楽待新聞編集部は今回、1法人1物件スキームを使った経験のある投資家約50人にヒアリングを実施。りそな銀行以外にも、「東海地方の信金で土地決済後に別法人の借入が発覚し、安値で土地を売却することになった人がいる」「某メガバンクは昨年からこのスキームについて全件調査しており、だます意思があった場合は強硬姿勢になる」「ある銀行に『資産管理会社を隠していた』と決めつけられ、原則は一括返済だと言われた」などの情報があった。

なぜ、ここにきて各金融機関が一斉に1法人1物件スキームへの対応を硬化させているのか。前出のアンダーズさんは「このスキームで一気に規模を拡大したものの立ち行かなくなっている人が増加する現状の中、その『不良債権』を放置して対応しない場合は金融庁から何らかの処分が下る可能性があると金融機関側は考えている。本音を言えば融資の量を減らしたくはないが、いずれ金融庁の検査が入るならその前に調査して潰していこうと動いているのでは」と推測する。

こういった突然の態度の変化について、3年前までりそな銀行に勤務していた男性にも話を聞くことができた。

「私が耳にした情報だと、りそな銀行は昨年ごろに億単位の金をかけて、1法人1物件スキームについて調べるソフトを導入し、徹底的にチェックしているようです。おそらく、悪意を持って多額の借入を隠していたケースが発覚したなど、何らかのきっかけがあって方針を転換したのでは」と男性。一方で、「返済が滞っていれば強硬に対応するかもしれませんが、一括返済や金利引き上げについては、それほど現実的ではないかなと思っています」と語った。

一括返済の妥当性は

金融機関側が一括返済を求めることに妥当性はあるのだろうか。

融資にあたって投資家と銀行は「銀行取引約定書」を締結するが、この中に「期限の利益喪失」という条項がある。「期限の利益」とは、期限の到来までは債務の履行を請求されないという債務者側の利益のこと。債務の隠ぺい等が重大な虚偽事項と判断される場合は、この「期限の利益喪失」に該当し、一括返済のような対応に発展する可能性がある。

1年前までメガバンクに勤務していた楽待コラムニストの投資家SAさんは「期限の利益が喪失するか否かは、同条項のうち『請求喪失』にあたる『経営上の重大な変化の報告義務違反や、財務状況を示す書類に虚偽の内容がある等の事由』に該当するかどうかでしょう。ただ、仮に一括返済を求めたとしても多くの債務者は一括では返せない。物件を競売にかけても全額回収することは容易ではないですし、銀行にとってはよほどのことがない限り、期限の利益を喪失させるよりは分割返済を続けさせて回収していく方が得策だと思います」と語る。

「例えば他の法人を調べて債務超過の法人が見つかったりした場合は、債務者区分を正常先から要注意先以下に引き下げる可能性もある。そうなると貸倒引当金を積み増さなければならないので、金利引き上げを求めることはあるかもしれません」と指摘。「かなり悪質な手段で融資を引き出している場合などは債務者区分が実質破綻先まで下がるようなことも考えられ、そうなると金融機関側にメリットがあるかないか以前に、不良債権として回収に専念する対象になります」

一括返済を求められても「無理」

他の法人が健全に運営されていたとしても、1法人1物件スキームの利用者に調査の手は伸びているようだ。

「今年に入っていきなり、りそな銀行の担当者から電話があって、『他の法人ありますよね?』と聞かれました。私は嘘がつけないタイプなので、思わず『はい、3つあります』と答えてしまって…。法人購入したどの物件も収支は問題なく回っていますが、これからどうなるのか怖いです」

東日本在住のEさん(30代男性)はそう振り返る。2016年にりそな銀行から個人で一棟物件の融資を引き、2017年ごろから3カ月ほどの間隔で、それぞれ新設法人を作って1億円前後のRCマンションを3棟購入。2、3棟目は地元の信金、4棟目はりそな銀行から融資を受けた。

