初めての収益物件購入を、「融資獲得アドバイザー」の安藤新之助さんがサポートする企画。安藤さんのサポートで1棟目の購入を目指す中村圭哉さん(仮名・36歳)は前回の安藤さんとの面談を終え、楽待で見つけた名古屋市の一棟マンションに狙いを定めました。安藤さんのアドバイス通り、仕事の合間を縫って多くの金融機関にアタックした中村さん。その結果は?

<中村さんの属性>

名前

中村圭哉さん(仮名・36歳)

居住地

三重県

職業

会社員(東証一部上場メーカー)

勤続年数

11年

年収

770万円

自己資金

1500万円

扶養家族

妻(33歳・パート)、子ども(2歳、0歳)

購入を検討している物件>

所在地

愛知県名古屋市

物件種別

一棟RCマンション(築23年)

間取り

2DK×9

物件価格

8500万円

利回り

7.85%

「資産整理」は本当か

安藤
前回のアクションプランは、まずこの物件について売主の売却理由や管理状況などを確認することでしたね。

中村
不動産会社に売却理由を聞いたら、「資産整理」という回答でした。現状は満室で、周辺の客付け会社を回って現在のレントロールで賃貸需要はありそうだということは確認しました。

安藤
前回、利回り9%を目指して指値をするとなると、8500万円→7400万円に下げる必要があるというお話をしました。

中村
売主さんは8000万円台の買い付けをいくつか断っていて、7000万円台はあり得ない雰囲気とのことでした。その方は何棟か物件を所有していて、不動産にそれなりに精通しているようです。「資産整理です」という売却理由はそのまま受け取っていいんでしょうか?

安藤
仲介会社に管理会社がどこか聞き出し、その管理会社にヒアリングして本当に資産整理なのかを探りたいですね。管理会社、仲介会社が生の情報を知っていることもあるんです。例えば他にも借り入れが多かったりすると、謄本から残債を逆算したとしても安い価格では売れないケースがあるかもしれない。

中村
どんなふうに聞けばいいんでしょうか?

安藤
「今後購入するにあたって、教えていただきたいことがあります。御社の管理の諸条件も聞きたいです」などと、管理を引き継ぐ意向があることを伝えれば、いろいろと教えてくれやすくなります。情報だけもらいにいく姿勢では、簡単に聞くことはできません。

中村
管理会社に聞くのは嫌らしいのかな、というイメージがあってやっていませんでした。

安藤
ただ、ストレートに「本当に資産整理?」とか聞いても教えてくれないですよ。「設備が壊れた時、ここのオーナーさんちゃんと修繕してくれました?」とか探っていく中で、オーナー像が見えてくる。「ケチな人なんです」とか「実はお金に困っているみたい」とか。私も物件を購入する際は100%聞き込みをしています。例えば、買いたいと思っていた物件について仲介会社を回ったら、反社会的勢力が大勢入っていたことが分かった、というようなケースもあります。

中村
今度から実践します。

安藤
ところで、現地で見て気になった点はありましたか?

中村
1、2階はかなり日当たりが悪く、街の雰囲気的にも少し寂しい印象でした。市営住宅が数百メートル先にあって、その影響で家賃相場は下がりそうだ、とある銀行の人にも言われて…。

安藤
日当たりが悪くて家賃下落リスクがあるというのは指値の材料になります。客付け会社をいくつか回り、日当たりが悪いので現況の家賃相場だと難しいというエビデンスを取る。そのうえで、1室あたり5000円下げた状態で指値価格を逆算する、とか。

メガバンクDの「厳しすぎる評価」

中村
前回、9800万円のRCを持ち込んで「審査のテーブルに乗らない」と言われたメガバンクDに、今回の物件を打診してみました。

打診結果

■メガバンクD

・前回打診時は「借入後の純資産が5000万〜1億円残るのが最低ライン」
・今回は親の資産状況を開示したところ、ギリギリでステージに乗った
・物件の評価は4800万〜5000万円程度

安藤
大きな前進ですね。それにしても5000万は厳しすぎる。これだけ評価が伸びない要因は、やはりサラリーマンに対してネガティブなのか、担当者がすでに数値目標を達成していて無駄なリスクを取りたくないのか、上長の判断が厳しいのか、さまざまな要素が関わってくると思います。ただ、出せない自己資金を出せと言ってきているということは、基本的にこの案件はお断りという感じですね。

中村
もう少し小ぶりな物件でないと厳しいのでは、という話でした。

安藤
この銀行は駅から離れた物件でも融資が出ているのでいけると思ったんですが…。参考までに、評価が伸びない理由を直接聞いてもいいですよ。なぜダメだったのかを把握しておけば、あとあとに生きてきます。話は前に進んでいるので、案件次第では取り組んでくれるはず。地道に行きましょう。

