2018年1月にスタートしたマンガ連載「まりおが売った物件 今どうなってるの?」。これまで毎月1本のペースで掲載を続けてきました。ところが今年2月に公開された第13話を最後に、4カ月もの間更新がストップ。読者の中には、連載のその後が気になるという方もいらっしゃるかと思います。
そこで今回は、作者であるまりおさんにインタビューを実施。なぜ連載がストップしてしまったのか、この先に描きたかったストーリー、そして不動産への想いを語っていただきました。記事後半では物語のキーパーソンである「松崎さん」(実物)も登場。同じ物件でなぜまりおさんは失敗し、松崎さんは成功できたのか─。2人の「違い」を解き明かしていきます。
【30秒でストーリーをおさらい「まりおが売った物件 今どうなってるの?」】
不動産投資に失敗したまりおさんが、自身の経験をノンフィクションのマンガにしてまとめた人気連載。現在は物件を売却し、不動産投資を「卒業」したまりおさんが、今から約7年前の不動産購入時のエピソードから運営の苦労話、そして売却に至るまでを綴っています。
作中では主人公であるまりおさんのほか、買い主であり、実物をモデルに描かれた「松崎さん」が大活躍します。
連載の更新が止まった理由
─最新話(第13話)は、まりおさんの物件の買い主である「松崎さん」とお酒を飲みに行くシーンで終わっています。この後はどんな展開になる予定だったのでしょうか
まりおさん 不動産投資に失敗した僕(まりお)と、その物件を買って成功している松崎さんを対比しながら、「失敗者と成功者の違いはどこにあるのか?」を描きたいと思っていました。ストーリー的にはむしろここまでが前振りで、これからが本題だったんですけど…。

今年2月に公開された第13話の最終コマ。まりおさんが運営に失敗し、売却した物件の買い主である松崎さんと飲みに行き、その後の物件の運営状況について話を聞こうというシーンで終わっていたが…
─その後、現在まで連載が更新されていませんが…
僕はマンガを描くのにパソコンとペンタブレットを使っていたんですけど、実はそのパソコンが壊れちゃいまして。前からちょっと調子悪いなーとは思ってたんですが、今年の2月頃、ついに動かなくなってしまいました。
普通なら「じゃあ新しいの買えばいいじゃん」って思うでしょうけど…ローンが通らなくて。今はちょっと新しいパソコンが買えないんです。すいません。
─マンガの更新は止まっていますが、実際は松崎さんに物件を売却した後の運営状況を確認されたんですよね。その時はどんな気持ちだったのでしょう
一言で言うと、聞くのが怖かったです。あの物件にはとにかく苦労しましたから。ぶっちゃけ「失敗しててくれ」っていう気持ちもありましたよ(笑)。
でも松崎さんは本当にいい人だから、今は心から応援してます。売却後、僕の友人が住むところを探していた時は、松崎さんに入居者を紹介したこともありました。買い主がどんな人か知らないままだったら、今も「失敗しろ~!」って祈ってたかもしれませんね。
─買い主の松崎さんは作中でかなり個性的に描かれていましたが、実際はどんな方なんでしょう
マンガですからちょっとは大げさに描いてますけど、だいぶ本物に近いと思いますよ。実際丸顔だし、髪の毛もあんな感じです(笑)。
このマンガのことは松崎さんご本人ももちろん知っていて、喜んで読んでくれているみたいです。ストーリー作りにもすごく協力的で、当時のことをマンガにしやすいよう、長文のメールでメモを送ってくれていました。

作中では狂気が炸裂していた松崎さんも、実際には不動産好きの「いい人」
松崎さんはとにかく不動産が好きで、話し出すと止まらないんです。僕の知らないことをたくさん知っていて、尊敬できる人。年齢は離れていますが今も連絡は取り合っていて、毎年飲みに行ったり遊びに行ったりしてるんです。
─その他のキャラクターもなかなかインパクトがありました。まりおさんの物件購入、売却に関わった不動産会社の「浅井さん」も実在する方ですか
そうです。この方は初対面の時とにかく無愛想で、何を考えてるのか全然分かりませんでした。それを表現するために、首を傾けながらしゃべるという設定にしたんです。そんな感じで第一印象は最悪でしたが、その後深く付き合ってみるとすごくいい人でしたよ。まぁ、今はお付き合いがないというか、顔を見たくないですね。辛かったころを思い出しちゃうので…。

