている。異色すぎる三足のわらじを履きこなす堀氏に、投資哲学を聞いた。
一番強いヤツは誰か、それが知りたいだけ
─弁護士と格闘家と不動産投資家…どの肩書きも興味深いのですが、まずは本業である弁護士について教えてください。どうして弁護士を目指そうと思われたのでしょう
堀 弁護士になった理由は…司法試験に受かったからですかね(笑)。26歳で合格して、28歳から弁護士をやっています。弁護士を志した理由は正直あんまり覚えてないんです。たぶん大した理由はないですよ(笑)。
─では格闘技について伺います。なぜ弁護士をやりながら格闘技を?
PRIDEとかK-1って分かりますか? テレビで全国放送されていた格闘技の大会なんですが、単純にそういうのが好きだったからかな。別に昔から喧嘩ばかりしていたとか、そういうわけではないです。
学生時代から格闘技をやりたいなとは考えていて、司法試験に合格した後、司法修習生をやりながらブラジリアン柔術の道場に通い始めました。それからは柔術のアマチュア大会に出続けていたんですが、あるとき前田日明さんがプロデュースする「THE OUTSIDER」というイベントの募集を見つけて、自分で応募しました。

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─格闘技ファンは多いと思うのですが、弁護士という本業がありながら「自分でもやってみよう」と考える人は多くないと思います
何事も自分でやらないと実感として分からないでしょう。今日の本題である不動産投資もそうですが、自分の意志に基づいて、自分の判断でやった人だけが成功する。格闘技もテレビで見るのと実際にやるのとでは全然違うはずだから、好きなら自分でやってみよう、という発想です。何事も当事者意識があるほうが楽しめるし、人生の醍醐味が増えると思うんですよね。
─格闘技の魅力を一言で言うと
一番強いのは誰か、それを知りたいっていう男の本能が満たせるところです。僕たち格闘家には「ノールールで殴り合ったら一番強いのは誰なのか?」を知りたいという欲求が常にある。格闘技にもいろいろありますが、そういう意味では何でもアリの総合格闘技が面白い。だから続けてます。ちなみに今も現役で、今年も試合に出る予定です。

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6年間で25億の売却益
─ではそろそろ本題の不動産投資の話に。堀さんの投資手法を教えてください
都心で駅近の土地を買って、一棟レジを新築、それを売却してキャピタルゲインを得るというパターンがメインです。私はこれを「開発型の投資」と呼んでいます。もう少し詳しく言うと、他の人が買えないような「凹み」のある物件を探して安く買い、その凹みを元に戻して売却する。
都心で駅近の土地に絞っているのは、「持ってよし、売ってよし」という投資ポジションを取っているからです。新築後、金融機関の融資が出ていて、景気も好調という市況なら売却、そうでなければ無理に売らずに賃料を受け取り続ければいいわけですからね。
─現在までの投資総額と売却益はどのくらいになりますか
すでに売却した物件だけで言うと、投資総額は約54億円、それらを売却して得た利益は約25億円になります。ただし、全てが自分の資金で投資したものではなく、ファンドとして友人と資金を出し合って投資した案件も含みます。
現在保有している物件は区分が10戸、一棟ビルやレジが9棟、戸建3戸、ホテル5棟、開発用地6件、海外区分が3戸。資産総額は時価で78億円、借入が32億円ほどになります。
開発案件を除いた保有物件の賃料収入は月額約2700万円で、借入返済が1450万円ほどですね。開発案件が多いので、保有物件のキャッシュフローはあまり気にしていないです。ちなみに不動産投資を本格的に始めたのは2012年ごろのことです。
─なぜそのような開発型の投資手法をとっているのでしょうか
高利回り物件を買い集めて安定した副収入を得る、というやり方は性に合わないというか。空室リスクや修繕費を考えながらコツコツ運営していくというのは、かける労力と得られるリターンが見合ってないと感じてしまうので、興味が持てないんですよ。
もちろん、そうした投資を否定するつもりはありませんが、不動産投資の世界では、エンドの投資家より不動産業者の方が明らかに儲けていると感じている、ということも関係しています。
─どういうことでしょう?
