次に、入居付けについて考えていきたい。Bの家主代行の場合、オーナーはどのような方法で早期入居を実現していけばいいのだろうか。

芦沢さんは「相場賃料であれば結局、成約は本気を出したプロの腕とやる気次第」と断言する。「私の部屋を本命物件だと業者さんが考えてくれれば、成約しそうな顧客を一本釣りして、私の部屋より低品質・高価格の部屋を2、3件同行し、最後に私の部屋を見せてから店舗でクロージングして決める。『本命』になるためには自分と自分の物件の優先度を上げてもらうことが必要なんです」

入居付けの優先度を上げてもらうための一般的な手段は、懇意にしている管理会社に管理物件を集中させること。支払う管理料の総額を上げ、その管理会社の中で自分と自分の物件の地位を高める戦略だ。「ただ、区分オーナーの場合は普通の管理会社にこの作戦を取ったとしても、一棟物件のオーナーのようにVIP扱いされることはなく、ワンオブゼムのままになってしまう」と芦沢さんは言う。

では、どうすればいいのだろうか。「区分のオーナーがVIPになる方法は、創業間もなくて管理物件を欲しがっている小さな会社や、夫婦二人で区分管理だけをやっているような小さな管理会社に、その会社の得意エリアにある物件だけを集中させることです。ただし、そういった小さな会社は不安定なので、優秀な社員が退職してしまったり、管理以外の業態を始めて管理が手抜きになったりと、明らかに管理能力が低下した場合は別の会社に変える必要があります」

「空室が出たら最優先で」

区分の管理会社は既存会社の社員が独立して起業するケースが多いため、起業前からの関係性をうまく生かす方法もある。「起業時に投資家の紹介などでサポートしていた会社は、社長が『管理料も仲介手数料もいらない』と言って、空室が出たら最優先で1週間以内に入居付けするよう社員指導してくれていました。内装工事も業者の見積りのままでマージンゼロ。社長が変わった途端に特別扱いはなくなって見積りもとんでもない額になったので、契約を解除しましたが」

芦沢さんはこういった会社ではなく、全国チェーンの大手管理会社にも管理を委託している。「大手の場合は完全にオートメーションシステムで、何があっても平均点で淡々と回る。ただ、いわばロボットのようなもので、オーナー1人1人の名前なんて知らないし、『空室を埋めたら商品券』といった個別インセンティブなど通じない。大手でワンオブゼムとなってシステムに乗るか、小さな会社を転々としてVIPであり続けるか、どちらを選ぶかという判断になります」

入居者より営業マン目線

Cの一般管理やDの自主管理の場合は、空室対策を自らの判断で実行し、賃貸ニーズを肌で感じながらPDCAサイクルを回すことができる。

芦沢さんは自ら行う客付けについて「内見客より先に、まず営業マンに『この部屋なら案内すれば決まる、自分の成績につながる』と思ってもらうことが第一歩」という考え方。「広告料や謝礼を上乗せする前に、まずリフォームや設備などで賃料相応の商品価値に仕上げるのが基本。営業マンに『この価格でこの部屋は無理』と思われたら、大家がどれだけ頑張っても意味がない。目先のインセンティブに走りがちですが、まずは現場を見て問題点を把握することです」

空室が出た場合は、Cで管理してくれる複数の会社に一斉に客付けを依頼。真っ先に入居を付けた会社に管理委託することを繰り返していくと、客付けの力があって管理手数料不要の会社に物件が集中していく。「区分は一棟と比べて管理契約が重くない商習慣で、管理会社の乗り換えは嫌がられない。最悪の場合は1カ月程度の違約金を払って手切れし、実力のある管理会社に任せる方が合理的です」

管理会社の動きが鈍い場合、直接客付け業者を店舗ごとに回って広告料を提案し、シャワートイレやテレビインターフォン、サーモ水栓など差別化した要素の写真をつけた自作のマイソクを渡す。「マイソクを自作しても各社は自社のフォーマットに作り替えるので、入居者に届くことはない。私が作るマイソクは、入居者のためではなく営業マン向け。電話一本で連絡するオーナーと、自作のマイソクを持って店舗まで出向くオーナーとでは、見る目が全く違ってきます」

