両親が元気なうちから相続対策を始めているという投資家もいる。中国地方に住む金井浩平さん(仮名)は、祖父が亡くなった際、遺産分割を巡って親族間の関係がぎくしゃくしているのを学生時代に目の当たりにしていた。当事者であった父もそのことを残念に思っており、自分の代で「争続」が起きないようにと、家族間で相続についてオープンに話し合う雰囲気づくりに努めていたという。

父はいまも健在だが、今後相続が発生した際に相続人となるのは金井さんと弟、そして母の3人。金井さんの一番の願いは、「家族みんなが仲良く助け合っていくこと」。家族同士が相続で争うようなことはとにかく避けたいと考えていた。そこで、父が元気なうちから相続の準備を進めることになった。

具体的に相続対策を始めたのは10年前、金井さんが40歳になったころのことだった。金井さんの父が所有する財産のうち、不動産は2000坪ほどの農地。市街化区域内にある農地(宅地化農地)で、固定資産税などは宅地と同程度となり、そのまま相続するとなると税負担はかなり重くなる。

そこで、まずは相続税対策から始めた。父が所有する土地の一部に建築費を借り入れてアパートを3棟新築し、評価額の圧縮と図ることから始めていった。融資を受けた分は「債務控除」として相続財産から差し引かれる。

アパートのほかに3基の太陽光発電設備も設置。残った土地は父の希望もあり、農地のまま持ち続けることにしているという。土地も建物も父の名義だが、将来、その土地を引き継ぐことになる金井さんが父に代わって手続きなどを主導し、管理も行っている。父の生前から相続対策を進められたのは、「やはり祖父の時の苦い経験があったから」だと金井さんは話す。


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争続の対策も

相続税対策の次は「争続」の対策だ。金井さんは、父の没後に揉め事が起こる可能性を少しでも減らすべく、3棟のアパートについては家族信託で管理するように準備を進めている。これも、金井さんの父が自分から「やろう」と言い出したそうだ。

家族信託は、財産の所有者(委託者)が健在なうちに、財産の管理を家族などの受託者に託すという財産管理の一手法。受託者は家賃収入などを委託者の意思通りに分配する。仮に委託者が認知症などを患った場合でも、受託者によって財産の管理や処分が行えるというメリットがある。

家族信託の組成手続きは難易度が高いと言われ、弁護士や司法書士などの専門家に依頼するケースも多い。しかし金井さんは、「自分でイチからやってみて、ちゃんと理解したい」と、諸手続きを自力で行っているという。

さらに将来、金井さんの母や弟、そして金井さん自身が亡くなったときの準備にも着手しているという。「弟には子がいませんから、母や私、弟がなくなったら財産は私の妻と3人の子が相続することになります。彼らにも、やっぱりもめてほしくない。だから、今からできることを少しずつ進めています」。

昨年末には初めての法人を設立し、妻を代表に、次男を役員に据えることにした。現在は金井さんが個人で太陽光発電を5基設置しているため、今後1年以内をメドに、法人所有で10基まで増やす計画だ。太陽光発電については「長男と長女にも、個人で2〜3基持たせたい」と話す金井さん。自分が動けるうちに、できるだけ資産を均等に分けていき、相続で争いが起きないように準備したいと考えている。

Case4 遺言書で家族以外に資産を残す

所有物件を家族以外に残したいというケースもあるだろう。収益物件を5棟所有する投資家の坂内康さん(仮名)もその1人。イレギュラーな相続に備え、先日初めて遺言書を書いた。

坂内さんには離婚歴があり、現在は別居しているが前妻との間に子供が1人いる。また坂内さんには現在、再婚を考えているパートナーがおり、その女性にも子供が1人いる。相手の女性とはまだ入籍していないため、現在のパートナーは相続に関する不安を度々口にしていた。

「遺言書を書くように、と何度も言われていました。今、私と彼女とは法的なつながりがありません。もしこの状態で僕の身に何かあったら、唯一の法定相続人である前妻の子にすべての財産が渡ることになります」


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最初は遺言書を書かされることにかなり抵抗を感じたという坂内さんだったが、「よく考えてみたら彼女の不安ももっとも」と思い直し、遺言を書くことにした。遺言の内容は、前妻の子と現在のパートナーの子に、1/2ずつ財産を分けるというもの。遺言書は自筆のものを用意した。坂内さんは行政書士の資格を所有しているため、遺言書の書き方には心得があった。

「法定相続分」と「遺留分」

ここで、遺言に関連するごく基本的な内容について少し説明しておきたい。相続時、各相続人に渡る遺産の割合は、民法に定められた「法定相続分」によって決まる。相続人が配偶者+子供という構成であれば、配偶者が1/2、残りの1/2を子供の人数で割るといった具合だ。