以前、港区にある12坪の築古ビルが売りに出されていたときのことです。その物件は僕の中では2億円ちょっとで買えれば売却益が出せそうだなと感じたので2億円で買い付けを入れたのですが、結局買えず、どうやら3億円くらいである業者が買いました。その後、2~3カ月後にその物件の概要書が別の業者から送られてきたんですけど、価格を見たらなんと8億円でした。
─3億円で買った業者が、売却までの間に5億円乗せていたということでしょうか
しかも売却までに特別なバリューアップをしたというわけではなく、残っていた1テナントの立ち退きを完了させただけです。もしエンドの投資家がこの物件を8億円で買ったとしたら、立ち退きの手間を5億円で買ったようなものですよね。
─エンドとして割高な物件を買うより、自分で土地から仕入れて売却した方が利益が大きいと
先ほどの例はかなり極端なので公正な取引とは言えないと思いますが、少なくともエンドの立場からすれば、こうした不動産業者が用意する「パッケージ商品」を買って回していくというパターンが多いわけですよね。
それなら更地を買って自分で価値を高めて、それを売ったり、保有していたりした方が儲かる。私の場合、そういう理由で、開発型の攻めのスタイルでやっています。
─現在はかなり大規模な取引をされていますが、不動産投資を始めてからどのようなステップを経てそこまでたどり着いたのでしょう
もともと不動産については完全に素人だったんですが、2012年ごろ、居住用に購入したマンションが大幅に値上がりしたのをきっかけに不動産の魅力を知りました。数千万の含み益が出て、「これ弁護士報酬の何年分だろう」と(笑)。それから港区の六本木を中心に築古のビルや事業用地を買い進め、売却益を得てきました。弁護士法人とは別の法人に宅建士を雇用して事業にあたっています。
─どこかで規模拡大につながる大きな売却案件があったのですか
金額は伏せさせていただきますが、2013年ごろに六本木で購入したある土地は、隣地を所有していた大手デベロッパーが「道路拡張で土地が必要になる」と高値で買い取ってくれました。
ちなみにその後、売却で得た資金を使って、同じく六本木に古ビル2棟と土地を1件購入しています。1つは30坪程度、もう1つはその隣地にある20坪程度の古ビルで、どちらも耐用年数超えで融資が付かなかったのでキャッシュで買いました。さらにその隣には40坪の更地があり、これは融資が付いたので融資を受けて購入しました。合計90坪で、総額9億円ほどの投資ですね。
─その物件は現在どうなっているのでしょう
購入時から4年後くらいにはすべて建て替えて開発をしようと考えていたのですが、古ビルにはまだテナントが入居しているので、いまは立ち退きを進めているところです。立ち退きが完了したらどうなるか、先日ちょっと査定してもらったんですが、17億くらいにはなりそうということでした。こうした古ビルは好立地にもかかわらず容積率を十分に消化できていないケースもあり、建て替えでそれを解消できれば価値が大きく上がります。
─その物件にも「凹み」があったということでしょうか
この物件で言うと、立ち退きが凹みに当たるでしょうね。築古で耐震性が不足しているとか、賃料が取りにくいとか、修繕費がかさむといった凹みは建て替えさえできれば解消されます。ただ、ご存じの通り借地借家法は賃借人を保護する目的が強く、立ち退きは容易ではありません。
すべて説明すると長くなるので詳細は割愛しますが、この凹みを戻す方法としては、「裁判で解決する」「話し合いで解決する」「長期戦覚悟で相手のミスを待つ」などが考えられます。
この物件の場合、賃借人の方に説明とお願いをして、普通借家契約から定期借家契約に切り替えてもらう、という方法で進めていきました。
─他に、融資が付かないこともその物件の凹みと言えますね
もちろん、物件に凹み、つまりリスクがある分、融資は厳しくなります。逆に言えば、フルローンが出る物件は買える人も多いので、競争の激しい物件ということになります。私の場合、リスクがあって、銀行の融資が付きそうもない、ライバルのいない物件を買う。だから安く買える。その代わり自己資金を用意する必要があるわけですが。
─規模的に大手のデベロッパーがライバルになりそうですね。どうやって大手と勝負するのですか
実は私が狙っているような100坪以内くらいの規模の土地には、大手デベロッパーは興味を示しません。この規模の土地は穴場なんですよ。ちなみに売却時の主なターゲットはREITです。都心・駅近・新築・レジという条件が揃った物件は、大手のREITが好みますから。REITと付き合いのある仲介者に依頼するのですが、このあたりは人脈がないと難しいかもしれませんね。
─ただ、5億円ものキャッシュを用意できる人はそうそういませんね…
まあ、確かにそうですね。私の場合は先ほどお話した売却で得た資金があったことや、本業の弁護士法人で利益が出ているというのが大きいかもしれません。でも、例えば金額を1桁減らして同じ考えを当てはめることはできると思いますよ。5億円ではなく5000万円の凹み物件を見つければいいんですから。
─法的な知識がないと凹みのある物件を戻すのは難しそうにも思えます
そんなことはないと思いますよ。専門知識が必要な部分は外注すればいいだけです。ただ、誰に外注すればいいかという感覚は必要でしょうね。設計については建築士、賃料査定は不動産業者、法的知識は弁護士、という具合です。
例えば境界が確定していないという「凹み」のある物件を見つけたのであれば、これを土地家屋調査士に依頼したらこのくらいの費用で境界確定ができるから、それを差し引いてシミュレーションすればいいわけです。
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