賃貸借契約に関する法律が「入居者保護」の性格が強いことは、多くの不動産投資家がご承知の通り。トラブルのある入居者であっても、貸主側から退去させるにはハードルが高いのだ。それを悪用した、「追い出されないギリギリのライン」を突く悪質な入居者に泣かされたオーナーも、決して少なくはない。

だが、そんな「借主有利」な中で、「貸主有利」の性格を強く帯びているものもある。その1つが「定期借家」制度だ。すべての入居者を疑ってかかる必要はないが、オーナーとしての一種の防衛策となるこの制度、その中身や契約のポイントについて、判例も参考に弁護士に解説してもらった。

「必ず契約終了できる」定期借家制度とは

賃貸借契約には大きく分けて2種類ある。1つが「普通借家契約」、そしてもう1つが「定期借家契約」だ。

定期借家契約では、定められた期間が満了すれば賃貸借契約は終了となる。つまり、契約の更新がなされないことを前提に結ばれる契約だ(再契約をすることはできる)。

「普通借家や定期借家について規定している『借地借家法』は、もともと貸家の少なかった時代に、借主(入居者)が貸主(オーナー)によって強制的に追い出されないよう、保護していた法律の流れを汲んでいます。そのため、入居者保護の性格が非常に強く、賃貸借契約の更新の拒絶や、契約の解除が認められにくい傾向があります。また、認められたとしても、貸主が立ち退き料を相当額払わなくてはならない場合もある。ですが、これでは物件が市場に流通しづらく、貸主側も貸しづらくなってしまう。これを解消できるように作られたのが、定期借家(あるいは借地)制度です」

田中・石原・佐々木法律事務所の佐々木好一弁護士は、創設の背景をこのように語る。

認知・利用少ないがオーナー側のメリットは多い

この制度が創設されたのは2000年のこと。創設から20年近くが経過しようとしているが、国土交通省が4月16日に公表した「平成30年度住宅市場動向調査」によると、認知度は38.3%にとどまり、利用となるとわずか1.5%に過ぎない。

定期借家制度の認知度は、「知っている」「名前だけは知っている」を合わせても約38%にとどまる(出典:国土交通省「平成30年度住宅市場動向調査」

利用しているのは1.5%ほど。もっとも多くても2014年(平成26年)の3.2%だ(出典:国土交通省「平成30年度住宅市場動向調査」

オーナーにとって大きなメリットとなるのは、通常の普通借家契約では退去させづらい、滞納を繰り返したり、近隣とトラブルを起こしたりするような入居者を、期間満了とともに必ず退去させることができる点だ。

また、普通借家契約において期間満了時、あるいは期間途中で入居者を立ち退かせる場合、立ち退き料を支払わなくてはならない場合があるが、佐々木弁護士によると「裁判所が和解のために提示してくる立ち退き料の相場は家賃の1~2年分」。このような高額な出費、あるいは無用なトラブルを防ぐのに定期借家契約は有効だろう。

また、定める契約期間の縛りもないため、1カ月や2年、5年など、オーナーが自由に設定することができるほか、普通借家契約とは違い、期間中の家賃の減額交渉に応じない特約を結べるのもメリットの1つだ。

その反面、入居者からするとメリットが少なく、入居希望者が限られてくる。入居者を集めるために、家賃設定を相場より若干程度低く設定しなくてはならない場合もある。

定期借家契約を結ぶための2要件

定期借家について定められているのは借地借家法第38条だが、これによると、定期借家契約を結ぶためには、下記の要件を満たしている必要がある。

1.公正証書などの書面によって契約をしなくてはならない

2.建物の賃貸人が、あらかじめ賃借人に対して、契約の更新がなく、期間の満了により賃貸借が終了することについて、その旨を記載した書面を交付して説明しなくてはならない

これらが満たされない場合には定期借家契約とみなされず、万が一訴訟になった場合に、「普通借家契約」と判断されてしまうケースもある。佐々木弁護士も、「まさにここがトラブルになるところです。いつの時点で、どういった書類を交付し、どういう風に説明するのかがポイントになります」と解説する。

ここであらかじめ断っておくが、「すべて不動産会社に任せているから自分には関係がない」という考えは正しくない。もしこの制度を活用していこうと思っている場合には、オーナー自身も制度をしっかりと理解しておいていただきたいのだ。

なぜかというと、「定期借家契約」の説明は「賃貸人=オーナー自身」の義務であるからだ。もちろん実務上は重要事項説明などと同様、仲介会社の担当者らが担うことになろうが、これらもあくまで「賃貸人の代理人」として行うものである。

「賃貸人の代理人であると明記した上で説明を行わなくては、争いになった場合に『説明がなされていないため、普通借家契約である』と判断される可能性もあります。実際の説明は不動産会社に任せるでしょうが、もしその担当者がミスれば、損害を被るのはオーナー自身です。オーナー側もきちんと理解して、その会社がちゃんと制度や義務を理解しているか、チェックする必要があると思います」(佐々木弁護士)

実際に、重説の不備で定期借家契約とみなされなかったケースを紹介しよう。

〇2013年1月23日・東京地裁判決

物件のオーナーAが、定期借家契約で物件を貸していた入居者のBに対して、期間満了で契約が終了した物件の明け渡しなどを求めた裁判。Bは、「定期借家契約だと説明を受けていない」としてこれを拒否していた。

判決によると、オーナーAは、入居者との賃貸借契約締結のための行為をすべて宅建業者であるC社に委託し、定期借家契約の説明を行う代理権も授与。この説明については、重要事項説明書に盛り込んでいた。

ところがこの書面上には、契約の更新がなく、期間の満了により終了する旨の記載はあるものの、C社が宅建業者としての説明ではなく、賃貸人の代理人として定期借家契約についての説明を行う旨の記載がなかった

このため、東京地裁は「この重要事項説明書は、原告(オーナー)が賃貸人として交付すべき書面に該当するものとは認められない」と指摘し、定期借家契約を結んだというオーナー側の主張を退け、建物の明け渡しは必要がないとした。