フルタイムで働きながら、1年半前に民泊事業に参入した女性投資家がいる。大阪府内で、「特区民泊」の認可を得て事業を行っている北村まどかさん(30代・仮名)だ。

すでに2軒で民泊物件を運用しており、稼働して1年半になる1つ目の物件の年間キャッシュフローは約170万円。2つ目は4カ月前にオープンした。現在、民泊の運営を楽しみながら収入を得ている北村さんだが、実は、開業までには想像を絶するような苦労があった。民泊事業の魅力、そしてその裏にある苦労を聞いた。

民泊OKの戸建てを借りて開業準備、しかし…

北村さんが民泊を運営するのは、大阪府。国家戦略特区を活用した「民泊」事業が認められているエリアだ。「私自身も海外旅行が好きでしたし、学生時代には旅館でアルバイトをした経験もあります。今のインバウンド需要もあり、自分自身の経験や考えも生かせる、良いビジネスなのではと考えました」

そこで、1年ほど前に「民泊もOK」という戸建て物件を紹介してもらい、それを借りて民泊事業に活用し始めた。

紹介してもらった物件は、駅から徒歩8分と少し遠く、さらに細い路地を通らなければならないなどのアクセスのハンデがあった。だが、民泊事業ができる物件は数少ないため、北村さんの自宅から近くに位置するこの物件で、まずはチャレンジしてみようと思ったという。

戸建てのオーナーは不動産投資家。自分では民泊運営をしないものの、民泊をしたい人に貸すのは問題ないと許可していたようだった。民泊用ということで、家賃は普通の賃貸よりも5割ほど高め。そのため、オーナーもWIN-WINだと考えたのだろう。

無事に賃貸契約を交わすことができ、いよいよ民泊運営に向けて準備を開始した北村さん。しかし、ここからの開業前の苦労はかなり大きかった。

民泊オーナーの北村まどかさん(仮名)

「日本らしい」和室としてしつらえた、民泊物件の1室

近隣住民の「不安」

まずは、物件の近隣の住宅を回って民泊事業を開始する旨を説明することから始めた。特区民泊のルール上、説明しなければいけない範囲は物件から20メートル以内。住宅密集地だったため、説明に行くべき軒数は多かった。

「ご近所への説明を業者さんに委託をすることは可能でした。しかし、初めての物件でしたから、まずは1度、自分でやってみようと思ったんです。民泊運営をしている先輩大家さんからも、『自分で回ってみることが重要』とアドバイスをもらっていました」

保健所への申請を委託していた行政書士が同行はしてくれたが、単なる「同行」だけ。事業の内容を説明し、クレームへの対応を行うのは北村さんたった1人だ。行政書士からは、平日の、先方が忙しくない時間帯に行くのが良いというアドバイスを受けたため、平日に有給休暇を取って1日かけて訪問した。

ところが、いざ回ってみると、近隣住民たちの民泊に対する不安は予想以上に大きいことがわかった。不安からくる怒りをぶつけられることもあり、北村さん自身の精神的なストレスも非常に大きかったと振り返る。

実際に訪問して説明した時には「わかりました」と理解してくれた人も、帰宅した家族と相談した結果、「やはり反対」と言い始める人や、最初から頭ごなしに「絶対反対!」と怒る人も多かった。「宿泊者が出したごみの収集はどうするの?」「もしゲストが火事を起こしたらどうする?」など、住民らが感じる不安から、細かい対応を何度も確認されたという。

保健所、議員にも抗議電話をかけられた

近隣住民からは、説明を求めて電話もかかってきた。早朝や深夜、仕事中にかかってくることもあった。民泊への不安から、何度も電話をかけてくる人もいたという。

「とにかくご近所の不安を解消することが私の仕事だと思って、電話がかかってきたら、すぐに折り返すように努めていました」と北村さん。「夜遅くにかかってきた電話には、私が気付かず寝てしまっていたことがありました。すると、翌朝、同じ人から電話が来るんです」

前述の通り、本来説明しなければならない範囲は物件から20メートル以内。だが、運営後の火種になってはいけないと、北村さんは念の為に範囲を広げて説明へと赴いた。当然のようにそこでも不満やクレームを言われてしまい、何度も心が折れそうになったと話す。

北村さん本人だけでなく、管轄の保健所に対しても「とにかく反対だ」と毎日電話をする人もいた。「保健所から、『今日は9件電話がかかってきました』と言われたこともありました。警察や市会議員の方などに抗議の電話をした人もいるようです」(北村さん)

担当の行政書士は民泊申請を何件も手掛けたことのあるベテランだったが、そんなプロでも「こんなにトラブルが多い事例は、そうそうないですね」と言ったほどだ。

「不安や怒り、いま鎮めないと」

それほどの逆風が吹き荒れていたが、北村さんは諦めなかった。開業のための要件は近隣住民への説明であって、すべての住民から賛成を取り付ける必要があるわけではない。しかし、「近所の方の不安や怒りを、いま鎮めておかないといけない」と心を決めていた。「泊まりに来るゲストに、怒りの矛先が向かないようにするのが自分の仕事だと思ったんです」

近隣住民から、住民説明会をしてほしいと要望もあった。すでに、日にちも場所も住民側から設定されていたという。

説明会へと臨んだ北村さんは、自分の民泊事業について、誠心誠意説明を重ねた。その場でも何度もキツい言葉を言われ、やめるようにとも説得されたが、北村さんは諦めずに心を尽くして自分の事業内容を訴えたという。

すると、そんな彼女の誠実な対応と頑張りを目の当たりにした出席者の中からは、反対を取り下げ、応援してくれる人も出始めた。