現在の坂内さんの場合、法定相続人は実子である前妻の子1人のみなので、法定相続分もすべて前妻の子のものだが、遺言書(民法の規定に沿った形式のもの)があれば、遺言書の内容が法定相続分よりも優先される。

ただし民法には、一定の相続人の最低限の取り分を保証する規定もある。それが「遺留分」だ。例えば被相続人が遺言書に、「すべての財産を愛人の●●に渡す」などと書いた場合、残された家族の生活に影響を来す恐れがある。そのため、法定相続人ごとに一定の割合が遺留分として保証されているのだ。

坂内さんのケースで言えば、前妻の子の遺留分は相続財産の1/2となる。そのため遺言でも、この遺留分を下回らない配分とした。

このように遺言書の内容は法定相続分より優先されるが、「遺言さえ書いておけばよいというわけではない」と坂内さんは言う。「遺言書は確かに法的な効力がありますが、こっそり書いておくだけでは後の争いの火種になる。関係する家族には事前にきちんと伝えておきたいと思っています」。

前妻には、現在自分には新しいパートナーがいること、また財産の配分についてこのように考えている、と、近いうちに伝えるつもりだという。

我が家の相続税はいくら? 早見表で確認 

相続への備えは資産背景などによって大きく異なるが、少なくとも自分の家族がどれほどの相続税を負担することになるのかくらいは把握しておきたいところ。以下の表は、相続人が「配偶者」と「子」の場合の相続税額を示す表だ。なお、下表を使うには、預貯金などのほか、不動産などの課税遺産総額(表の一番左の列)は事前に計算しておく必要がある。

※平成27年の税率変更に対応しています

昭和55年以来約40年ぶりの大きな改正として注目を集めている改正相続法についても触れておきたい。昨年7月に成立し、今年の1月より一部施行となった。改正点を以下にまとめたので参考にしてほしい。

「配偶者居住権」の新設

改正前は、被相続人の配偶者が自宅などを相続した際、法定相続分を自宅の評価額だけで使い切ってしまい、現金などほかの財産が受け取れないことがあった。改正後は、自宅での居住を継続しながら、ほかの財産も受け取ることができるようになり、生活費の不安などが軽減される。

贈与・遺贈された自宅が遺産分割の対象外に

配偶者に自宅を贈与・遺贈した場合、現行制度では「遺産の先渡し」として取り扱われ、遺産分割時に受け取れる財産から差し引かれていた。改正後は婚姻期間が20年以上の夫婦であれば、自宅を遺産分割の対象外にできる。

自筆遺言書の方式が緩和、保管制度も創設

改正前は、遺言書、遺言書に添付する財産目録の両方をすべて手書きする必要があった。改正後は、財産目録についてはパソコンなどで作成できるようになる。また自筆の遺言書を自宅に保管していた場合、紛失や改ざんなどのリスクがあったが、これを法務局に保管できるようになる。

預貯金がすぐに引き出せるように

改正前、相続人は遺産分割が終了するまで被相続人の預貯金を受け取ることができなかったが、改正後は一定額であればすぐに引き出すことができるようになる。葬儀費用などが捻出しやすくなる。

遺留分制度の見直し

法定相続人の最低限の取り分である「遺留分」について、改正前は遺留分を求める「遺留分減殺請求」を行った場合、原則として現物で返還するものとされていた。改正後はこれを金銭で請求できるようになる。

「特別の寄与」の制度を創設

相続人以外の親族(相続人の妻など、相続人でない者)が被相続人の生前に介護などで尽くした場合、相続人に対して金銭を請求できるようになる。例えば相続人が長男(すでに死亡)、長女、次男であった場合、長男の妻は相続人とはならないが、介護等を行っていた場合に長女、次男に対して金銭を請求できる。

冒頭で紹介したアンケートでは、「親から不動産を引き継いで良かったと思うこと」についての質問項目も設けていた。回答としては、「初期投資なく大家になれた」「資産規模を拡大するきっかけになった」「融資が厳しい時に担保として活用できた」といったものが目立った。

ほかに、「2度の失業を経験したが、親が残してくれた不動産のおかげで家族が路頭に迷わずに済んだ」「早期のサラリーマンリタイアが実現し、好きなことに打ち込めた」という回答もあった。財産は時として争いを引き起こすが、残された家族が不動産から受ける恩恵は大きい。せっかく遺した不動産で後の世代が苦労をすることがないよう、準備をすすめておきたい。

(楽待新聞編集部・坪居慎太郎)

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