不動産会社の浅井さん。首を傾けながらしゃべるのは「無愛想で何を考えてるかわからない」というイメージを出すための設定だった
ほかにも僕の妻や娘、そして親友のいっくんなど、すべて実在のキャラクターです。いっくんは小学校からの同級生で、もちろん今も付き合いがあります。

親友のいっくんも実在の人物。これは税金が払えず窮地に立たされたまりおをカラオケに誘うシーン

妻と娘ののんちゃん
ちなみに妻や娘には、このマンガは見せてないです。妻は僕のやっていることが怖くてしょうがないみたいで、「あんまり私に話さないで」って言うんですよ。税金関係の郵送物なんかも、「見えちゃったらイヤだからその辺に置かないで」って。妻はマンガの通り厳しい人ですけど、僕が何を言っても聞かないからか、今はもうあきらめているというか、「勝手にやったら」という感じで応援してくれてます。
─ここまでの連載を振り返って、作者としてどんな感想をお持ちですか
自分で言うのもなんですが…たまに読み返してみると「よく描けてるじゃん」って思いますね(笑)。基本的には楽しんで描けていました。問題があったとすれば、この頃はすでに不動産投資に対する興味を失っていたってことでしょうか(笑)。思い出しながら描いてはいたんですが、なにしろ興味がないのでモチベーションが上がらない時もありましたね。
でも、連載の途中でいろいろとコメントが付くようになったのは嬉しかったです。励ましのコメントはもちろんですが、批判的なコメントも含めて。批判コメントを最初に見た時は「好き放題言ってやがる!」って思いましたが、やっぱりこういうコンテンツには批評がないと盛り上がらないじゃないですか。だからいい傾向だなって思ってました。読んでくださった皆さんには感謝しています。
現在は「本業」に専念
─現在のまりおさんの状況について教えてください。マンガ以外にどのようなお仕事をされているのでしょうか
ヘアーサロンを経営してます。本業は美容師なんですよ。18歳の頃から東京の店で修行を積んで、29歳で地元の長野に戻って独立しました。独立してからしばらくはとにかく経営が厳しくて、「他の方法で儲けなきゃ」って思うようになりました。株やFX、アフィリエイトとかとにかくいろいろと手を出しては失敗してましたね。
不動産投資を始めたのもこの頃です。きっかけは、ある投資家さんの本を読んだこと。当時、雑誌の株コーナーで連載を持っていたのですが、編集部から「今年の投資本ランキングを作るから書評を書いてくれ」と頼まれて、売れ筋だった本がドサッと送られてきたんです。その中の1冊がその本でした。「こんなに少ない額でもできるのか…」と衝撃を受けましたね。
─ヘアーサロンの経営は現在どうなっていますか
お客さんが全然来なくて、去年あたりに「これはいよいよヤバい」って。妻にもお店をたたんで東京に働きに出ようかなって相談していました。そんな状況だったんでいろいろと支払いが滞ってしまって。そういうわけで、新しいパソコンを買おうにもローンの審査が通らなかったんですよね…。
でもこの時、どうせ辞めるならもう一度ちゃんと店舗経営のことを勉強し直して、やれることを全部やってから辞めようって考え直したんです。それでマーケティングの勉強なんかも始めて、お店の差別化を思いつきました。男性専用の「メンズサロン」にリニューアルして、ネットに広告を載せてみたんです。
そしたらこれが大当たりで、それまで月に4~5人しかいなかった新規客が100人を超えました。どうにか商売は軌道に乗りそうで、今は店舗を増やすことも考えています。
不動産投資について
─改めて、まりおさんが買った物件のことを教えてください
地元の長野県にある、築29年くらいのRC1棟物件です。全18戸で、当時3室くらいの空室がありました。価格は4800万円で、農協から13年のフルローンを受けて購入しました。RCにした理由は、評価が付きやすくて融資が受けやすいと思ったから。当時は借金に対する不安なんか全然なくて、「これさえ買えたら俺の人生バラ色じゃん!」ってバカみたいに考えてましたね。

