旅館業を営む葛西さんの物件、ベランダからの風景

6月15日で、いわゆる「民泊新法」の施行から1年を迎えた。最近は大きく報道されることも少なくなってきた民泊事業だが、不動産投資家の中でも、大きな収益を上げている人はいる。

合法で宿泊事業を営むオーナーたちのエピソードから、民泊の苦労や収益を上げるための工夫、そして社会問題ともなっていた違法民泊の現状を追った。

「半分自主運営」でコスト下げつつ

大阪市の大正エリアで、「特区」を活用した民泊事業を行っている山本正也さん(仮名)。2018年に1LDKの6室がある新築木造アパートで開業した。

「この1年間の売り上げは約2300万円です。そのうち、ローンの返済や諸経費などを支払うと、手元に残るCFは980万円でした」。物件本体の価格や、法令に適合させるための仕様変更費といったイニシャルコストなどから考えると、利回りは約16%ほどだ。

内装のコーディネート、家具・家電の選定や設営はすべてDIY。「開業直前の1週間は、家族総出で物件に泊まり込み、準備をしました。6部屋となると、かなりハードな作業でした」と振り返る。

すでに区分や1棟ものなど、10室の賃貸物件を所有する山本さん。不動産投資手法のバリエーションの1つとして、民泊に興味を持ったと言う。開業前に情報を収集していくうちに、「儲けるためには、物件を所有し、運営のほとんどを自分たちで行う必要がある」との結論に至った。

だが、本業がある中での民泊の完全自主運営は難しい。そのため、できる範囲の業務を自分たちが担うことにした。清掃スタッフへの作業の指示をしたり、アメニティーの在庫管理をしたりといったことは、妻の協力を得ながら行っているのだという。

運営をすべて委託した場合はその費用として代行会社への手数料が売り上げの15~20%程度かかるが、山本さんの場合は9%程度に抑えることができている。

代行会社の「とんでもない回答」

ゲストとの基本的なやり取りは代行会社へ委託しているが、その内容は山本さんたち自身で常にチェックする。

「代行会社の、特に外国人のスタッフは個々の物件の概要をすべて把握しているわけではありません。例えば設備について質問をされた時に、全く事実とは異なる回答をしていたり、時には『そんな質問をしてこないでください』なんてとんでもない回答をしていたりすることもあるんです。こうした対応をホストがフォローするか否かで、ゲストの満足度は変わってきます」

代行会社がゲストの要望に対応できていない時は、自分たちで直接対応する場合も多い。

その分時間は取られるが、「ゲストとコミュニケーションを取れるので、何を求めているか、どのような対応や情報を提供すれば喜ばれるのか、といった運営ノウハウも蓄積でき、今後のためにも役立てられると考えています」と話す。

また、ゲスト満足度向上のために、妻のアイディアでアメニティーグッズを充実させた。歯ブラシやヘアブラシ、シャンプーなどから、爪やすりや入浴剤、洗濯洗剤や日本茶などのほか、乳幼児が宿泊する際にはガーゼや子供用のトランプ、折り紙なども用意。

「民泊はサービス業。いかにほかの物件よりアメニティーが充実しているかも、差別化のポイントです」(山本さん)

民泊成功のカギ

民泊成功のカギは「間取り、立地、エリア環境」だと山本さんは指摘する。

「宿泊可能人数が2、3人だと、ホテルを含めて競合物件が多すぎます。5名以上泊まれる間取りが理想です。また、利便性の良い駅から徒歩5分以内で、かつ物件周辺にコンビニや飲食店が多いことが重要。私も、その条件で物件探しを行いました」

そうした条件で絞り込んで見つけた山本さんの物件は、ユニバーサルスタジオジャパンにも近いベイエリアにあり、最寄り駅からは徒歩3分。乗り換えなしで主要な観光地や空港に行くこともできるという。

さらに山本さんは、運営代行会社の選定も民泊成否のポイントだと話す。山本さんの場合だと、最初に5社程度の会社に連絡。最終的に担当者の質問対応能力、人間性、運営実績などを鑑みて現在の会社に決めたそうだ。

「実績を確認する際には、運営物件数ではなく、現在運営している物件をいくつか教えていただき、Airbnbなどの民泊仲介サイトでその物件のレビューを見たり、実際に物件を案内してもらったりしました」