「銀行側に他の借入が見られていたら引けていないということももちろんありますが、このスキームを使った一番の目的は消費税還付。1億5000万円の物件なら、税理士報酬などを差し引いてだいたい700万円ほど一気に戻りがあるので、それを再投資に回すことで規模拡大が早まりますから」

当時について「銀行側から別の法人について何も聞かれなかったから何も答えなかっただけ」と振り返る。「今回、りそな銀行の担当者に聞かれたときは、当時は他に法人があると言っていなかったのでまずいな、と思いました。ただ、『はい、3つあります』と答えたら、何一つ驚く様子もなく『では、3法人の決算書を提出してください』と言われたので、同様のケースがたくさんあるのかな、と。もし一括返済を求められたら『無理です』というしかないですね」

「28法人で80億」

各金融機関が調査の動きを強めている1法人1物件スキーム。しかし、現状では代表者名や法人所在地が違う場合、金融機関側が紐づけて債務額をチェックするのは困難という見方もある。

東京都在住で、総投資額約80億円、所有物件40棟600室、年間家賃収入7億6000万円の「レーサー投資家」さん(50代男性)は、2015年から1法人1物件スキームで急速に規模を拡大。トータル28法人で24金融機関から融資を受けている。

「不動産投資については書籍での勉強を3、4年した後、2015年にある業者と出会いました。年収の部分で引っかかってしまって、向こうの主導で『最初からこのスキームでいくしかない』ということになった。このスキームがいいとか悪いとか考える間もなく、『じゃあ次のはこの銀行で、新しい法人作っておいてください』と指示されるので、どんどん行くしかなかったんです」

当時は毎週末に物件見学を行い、売買契約や金消契約を週2、3回こなすことも。1棟目から1年足らずで10棟を購入し、総投資額は20億円まで拡大。それ以降、知り合った別の複数の業者からも買い付けを続け、4年で総投資額80億円に達した。「全て別の法人、別の地銀でフルローン、オーバーローンを引いていましたが、特に2015、16年は融資について困った経験は一切ありません。勉強する時間が長かったので、変な物件を掴むことがなかったことは良かったと思います」

全て本社所在地を変えて登記しており、りそな銀行の融資で購入したのは1物件のみ。「去年の11月にりそな銀行から連絡があって、担当者と上司2人が来て面談しました。『他に法人ありますよね?』と言われて、『どこのことですか』と見せてもらうと、たまたま私が慌てていて自宅を本社として登記していた妻名義の1法人だけでした。『これは妻の会社なので、会社の謄本を上げてください』と伝えたら、それで終わりました。私自身も業者を使って調べさせたんですが、本社所在地が異なる他の法人についてまでは調べられなかったみたいですね」

当時を振り返って「あの時代にこのスキームを使わなければこのスピードでの規模拡大は不可能だったから、拡大できる時期に拡大できたという意味では勝ちだと思っています」と語る。「りそな銀行以外から『他に法人ありますか』と聞かれたことはないですし、私の周りでも一括返済や金利引き上げをされたというケースは1人も知りません。ただ、今後も新設法人を作っていくかどうかは分かりません。そろそろ太い法人だけ残していくべきかとも考えています」

楽待新聞編集部はりそな銀行に対し、今回の件に関する質問状を送った。1法人1物件スキームの利用者の調査について、りそな銀行は「そのスキームにかかわらず一般論として、当社はお客さまにご提出いただいた資料に基づいて審査を行っており、万一新たな事象が判明した場合はあらためて調査を行った上で対応方針を見直す場合もある」と答えた。

「このスキームを利用する行為が重大な虚偽事項だと判断できる場合、期限の利益喪失に該当すると考えるか」という質問には、「銀行からのヒアリングに対して虚偽の回答を行ったような悪質なケースの場合、期限の利益喪失事由に該当する可能性はあるものと考える」との回答だった。

(楽待新聞編集部・金澤徹)

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