第2話の1コマより、物件購入時のまりお
でも、買った後すぐにトラブルが起きました。リフォーム会社にリフォーム費として300万円を先払いしてたんですが、その業者と数カ月間も連絡がとれなくなって、工事が進まなかったんです。その期間中は入居の募集ができませんし、貸せそうな部屋も家賃を下げざるを得なかった。スタートからつまずいちゃったんですよね…。
毎月の手残りは30万円くらいありましたが、税金やらリフォーム費やらですべて消えて、残らないどころかマイナスでした。今思えば、融資が下りて物件が買えて、大家さんデビューを果たした瞬間が僕の不動産投資人生のピークでしたね。所有していたその後の3年半の間はとにかくずっと苦しかったです。
─まりおさんはなぜ、不動産投資に失敗したと思われますか
知識不足のせいで、買って良い物件とそうでない物件を見極めることができなかったこと、あとは融資期間が13年と短かったことでしょうか。それから「不動産投資は簡単だ」と思い込んでしまっていたことも原因かもしれません。
ずっと思ってたんですけど、不動産投資は簡単だって思ってる人、多くないですか? ちょうどこの前も、あるセミナーに講師で呼ばれて話をしてきたんですが、参加者の皆さんは僕が不動産投資のリスクについて話していても「?」って感じで全然しっくりきていないみたいでした。みんな希望に燃えていて、僕が言っていることは耳に入らないんでしょうね。けど、あなたも僕と同じように失敗する可能性があるんだよ、ってことは言いたいです。

まりおさんが全話を通して「一番描きたかった」という1コマ
不動産は不労所得だ、っていう風潮はやっぱり根強いです。僕が思うに、これは不動産投資の難しさの裏返しなんじゃないでしょうかね。難しいからこそ、一部の業者や投資本の著者が「簡単だ」と煽っている。だから、そういう言葉を真に受けたらダメなんですよ。僕はあの頃、それに気付くことができませんでした。
─それでもまりおさんの場合、どうにか売却して窮地を脱することができました
最終的には4500万円で売却できました。その頃の残債は3500万円ほどでしたから、手元にある程度のキャッシュを残すことができました。この点は、融資期間が短かったことが幸いしたのかも知れません。でもその売却代金も、家族で沖縄旅行に1回行っただけで、あとは全部滞納していた税金に消えてしまいました…。
それにしても売れるまでの間は本当に辛かったです。布団に入っても寝られなくて、先の事を考えると恐怖で手が震えるんです。「俺、どうなるんだろう」って。苦労した物件だったので売りに出すのは相当勇気が必要でしたが、僕の場合は2~3週間で松崎さんに買ってもらえたので、精神的に壊れる前に立ち直る事ができてラッキーでした。もし、残債以下の金額でしか売れなかったらと思うと、本当に恐ろしいです。大げさじゃなく、松崎さんは僕にとって命の恩人ですよ。

夜は不安で寝付けず、コップを持つ手が震えるまりおさん
─今後、また不動産投資をやりたいと思いますか?
うーん…。可能性としては10%くらいですかね(笑)。いつかキャッシュで1000万円くらい余るようなことがあれば、戸建てとか小さい規模でチャレンジするかも知れません。でも、それだったら株でもやるかなぁ。
これは僕の個人的な感想ですが、不動産投資は僕みたいな「貧乏人がお金持ちになるための手段」ではなく、「お金持ちが資産を運用する手段」なんだと思います。
お金はもちろんですが、知識がない人、不動産投資は簡単だと甘く見ている人は手を出さない方がいいでしょうね。そういう意味では僕は、今までずっと勝てない土俵で勝負してたんだと思います。不動産投資でそれに気付くことができました。これからは本業のヘアーサロン経営に集中していきますよ。
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