自作したマイソク。物件の差別化要素を写真付きで紹介している

定期的な御用聞きも欠かさない。「業者は個人のワンルームの1室など記憶に残らないので、週末や繁忙期を避けて夜間などに顔出ししています。一棟もののオーナーでは当たり前のことですが、区分でそこまでするオーナーは少ないので差別化できる。日ごろの営業活動の成果で、今では入居中でも『空いてませんか?』と優先的に連絡がくるようになりました。あとは電話がいつでも通じること。内見確認時に電話してつながらない大家は客付けのプロから相手にされません」

ワンルームならではの戦略的セルフリフォーム

昨年5月に定年を迎え、自由に動ける時間が増えた芦沢さん。フルタイムのサラリーマン時代は不可能だった現場作業ができるようになったことで、長年温めていたワンルームの戦略的なセルフリフォ―ムの実験を始めた。

「区分ワンルームの零細大家が差別化仕様の工事を依頼しても、断られるか非常に割高になり、繁忙期には工期を後回しにされます。私の所有物件は56戸全て単純なワンルーム仕様なので、同じノウハウで自ら現場対応ができ、効率的に最小のコストと時間で完成できる。設備品のアップグレードは知恵と技術があれば対応でき、一度施工すれば効果は入居入れ替え後も長年持続するんです」

昨年11月、この実験目的で、自宅から3分の距離で1991年築の区分を空室で購入。募集してすぐに4月から大学に入る女性の入居が決まったが、リフォームを依頼する職人が捕まらなかったため、さっそくセルフリフォームのモデルとして試すことにした。

インターネットで必要な部材を調べて購入し、2カ月ほどかけて電気周りから水道まで、一通り業者に力を借りずに修繕やアップグレードを行った。30年物の古い電気コンロを外してIHを設置し、ユニットバスにシャワートイレを付け、水道蛇口栓を最新のサーモ式に取り換え、シャワーはイオン水流切り替え式にするなど、全て独学で行った。

キッチンのビフォーアフター

「最新設備の業者用施工マニュアルや、プロが買う特殊な工具なども、今は全てネットで購入できます。プロは多種類の在庫や工具を持つ必要がありますが、私はほぼ同じ仕様のワンルームなので、一度覚えた工法は横転換でき、配電部材や水道配管径、ネジピッチなども全室で使い回せる。多彩な間取りの一棟物件だったら膨大な種類と金額になるので、これこそワンルームの強みだと思います」

古い玄関ドアチャイムをカラーインターフォンに変える作業は、管理会社を通すと5万円ほどかかるところ、今回は材料代9000円で30分以内で完了した。「こういった工事は建物の配線自体に手を加えなければ一般の方もしていいんですが、例えば裸の線を専門の工具でインターフォンの電源端子に固定するような作業は、私のように電気工事士資格を持っていないとできないので注意が必要です」

どれだけのコスト削減につながったのだろうか。「IHとユニットバス、キッチン、シャワートイレで通常は16万円ほどかかるところ、約4万円で済みました。業者さんは多忙ということで4月以降の工事予定でしたが、私は2月中に完成したので、時間の面でも前倒しすることができました」

この実験はその後も生きているという。「3月に5室退去が出たんですが、リフォーム依頼をかける前に全て申し込みが入ってしまったんです。もう入居者が決まっているので、今回も全て自分でリフォームしました。海外旅行用のスーツケースに部材と特殊工具を詰め込んで毎日電車で通い、3月中に完了。ただ、この方法をずっと続けるのは体力的に難しいので、それが新しい課題ですね」

長年の経験に裏打ちされた管理の最適化・グルーピングで、低コストでの満室経営を実現している芦沢さんだが、大前提として、貴重な上流情報を得て鉄板の立地に物件を購入していることを忘れてはいけない。長きにわたって満室経営を実現している実績があるからこそ、管理会社とも信頼関係を築けているのだ。芦沢さんの投資戦略や物件選びの方法などは、過去の記事で詳しく紹介している。

区分一筋22年、無借金で家賃年収3200万円を実現した戦略思考
「区分投資の生き字引」が語る「バブルと今」

(楽待新聞編集部・金澤徹)