中国、不動産投資、爆買い、投資移民、人民元

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中国人が東京の不動産をこぞって購入する「爆買い」が話題になったのは2014、2015年ごろ。海外投資家からみて割安感のあった都心のマンションに中国人富裕層の買いが入ったことで価格が押し上がり、「不動産バブル」ともいわれる状況を生み出す一因にもなった。しかし価格の高騰によって、世界における「東京」の投資妙味は徐々に薄れ、「爆買い」の動きは収まってきたかのようにみえる。

ただ現場の投資家からは現在も、「中国人と何度も買い付けが重なった」「スピード勝負で現金買いの中国人に負けた」といった声が聞こえてくることも事実。果たしてどのような層が現在、日本の不動産を狙っているのか。買い手の姿を追っていくと、従来型の富裕層とは異なる「投資移民」というキーワードが浮かび上がってきた。今後のマーケットにも影響する中国人投資家の実態を紐解く。

常識外れの「釣り上げ」

「日本人はいかに安く指値をして買うかを考えますが、一部の中国人投資家はその真逆、いかに価格を釣り上げて勝負に勝つか、というスタンス。バブル期以降の市場では考えられなかったことです」

1990年代半ばから区分マンションの現金買いを進め、都内や京浜地区の中古ワンルームを中心に55棟・56室を所有する芦沢晃さんはそう語る。

「5年ほど前は私がターゲットにしている山手線外側あたりの中古ワンルームにも中国人投資家の買いが入っていて、真っ向勝負になることも多かったんです。不動産会社は仮に番手が後でも信頼できる日本人投資家に売りたいと思っているケースも多いんですが、中国人投資家は売出価格を上回る『被せ』で現金買い付けを入れてくるので、負けることもありました」

ちょうどその頃、中国や台湾、香港などの投資家に狙いを定める日本のワンルーム業者も増え始めたという。「中国本土の投資家と関係を持つエージェントとパイプを作り、毎週のように現地へ行ってセミナーを開く日本の業者が出てきました。セミナーはすごい熱気で、マイソク情報と物件写真だけで持参した20件近い物件がその場で完売してしまうレベルだったようです」

従来の常識や相場観が通用しない中国人の台頭で、日本のマーケットは急激に変貌してきた。「一棟の世界は分かりませんが、少なくとも区分の世界では利回り度外視の中国人投資家が『良い物件の価格が釣り上がっていく』という現象を作り上げていた面はある」と芦沢さん。「ただ、最近は価格高騰で利回りが下がったことで、彼らも買い一辺倒ではなく売りに回っている。釣り上げの動きが沈静化していけば、物件価格も落ち着いていく可能性があると思います」

五輪と円安で加速した「爆買い」

もともと東京の不動産価格はニューヨークやロンドン、香港などと比べて割安とみられてきたが、2013年に東京オリンピックの開催が決まったことで海外投資家の目線が一気に集まった。円安も追い風となって中国マネーの流入が続き、都心部の地価は年々上昇。2018年の路線価トップとなった東京・銀座の文具店「鳩居堂」前は、1平方メートルあたり4432万円でバブル末期のピークを上回る過去最高額を更新した。

地価の高騰に伴い、世界的に見た東京の投資妙味は年々薄れている。都市・国家の比較統計サイト「Numbeo.com」の「Property Prices Index by Country」によると、日本の都心部の不動産投資表面利回りは2013年に4.75%だったが、2018年は2.03%まで下がり(アメリカは10.26%)、タイやマレーシア、シンガポールなどを下回ってアジアの中でも下位に落ち込んだ。

このような状況の中、中国人投資家の購入意欲は減退したという見方も多いが、現場ではまた違った声も聞こえてくる。

地方都市でバッティングが続く

長野県で一棟アパートと戸建を中心に150室を所有し、家賃収入7200万円に上るPascalさんは「昨年、長野の物件で中国人投資家と買い付けが重なることが続いたんです。中国人投資家といえば都心部のマンションというイメージだったんですが、こういう地方都市でバッティングするのは意外でした」と語る。

昨年の春、懇意の不動産会社から3戸一括の戸建を紹介された。価格は1200万円で、利回りは13%。「築30年で汲み取り式トイレだったので、修繕にかなり費用が掛かりそうだったことに加え、立地もあまりよくなかったので高すぎると判断しました。それでも800万円ぐらいで買えるならギリギリOKか、と思って大幅な指値を入れたんですが、当然無理で流れたんです」

その後ネットに掲載されたが、やはり半年ほど買い手がつかなかった。「それがある日サイトから消えていたので、『売れたんですか?』と聞いたら、『中国人が1100万円で現金買いしました』というので驚いたんです。その中国人は『銀行に預けるよりは利回りがいいから』と言っていたようなんですが、私からすればキャッシュだとしても買うべき利回りではないと思ったので疑問を感じました」

なぜ、利回り無視で日本を買うのか

彼らが利回りを度外視してまで日本の不動産を買うのはなぜなのか。目的はいくつか考えられるが、その1つが「経営管理ビザ(投資経営ビザ)」の取得だ。

経営管理ビザとは、外国人が日本で会社を設立して経営を行う場合に必要となる在留資格で、明確になってはいないが「資本金または出資金の総額が500万円以上」「日本国内に事務所がある」「会社の実態がある」などの要件がある。ビザの発給を受けた後に1年、3年、5年などのスパンで更新し、永住権を取得して移住するケースも少なくない。

中国人のビザ取得をサポートするコンサルティング会社に勤務し、自身も不動産投資家である楊春花さん(仮名、29)は「爆買いがひと段落した2017年6月ごろから、日本に移住したい中国人投資家が1000万〜2000万円ぐらいの区分マンションを買い、不動産賃貸業として経営管理ビザを取得するのがブームになったんです。彼らは『投資移民』と呼ばれ、日本に来ずにビデオ通話アプリで重説を受けて郵送書類で契約するケースも多くありました」と語る。

不動産投資家でもある楊さん。中国人投資家200人ほどが参加するチャットグループで情報交換している

「2017年ぐらいはまだ東京の利回りは高いとみられていて、中国の不動産会社は中国人向けに日本の経営管理ビザ取得をサポートする『移民会社』と組んだビジネスを展開していました。移民会社が日本の行政書士を通じてビザを取得する仕組みで、本来は移民会社に依頼すると100万円ほどの費用がかかるんですが、不動産を買うなら無料にするとか、そういったキャンペーンをやっていたんです」