これまで「勝つ管理、負ける管理」と題し、4回にわたって物件管理の基礎知識から管理会社との関係の築き方、自主管理のノウハウなどについて紹介してきた。過去4回は一棟物件や戸建ての管理を中心に取り上げてきたが、今回は番外編として「区分物件」の管理にフォーカスする。

話を聞いたのは、1990年代半ばから区分マンションの現金買いを続け、無借金で総投資額約3億円、家賃年収3300万円を実現した「区分のプロ」芦沢晃さん。長年の経験に基づく「管理のポートフォリオ」の組み方や「VIP顧客」になるテクニック、ワンルームの特性を生かした戦略的なセルフリフォームまで、20年以上にわたってほぼ満室経営を維持している秘密に迫っていく。

「ずさんな管理でスラム化する」は真実か

まず区分管理の基礎知識から確認したい。区分物件最大の特徴は、共用部を区分所有者による自治組織「管理組合」で共同管理すること。運営方法や修繕については管理組合が意思決定し、管理の実務は管理会社に委託するのが一般的だ。共用部の管理費は空室でも毎月払う必要があるが、管理人業務や定期清掃、クレーム対応などの手間を省ける。また、全戸のオーナーが支出する修繕積立金によって、共用部の修繕費用がいきなりオーナー1人に降りかかってくることはない。

ただ、一棟物件のようにオーナーの一存で建物の修繕やバリューアップを図れるわけではないため、管理に問題を抱えた物件を所有してしまうと、オーナー1人の力で大きく改善することが難しい面がある。「マンションは管理を買え」と言われる所以だ。また、区分所有者の中で実需入居者に比べて投資家の割合が多い場合、物件の管理状態への関心が薄いことから、ずさんな管理で物件のスラム化が早まるといった懸念が指摘されることもある。

しかし、芦沢さんは「30年ほどにわたって数千の区分物件を見てきましたが、スラム化して賃貸商品足り得なくなった建物はほぼ見たことがない」と断言する。「いくら投資用でも自分の資産がスラム化するのを望むオーナーはいないし、スラム化して賃貸価値がなくなっては管理会社も飯の種を失う。物件は管理組合、管理会社、入居者によって監視されているわけで、賃貸商品として稼働できる平均点の管理状態で保たれていくんです」

「管理のポートフォリオ」

この前提の上で、芦沢さんが区分管理で重要だと考えていることについてみていきたい。

芦沢さんは「区分物件の最大のメリットは、一棟物件と違って部屋ごとに管理手法を最適化できること」と語る。「同じ部屋でも入居者が変われば状況も変わるため、入れ替わるたびに最適な管理手法を選択することでコストと手間を省いて効率を上げる。つまり区分の管理で最も重要なのは、『入居者に合わせて部屋ごとに最適な管理システムを構築すること』です」

芦沢さんは現在、中古ワンルームを中心に55棟・56室を所有しているが、管理手法は以下の4タイプを使い分けている。

■A:家賃保証
毎月家賃の10〜15%程度の手数料で、空室時でも家賃を保証。更新料や礼金は業者の取り分となる。オーナーの手間がかからないのがメリットだが、保証額が減額されるなどのリスクもある。

■B:家主代行
毎月5〜7%程度の管理委託料と、入居時1カ月分・契約更新時0.5カ月分の手数料がかかる。家賃回収やクレーム対応、修繕などは全て管理会社が行う。

■C:一般管理
毎月の管理委託料は発生しないが、管理会社が簡単な家賃催促や退去立ち合い、内装リフォーム、クレーム対応なども行ってくれることがある。契約更新時の手数料は管理会社に支払い、入居者募集などはオーナー自身も行う。
 
■D:自主管理
Cに近いが、家賃回収から退去立ち合い、クレーム対応、内装リフォームなどほぼ全ての管理業務をオーナー自身が行う。

芦沢さんによると、所有物件の管理形態はA~Dが1:4:4:1程度の割合だという。「私が『Dでやりますから』と言って客付け業者さんに入居付けしてもらった後、その業者さんが『うちの方でもこれぐらいやりますよ』とCに移行してくれるパターンがけっこうあります。最近は競争が激化しているので、サービスの向上で物件を取り込もうとするケースが増えているようです」