地銀Aは「希望とかけ離れた回答」

中村
以前、9800万円のRCを「総合的な判断で」と断られた三重県の地銀Aにも打診しました。

打診結果

■地銀A

・指値前提の7700万円で打診
・前回対応してくれたNさんと直接会って物件について説明
・「担保評価は十分だが、収益性が銀行のストレス評価で不十分」との回答
・手持ちの現金を全て突っ込むと伝えたところ、7700万円で本部審査へ
・結果的には5700万円、16年以内という希望とかけ離れた回答

安藤
非常にシビアな回答で、自分の想定よりだいぶ厳しいので驚いています。ちょうど別のクライアントさんの案件をこの銀行で取り組んでいたんですが、ものすごく厳しくなっていて、融資姿勢が変わったのかな、という印象。不動産に対してのスタンスがネガティブに振れたのかなと。

中村
ストレスを掛けて収支計算した時に、利回りがもともと低くて厳しいというようなことを言われました。本部審査の前に実家の資産について聞かれて提出したんですが、サラリーマンへの不動産融資に対する厳しさをひしひし感じました。やはり実績がないと難しいんでしょうか。

安藤
少しリサーチしたんですが、属性もよくて実績もある人が持ち込んだ案件でも通らなかった事例もありました。同じ案件を翌日、別の信金に持っていったら即オーバーローンが出るぐらい、評価が出る物件だったんですよ。

中村
この地銀は耐用年数内がマストなので、築浅RCとなると金額も大きくなるからフルローンは厳しいかなという印象です。

安藤
関係はそのまま維持し、相談ベースで付き合っていってください。不動産に対する融資スタンスには波があるので、いつか積極的になる可能性もあります。

光がみえた地銀E

中村
それ以外に、メガバンク1行と地銀2行にも持ち込んだんですが、キャッシュ3割以上が前提とか、居住地が名古屋市周辺でないと無理とか、良い反応はありませんでした。その後、安藤さんから「不動産に積極的で満額回答の話もある」と聞いた三重県の地銀Eに電話でアポを取り、面談しました。

安藤
仲間の投資家や収益に強い不動産会社から、融資を出しているという情報を聞いて。実際に支店長ともお会いしましたが、案件は選ぶがサラリーマンでも取り組むという話でした。中村さんの名古屋の案件を説明したら、「このエリアだったらできればやりたいね」と前向きでした。

打診結果

■地銀E

・反応は上々で、十分評価も出るという話
・担当者は3カ月以上も売れ残っている点を疑問に思っていた
・人口減少で過疎化していくエリアではないかということも懸念していた
・面談後、審査中に別の人に買われてしまった

中村
人口減少リスクなどについて指摘された時、どういった回答をすればよかったでしょうか?

安藤
名古屋市のこの物件のあるエリア自体は車社会で、駐車場はちゃんと戸数分あって、条件を満たしているので競争力があることを伝える。それから、築23年経っていて、周辺の家賃相場からしても家賃の下落率は落ち着いていることを分かってももらうことも重要だと思います。

中村
なるほど…。

安藤
あとは何年持ったらリスクが限りなく少なくなるかの話をした方がいいです。残債が6000万円ぐらいになると残債利回りがかなり上がってくるので、そこでたたき売ったらよっぽどのことがない限りは買い手がつく、そういうリスクヘッジができます、というような形で。

中村
審査中に別の人に買われてしまったんですが、前向きに話を聞いてもらえたことは収穫でした。

安藤
中村さんの話を聞くと、良い担当者みたいですね。いろいろな金融機関で断られてへこむこともありますが、こういう担当者に出会うために頑張るんです。仲良くしていけば次の担当者にもつないでくれて、前向きにやってくれると思います。

中村
たまたま支店が職場と近かったので、同じ通勤経路という話でも盛り上がりました。

安藤
そういう関係性はすごく重要です。私は銀行訪問で、面談が終わった後の10分、15分の時間を大事にしています。緊張が解けた後の時間に共通の話題があると、距離が縮まるので。これまで、アウトドア好きとか、魚釣りが趣味とか、ウサギを飼っているとか、さまざまな共通点で担当者と良好な関係を築けています。

中村
持ち込む物件が出てきたら連絡を取るのか、それとも物件がなくても定期的に連絡を取った方がいいんでしょうか?

安藤
やっぱり案件を探すしかないです。こんな案件が出ました、と持っていった方が頑張ってる感じは出る。この物件なら買うから事前承認だけ取りたい、という形で持っていくといいです。

中村
本気度を見せることで関係を作っていくということですね。

安藤
不動産会社とパイプを持つ良い方法は、銀行の担当者に不動産会社を紹介してもらうことです。銀行は必ず不動産会社とのつながりがあるので、デキる担当者の周りには良い不動産会社がいる。不動産会社としても銀行からの紹介なら「買える客」だと思ってもらえるから、有利に進むはずです。