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地球以外に、生命は存在するのか。地球以外で、人類をはじめとする生命は生きていけるのか。そもそも、生命はいつ、どのように誕生したのか。
こうした壮大で、途方もないように思える課題に取り組む「宇宙生物学(アストロバイオロジー)」という研究分野を知っているだろうか。
だれしも1度くらいは、「宇宙人はいるのか」や「火星や月に住めるのか」といったロマンあふれる疑問を抱いたことがあるかと思う。こういった疑問を学問に落とし込み、日夜、調査・分析・実験を重ねているのがこの研究分野だ。
急に「宇宙」の話が始まって驚いた人もいるかもしれない。実はこの春、「楽待」を運営する株式会社ファーストロジックは、東京工業大学地球生命研究所(ELSI)の「宇宙生物学」に支援をすることを決めた。「ファーストロジック・アストロバイオロジー寄附プログラム」として設置される。
4月5日、この寄附プログラムを担当する藤島皓介特任准教授に、宇宙生物学研究の最前線について講義を行っていただいた。その模様とともに、宇宙生物学とは何か、なぜこの研究をファーストロジックが支援するのか、ということをお伝えしたい。
「アストロバイオロジー」の3つの研究分野
藤島氏によると、アストロバイオロジーとは、「生命の起源…生命がいつ、どこで、どのように誕生したのか」「生命の分布…地球の外にも生命はいるのか」「生命の未来…人間は、どこまで生命圏を広げられるのか」という3つの問いを追求する学問だ。
例えば、土星の衛星である「エンケラドゥス(エンセラダス)」の内部には水が存在することがわかっているが、この水を調べたところ、塩や有機物、二酸化炭素が見つかっている。
「つまり、地球の海と一緒だということです。ひょっとしたら、いままさに生命が誕生しているかもしれないのです」
これをより詳細に調査するのも、藤島氏の研究の1つだ。具体的に言うと、エンケラドゥスの内部の水と岩石が反応した際にできた有機物を、探査機を使って採取しようとしているという。だが、この探査機がエンケラドゥスの付近を通過する際にはマッハ18(秒速6キロ)の速度が出るため、この探査機が壊れずに通過できるかの実験もしているそうだ。
藤島氏は慶應義塾大学大学院で博士号を取得。2011年から2016年まで、NASAエイムズ研究所の研究員も務めていた。同時代には、人類が火星などの宇宙環境に移住をした際に、どうすれば持続的に生きていけるのか、という研究を行っていたのだという。
なぜファーストロジックが支援するのか
しかし、ファーストロジックは不動産投資ポータルサイトを運営する企業。なぜ、まったくかかわりのなさそうな宇宙生物学の分野を支援するのだろうか。
これについて、ファーストロジック代表取締役社長の坂口は「人類に貢献できる最も重要な研究であるにもかかわらず、国や企業からの援助が少ないという現実が、寄附の決め手です」と述べる。
ファーストロジックは、企業理念として「社会の発展に貢献する」を掲げる。生命起源の追求などを行う宇宙生物学の研究への支援は、この理念に適うものであるとしてCSR(企業の社会的責任)活動の一環として支援を行うことを決めた。
「短期的には当社の利益にはなりません。しかし、長期的に考えれば社会の利益となり、結果的に当社が属する市場の活性化や、優れた人材の採用につながる。結果的に我々の収益となると考えています」(坂口)
宇宙生物学を研究する意義
藤島氏は、宇宙生物学の意義の1つを「地球外生命が見つかれば、人々の意識を根底から覆すインパクトがあります」と語る。
「我々以外に太陽系に生命を見つけられれば、太陽系以外も生命で満ち溢れているという考え方もできる。そうすれば、『暗くて寂しい』というイメージの宇宙は、生命で満ち溢れた明るい空間になる。そうした、人間の意識に対して非常に大きなインパクトを与えられる学問だと思います」(藤島氏)
同時に、それによって新しく社会が構築され、人類の方向性が新たに始まるとも言う。
「少なくとも、地球外生命を見つけたその日だけは、地球上で戦争が止まる。そう思いませんか。それはやっぱり、人類にとってすごく大きいことだと思うんです」

藤島皓介・東京工業大学地球生命研究所特任准教授
「火星の土地は誰のもの?」「辛い時宇宙に思いを馳せるのは?」
講義では、質疑応答の時間も。多種多様な質問が飛んだため、その一部を紹介しよう。
宇宙に関するちょっとした疑問から、研究者の思考まで、学びになるQ&Aだ。
―仮に地球外生命がみつかったら、その「生命」はこれまでの定義で言うところの「生命」なんでしょうか。それとも、まったく新しい「生命」の定義が誕生するんでしょうか。
まさに、それがNASAもJAXAも頭を抱えている問題です。つまり、「何を見つけたら生命が見つかった」と言えるのか。我々が知っているのは地球生命1種類だけで、それを基に探索しに行かなくてはいけないので、かなり色眼鏡をかけているんじゃないかというのが問題になっている。だから、現在はとにかくデータをとろうとしています。幅広く、大きく構えましょう、と言うのが現状で、今の質問に対しては答えが出せていないんです。
―火星への移住という話も聞きますが、不動産投資の観点から言えば、火星の土地は誰のものになるのかということが気になります。
宇宙法というのが制定されつつありますが、実は誰のものか決まってはいません。月については、さまざまな国が権利を主張し合っていますね。どこにも帰属しないで共同で使っていくという方向性ですが、火星も同様でしょうか。でも、人類共通の土地、というのもおこがましいですが。
―宇宙を研究しているような人は、考え方や物に対する価値観も違うんでしょうか? 例えば「水はもう飲めない」とか…。
ちょっと違うかもしれませんが、僕は生物をやっていたおかげで、CMとかで言われる「これが体に効きます!」みたいなのは「エビデンスは出ていませんよね」と感じる。本当に体に効きますか、有意差がありますか、というのはいろんなデータのとり方があって、それをしっかりやっているかというのが重要になる。できれば真実に限りなく近い、正しい情報を提供していくのがどの分野においても大事だと思います。
―辛いことがあると宇宙に思いを馳せる人もいますが、こうしたセラピー効果は本当に宇宙にはあるんでしょうか?
我々が日々行っている活動は、地球というちっぽけな青い水と岩でできた球の上で起こっていることです。この地球は、天の川銀河で見れば、2000億から4000億あるうちの、光っている星のうちの1つに過ぎません。そう考えると、自分の存在は宇宙というスケールに対してちっぽけで、日常の小さなことはどうでもよくなるという方は多いと思います。
―先生自身は、悩みはないんですか?
ありません。これは宇宙のことを研究しているからではなくて、毎日の仕事、作業が、新しいことを発見するという作業だから飽きが来ないんです。常にアドレナリンが出て、楽しくて、わくわくしています。それが仕事になっているから、日常のささいなことが気にならないんだと思います。
(楽待広報部)
参照:ナショナルジオグラフィック
https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/web/19/022100005/022500003/
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