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東京に「湾岸エリア」と呼ばれる地域があります。もちろん「湾岸」という地名があるわけではなく、東は千葉県幕張あたりから、西は神奈川県のみなとみらいぐらいまでを指すことが多いようです。湾岸エリアには近年、急速にタワーマンションが増え、まるで香港か上海、ソウルにやってきたかと見まがうほどの林立ぶりです。

一方、脚光を浴びる湾岸エリアに対して、東京には古来、「山の手」と呼ばれる住宅街があります。昔から高級住宅街といえば、山の手です。

今回は、東京で人気の高い「湾岸」と「山の手」の不動産について、土地の成り立ちからその価値を考えてみたいと思います。

規制緩和が火をつけた湾岸のタワマンブーム

なぜ、湾岸エリアには短期間にたくさんのタワーマンションが立ち並ぶようになったのでしょうか。

タワマンブームに火をつけたのは1996年ごろの小泉政権の施策だと言われています。小泉純一郎首相は首相就任後次々と公共工事をとりやめ、当時の建設業界は頼みの綱である公共工事をぶった切られて青息吐息の状態に陥りました。その一方で大都市法を改正し、都心部の容積率を大幅に緩和。再開発を強力にバックアップしたのも、小泉政権の時のことです。

当時は1ドルが80円を切るような厳しい円高が続く中で、日本の製造業は中国をはじめとするアジア諸国に続々と工場を移し始めていました。そうして、湾岸エリアにあった工場は閉鎖されていったのです。

これに目を付けたのがデベロッパーでした。以前は工場街にマンションを建設することなど、住環境の観点からはありえなかったのですが、広大な敷地で容積率が大幅に緩和された結果、超高層マンションの建設が可能になったわけです。

敷地が広ければ、共用部を広く確保して快適な共用施設を用意し、1棟で数百戸から1000戸を超える分譲戸数が確保できます。そうして、マンション内にコンビニやクリーニング店なども備え、1つの街として生活を演出することに成功したのです。

これまで都心部の分譲マンションは高額すぎて手が出なかった比較的若いファミリー層も、都心の職場に30分以内で通勤できる住宅を比較的リーズナブルな価格で取得できるようになったのでした。

現代は、結婚をしても夫婦共働きが当たり前。両親が毎日都心部まで1時間以上もかけて通勤するような生活スタイルでは、子育てにも支障を来します。湾岸タワーマンションであれば、通勤が便利なうえにマンション内にも保育所などが充実しています。これも、タワマン人気に火をつけた要因でした。

なぜ山の手は「良い土地」なのか

では、「山の手」エリアはどうでしょうか。

東京では、もともと江戸城だった皇居を取り囲むように高級な街並みが形成されています。徳川家康が江戸に城を構えたころ、江戸城の東側は海でした。城の西には武蔵野台地と呼ばれる高台が形成され、徳川家の重臣や旗本たちが、台地の東端、現在の四谷、番町、麹町エリアに屋敷を構えました。

江戸幕府は諸藩の大名に対して江戸城下に屋敷を構えさせ、妻や子供を人質に取りました。江戸城に近接させることはできませんので、多くの大名は江戸城から少し離れた高輪や麻布、六本木あるいは本郷近辺の高台に屋敷を構えました。今でいう島津山、池田山、仙台坂、本郷の東大赤門は旧前田家の屋敷にあったものです。

江戸時代の地図。画像の下側(東)に海が拡がる(PHOTO: iStock.com/tupikov)

明治以降、江戸に入った薩摩長州の武士たちは徳川幕府の重臣や旗本の屋敷を接収して住むようになり、やがて外様大名の住んでいた屋敷跡に新興の財閥や文化人がこぞって住むようになりました。そういった意味で、東京の山の手エリアは江戸時代の武家屋敷の絵図から発展してきた古来の「良い土地」であることの証でもあるのです。

その後昭和から現代に至るまで、東京は人口が爆発的に増加したために鉄道会社が都心部から郊外へとレールを延ばし、その先に鉄道会社が開発した新しい住宅地ができました。成城学園や田園調布といった住宅地です。その意味では東京の山の手ブランド住宅地は、江戸時代の番町、麹町をさきがけに、本郷や高輪、麻布、そして鉄道会社によって開発された成城学園、田園調布とおおむね3つのグループに分類ができるのです。

東京大田区・田園調布の住宅街(PHOTO: iStock.com/oasis2me)

当たり前ですが、良い土地は人気があります。人気が高いということは値段も高いということです。またこれらの土地は、必ずしも交通の便が良いところばかりではありません。どちらかといえば駅などは下町側に多く、山の手高級住宅街は駅から少し離れているケースが多いようです。都内で、古くからの山の手住宅地の代表格である番町、麹町や麻布といった街は、地下鉄が通るまでは、都心部の中でもむしろアクセスの良くない場所でした。

何に優先順位を置くかによって選択は異なってきますが、いずれにしても不動産としての価値という側面からは、山の手は一つの安心ブランドと言えるでしょう。