芦沢晃(あしざわ・あきら) 1995年、担保割れの自宅マンションを貸し出したことをきっかけに不動産投資を始めた。現在は中古ワンルームを中心に55棟・56室を所有し、家賃年収は約3300万円。46歳で指名退職後、再就職した電気メーカーで勤務を全うし、現在は個人技術士業エンジニアの兼業大家。

「最適化」の考え方

「部屋ごとに最適な管理システム」はどのように判断すればいいのだろうか。芦沢さんの不動産投資経験を基に考えてみたい。

芦沢さんは1995年に自宅を賃貸に出したのが大家業の始まりだった。バブル崩壊後はローンが焦げ付いたAの家賃保証付き物件を買い、保証期間が切れればBの家主代行に切り替えて投資効率を上げていった。「管理形態は基本的に、実質利回りと自分が取れるリスクのバランスを考えて選んでいくことが重要だと思います。私の場合は最初の物件で自ら入居付けをして管理する練習をしたことで、のちのち業者の入居付けや管理能力が測れるようになりました」

購入後に別の管理形態に切り替えるケースも多い。「例えば物件近くの優良企業が寮として借り上げているのにAで管理されているような部屋なら、購入と同時にCに切り替える。逆に、自分が直接業者さん経由で埋めた入居者に手間がかかりそうであれば、後から管理会社を入れるかその業者さんに代行管理してもらう。また、もしBで買った物件に生活保護受給者が入居したら、行政から毎月自動的に家賃が振り込まれるように契約してCに切り替えてもいいんです」

区分は同じ建物内で部屋ごとにオーナーと管理が分かれているため、トラブル時は権利関係が複雑になる。例えば自分の所有する部屋で漏水が発生した場合、自分と自分の部屋の入居者・管理会社、下の部屋のオーナー・入居者・管理会社、さらに管理組合、共用部管理会社といった利害関係者が絡んでくる。「専有部同士や専有部と共用部など、複数の利害関係者にまたがる問題が発生する物件は、共用部管理会社に専有部管理もまとめて任せた方が良いこともあります」

家賃保証システムを活用した「裏技」

Aの家賃保証はオーナーにとっては安心できる管理形態だが、手数料が高いという問題がある。しかし、芦沢さんによると「使える会社が限定されますが、空室リスクを抑えながら手取りを増やす『裏技』もある」という。

「例えば、家主代行から家賃保証への切り替えは前月までに連絡すれば可能、という場合。家主代行の状態で退去連絡があったら、すぐ家賃保証に切り替えれば従来の家賃の85%ほどで入金が続きます。そして次の契約更新時に入居がついていたら、家主代行へ切り替えれば入金額は自動的に上がり、業者が取っていた礼金と更新料もオーナーに入るようになる。同じ管理会社であれば空室時は家賃保証に戻れるので、空室リスクを抑えながら戸数を増やすことができます」

こういう管理会社には注意

管理会社を選ぶ際は、事業拡大の基本方針を見極めることが重要だという。「区分物件に重点を置いたまま管理戸数を増やす方針なのか、短期で一棟物件にシフトする予定なのか。例えば区分で管理戸数500室まで増えたら一棟にシフトする計画でも、表向きはあえて公表しない会社もある。そうなると、500室以降に区分の部屋を管理委託した場合、表向きは『引き受けます』と言っても捨て置かれる可能性があるので、会社としての大きな流れを見ておくことです」

管理物件を高めの家賃設定にし、空室を理由に過剰なリフォームを提案してくる会社にも注意が必要という。「初心者の方が見ると『こんなにきれいで家賃も上がってすごい』と思ってしまうんですが、その付加価値は会社と折半になる。私が運営しているような狭小区分ならそこまでしなくても入居は付きます。利益優先主義にシフトしていると分かった場合は、契約を切ることもあります」

大手チェーン系だと、不要なオプションメニューを提案してくるケースも多い。「例えば『芦沢さんの物件は3点ユニットなのでこのままじゃ入居がつきません。テレビも冷蔵庫も家具も置けば入居つきますよ』と言ってくる。どんな成功事例があるのかと聞いてみると、駅から遠く離れた木造アパートの話なんです。当然、同じ3点ユニットでも都心の区分と郊外の木造アパートでは全く違うわけですが、初心者大家さんだと分からないこともあると思います」