PHOTO: yamahide/PIXTA

家賃は2万円台から、敷金・礼金・更新料はすべてゼロ。物件によってはペットも可で、最大3万円の引っ越し支援金と1カ月のフリーレントまで付いてくる―。築古物件とはいえ、ここまで入居者に手厚い物件にはそうお目にかかれないだろう。しかしこの物件、実は全国47都道府県に「ビレッジハウス」のブランド名で約10万戸も存在している。個人の不動産オーナーにとってはまさに脅威となる存在だ。

また今年に入ってからは、インドのホテル大手OYO(オヨ)とヤフーが共同で展開する「OYO LIFE」が、初期費用なし、かつ入居から退去までをスマホ1台で完結できるサービスをスタートし話題となった。彼ら業界の新規プレイヤーは、個人オーナーにどのような影響を与えるのだろうか。

「急に空室が埋まらなくなった」

 「ビレッジハウスという物件について何か知っていることはないか」。投資家で楽待コラムニストの三浦隆さんは昨年の夏頃、投資家仲間からこんな質問を受けた。

その知人は、青森県や栃木県に物件を所有する投資家。築古物件を再生して低価格帯の賃料で入居者を募り、8~9割ほどの稼働率を維持していた。ところが昨夏を境に突然、空室期間が長引くようになり、稼働率も6~7割程度に落ち込んでしまった。不審に思い管理会社に確かめてみたところ「ビレッジハウス」のブランドで展開する物件と競合になっていたことが分かったのだという。冒頭でも触れた「ゼロゼロゼロ」物件だ。

初期費用が格安で低家賃、さらに引っ越し費用などサポートも充実しているとあれば、入居者がそちらに流れるのは必然。「その知人は幸い、かなり安価に物件を購入していたため返済が滞るといった事態は免れている」(三浦さん)ものの、稼働率は未だ低迷しているという。

三浦さんは知り合いにビレッジハウスの関係者がいたため、以前からその存在は知っていた。「昨年、大手の管理会社と業務提携しており、リーシング力が強化されていると思います。自社のWebサイトでも入居を受け付けていて、その場合は仲介手数料も無料になる。既存の個人オーナーで、かつ近隣に同物件があるなら、何かしらの対策を考える必要があるかもしれません」。

不動産賃貸業界に突如現れた「ビレッジハウス」。全国賃貸住宅新聞が毎年発表している「管理戸数ランキング」2018年版では、同物件の管理会社である「ビレッジハウス・マネジメント」が新たに952社中トップ10にランクインしている。名だたる不動産業者が名を連ねるランキングに割って入ったビレッジハウスとは何者であり、またどのようにして約10万戸もの物件を全国に展開できたのか。

1戸あたり61万円、「雇用促進住宅」の再生物件

実は同物件は、かつて厚生労働省の管轄下にあった「雇用促進住宅」と呼ばれる公営住宅を再生したものだ。遠方へ就職が決まった者が新たな住まいを確保できるまでの間、低価格で住宅を貸し出すことなどが目的で、昭和の中頃から建設が進み、全国に十数万戸が用意された。

しかし2007年、稼働率の低下や修繕費がかさんでいたことなどから、当時の政府の方針で事業の廃止が決定する。既存の物件は一括競争入札にかけられ、民間に委託されることになった。

一括入札が行われたのは2016年のこと。ここで同物件を落札した米国の投資ファンド「フォートレス・インベストメント・グループ(以下、フォートレス)」が、これらをビレッジハウスとしてリブランドし、現在に至っているというわけだ。物件の運営は、フォートレスグループのビレッジハウス・マネジメント社が行っている。

旧雇用促進住宅は全国に点在していたため、一括競争入札は西ブロックと東ブロックに分けて行われ、その両方をフォートレスが落札している。落札価格は西ブロック(1638棟、59904戸)が約366億円、東ブロック(1271棟、戸数不明)が約248億円。西ブロックの落札価格を戸数で割ると、1戸当たりの価格は約61万円とかなり破格であることがわかる。

少々ややこしい話になってしまったが、経緯を簡単にまとめると、米国のファンドが大資本で安価かつ大量に旧雇用促進住宅を購入し、リブランドして一般向けに安価で貸し出している、というのがビレッジハウスの全容だ。このために、前出のような築古再生系の個人オーナーに影響が及んでいると考えられる。なお2017年12月、フォートレスはソフトバンクグループに買収され子会社化している。

個人で買った投資家も

ところで、「旧雇用促進住宅」を購入、再生したのはフォートレスだけではない。楽待新聞にも「swee17885」の名でコメントを寄せている個人投資家の男性は2016年1月、フォートレスが落札する以前に行われた同物件の競争入札に参加し、これを落札している。物件は築40年程のRCで全40戸、これを2棟取得した。

「価格は120台分の駐車場も含めて2棟で約6000万円程でした。間取りはすべて3DKです。全80戸なので、1戸あたり約75万円で買えたことになりますね」

購入当初の稼働率は80分の4とかなり低く、そのうちの60~70戸は10年以上も入居がない状態。そのため内装や配管、屋上防水の劣化が進んでいるなど難易度の高い物件だった。加えて、競争入札への参加資格として「宅建業者であること」「購入後8年間は売却しないこと」という条件が付いていたこともあり、落札できたのかもしれない、とsweeさんは言う。

画像はイメージ(PHOTO: スイマー/PIXTA)

築古物件再生の経験もあったというsweeさんは、物件の取得後、これまでの再生で得たノウハウを生かし、全室のリフォームに取り組んだ。水道の配管は交換となると高額になるため高圧洗浄を繰り返し行った。またバランス釜を撤去してユニットバスへの切り替えも行った。こうして最小限かつ必要十分の修繕を、約4000万円の予算で完了させた。

賃料は、低所得者層をターゲットにして約3万5000円に設定。周辺には3DKの物件がほぼ存在せず、数件あった2DK物件の賃料相場も5万円前後だったことから、リフォーム後は順調に入居が決まっていった。5階建てでエレベーターがないことがネックとなり4階、5階はかなり苦戦したものの、現在は満室にこぎつけている。諸費用やリフォーム費を含め総額約1億円の投資に対し、年間賃料収入は約3000万円だ。利回りにして29%と、sweeさんが所有する全15棟の中でも優秀な稼ぎ頭となった。

「安く買えたことももちろんですが、3DKとファミリー向けの物件であり、また周辺の似た物件よりも大幅に家賃を抑えたことで、長期入居が見込めるのが大きいです。このエリアでは負けにくい状態だと思います」(sweeさん)

ここまでは個人投資家による物件再生のエピソードだが、これをビレッジハウスに置き換えてみると、大資本を持つ企業が個人オーナーに限りなく近い手法を取り、全国に展開していることになる。既存の個人オーナーにとってはやはり見過ごせない状況であろう。