7万室以上が「宿泊可能」に

「民泊」は、住宅を利用して宿泊サービスを提供できる制度のことだ。日本においては、主に海外からの観光客をマンションの一室や戸建て住宅を活用して宿泊させ、宿泊料を対価としてとるビジネスが近年増加していた。

ところが、宿泊サービスを提供するためには旅館業法による許可が必要になる。

にもかかわらず、以前の「民泊」物件のほとんどが無許可で営業していた実態があり、こうした問題を背景に2018年6月15日、「住宅宿泊事業法」、いわゆる民泊新法が施行された。これまでは、旅館業法の許可を得る以外には前述の山本さんのように国家戦略特区を活用した「特区民泊」を行うことができた。だが、この特区は全国で1府と6市区に限定されていたため、初めて全国での民泊が解禁されたのだ。

民泊仲介サイトの大手である「Airbnb」も、同社共同創業者のブレチャージクCSOが、来日した際の記者会見で「日本は極めて重要な国だ。日本における宿泊可能な部屋数は7万3000室になった。今後の大規模イベントへの貢献のほか、地域活性化、空き家対策といった役割もある」と述べるなど、日本における今後の民泊事業にも期待を寄せている。

来日した民泊仲介サイト大手「Airbnb」の共同創業者であるネイサン・ブレチャージクCSO(中央右)。中央左はAirbnb Japan の田邉泰之代表取締役(6月6日撮影)

違法民泊の現状は

気になるのは、違法民泊の現状だ。観光庁は3月、昨年9月時点の違法物件の数を公表している。この調査によると、仲介サイトが扱う民泊物件のうち、自治体への届け出情報と氏名や所在地、届出番号が異なるなどといった違法、あるいは違法の疑いが強い物件が6585件あったという。

投資家らに取材してみると、実際に「適当な認可番号を入力しているなどの違法物件はいまだにあると思う。これのせいで『民泊』に対する世間イメージが悪く、堂々と事業をやっていると言いづらい」(大阪・男性投資家)といったエピソードがある一方、「違法民泊物件はかなり排除されてきた」という声も多い。

違法民泊の監視サービスなどを行う「民泊ポリス」を運営する株式会社オスカーの中込元伸社長は現状を「以前のような違法民泊は、そのほとんどが排除されたと言って良い」と指摘する。

新法制定以前、民泊仲介サイトに掲載されている物件の多くは旅館業法に則っていない「違法」だった。しかし、昨年6月を境に、物件数は急激な落ち込みを見せる。「例えばAirbnbでは、6万件ほどあった物件数が、2万件ほどにまで激減しました」(中込社長)

新法施行後も、虚偽の申請番号を書くなどの違法民泊は一定数掲載されていたが、中込社長は「数カ月前から、違法物件らしい物件はサイト上で見かけることはほとんどなくなりました」と話す。

その理由の1つとして、中込社長は今年4月に住宅宿泊事業法が改正されたことがあるとみる。この改正では、サイトへの登録の際に従来は届出番号のみを通知していたのに加え、商号や名称、所在地といった詳細情報の通知が義務化。適法性、あるいは違法性の確認がしやすくなっている。

「最終局面」を迎えた違法民泊、今後の懸念は

他方、特にSNSを通じて直接集客を行う違法民泊は、決して衰退してはいない。

中込社長も「特に海外に居住するオーナーによる違法民泊物件は、連絡もとりづらく、摘発しにくいので、各自治体も苦戦しているようです」と明かす。

こうした手法は集客をSNSなどに頼っているため、稼働が安定せず、事業としては長続きしづらいが、その反面「特定の手段を使わなくてはたどり着けない『ダークウェブ』上で、違法民泊物件の仲介がなされていても不思議ではありません。こうした違法物件は、犯罪者がその活動に利用するのにうってつけになってしまいます」(中込社長)との脅威があることも事実。

加えて、2020年に開催される東京五輪では、観戦客のための宿泊ニーズが増大すると見込まれるため、違法民泊物件が再び横行する可能性もある。海外旅行代理店によってこうした違法民泊物件がツアー客の宿泊先として指定されてしまえば、対策どころか摘発も困難を極める。

「違法民泊物件との戦いは、最終局面を迎えていると思います。ですが、まだ一部に残る闇を、どうにか水際で止めなければなりません。そうしなければ、せっかくクリーンになりつつある『民泊』へのイメージも、またネガティブに戻ってしまいます」と中込社長は語る。