これまで全国650以上の市町村に足を運び、まちの特徴を見てきたという鳴海行人さん。交通事業者やコンサルタント勤務等を経てフリーとなり、現在は「まち探訪家」として、「まち」や「交通」をキーワードにウェブメディアへの寄稿を行っている。

本企画では、鳴海さんが個人的に注目しているまちに、不動産投資家の代わりに足を運び、そのまちの開発状況や歴史についてレポートする。エリアを検討する際の参考の1つとして役に立てていただきたい。

池袋22分、大手町45分

このたび新たに楽待新聞にて「まち」に関する記事を執筆することになりました、まち探訪家の鳴海行人(なるみ・こうじ)です。

今回紹介するのは、埼玉県南西部の「所沢駅周辺」です。

所沢と聞いて驚かれた方もいるかもしれません。「住みたいまち」系のランキングで上位にあがってくることは少なく、メディアで注目されることもあまりないエリアだからです。では、なぜいま筆者が所沢に注目しているのか。まちの様子のレポートとともに、順を追って紹介していきたいと思います。

所沢市は人口約35万人の都市です。市内を走る鉄道路線は西武池袋線、西武新宿線、JR武蔵野線の3路線。所沢駅にはそのうち西武池袋線と西武新宿線の2路線が乗り入れ、1日あたり約10万人が乗降します。

西武新宿線を走る通勤型車両(著者撮影)

この2路線で、新宿・池袋・川越・秩父と、東京都心だけでなく観光地にも1本でアクセスできる点からは、利便性の高い場所だと言えるでしょう。

所沢は東京都心から遠く離れているという印象を持たれがちですが、下表の通り都心の各駅へ20~50分ほどでアクセス可能です。

また所沢を経由する特急「レッドアロー」が新宿と池袋から運行されているほか、平日の朝・夕のラッシュ時には所沢と東京メトロ有楽町線(飯田橋、有楽町、豊洲)を結ぶ「Sトレイン」も利用できます。全席指定で運賃の他に別途料金がかかりますが、特急や「Sトレイン」を利用してゆったり帰宅するという選択肢もあります。

加えて市内南西部には「狭山丘陵」が広がり、その中に東京都内に飲み水を提供する水がめ「多摩湖」と「狭山湖」という2つの湖があります。湖周辺には自然公園も整備され、豊かな自然を楽しめるエリアでもあります。

所沢市南西部に広がる狭山丘陵と狭山湖。奥には関東山地も見える(著者撮影)

駅周辺はどんなところ?

では、そんな所沢の中心、所沢駅周辺の様子を見ていきましょう。

所沢駅前には、2つの大型商業施設があります。西口にある、西武百貨店所沢店を核とした8階建てのビル「ワルツ所沢」と、東口にある5階建ての駅ビル「グランエミオ所沢」です。「グランエミオ所沢」は2018年3月に開業したばかりの駅ビルで、約80のテナントが営業しています。セレクトショップやこれまで所沢にありそうでなかった少し上質な品揃えの食品フロアなどがある商業施設です。

所沢駅西口にある西武百貨店が核となった商業施設「ワルツ所沢」(著者撮影)

東口側にあるのは「グランエミオ所沢」(著者撮影)

そして駅の西口から北西に向かっては「プロペ通り」という商店街が300メートルほどのびています。プロペ通りの「プロペ」は日本初の飛行場が所沢に建設されたことにちなんでおり、1911年に作られた日本最初の飛行場である所沢飛行場の歴史を伝えてくれています。

所沢駅西口から北西にのびる「プロペ通り」(著者撮影)

商店街には100店舗ほどが並び、飲食店をはじめとしてチェーン店が多く、日中も多くの人で賑わいます。

プロペ通りを抜けた先のさらに北側は、所沢でも昔からの市街地です。宿場町や市場が元となっているため、以前は商店街がここまでのびていましたが、現在はまちの中心が所沢駅周辺に移ったため、このエリアの姿は大きく変わりました。現在は低層階を商業施設、高層階をマンションとした中高層の建物がいくつも立ち並んでいます。

所沢駅の北西にある市街地。かつてはアーケード付きの商店街があったが、いまはマンションが建ち並ぶ(著者撮影)

所沢の歴史を辿る

さて、所沢のまちはどのように生まれ、発展してきたのでしょうか。

まちの始まりは鎌倉時代にまで遡ります。武士たちが「いざ鎌倉」と鎌倉へ駆けつけるために生まれた「鎌倉街道」のうち、主要幹線の1つであった「上道」(かみつみち)と、その支線が分岐する場所として、人とモノの集積地としてまちが生まれました。

その後、江戸時代になると江戸へ向かう道が整備され、宿場機能の他に周辺からのモノを集積する市場が立ちました。さらに明治時代になると地域の特産品として狭山茶と織物がやりとりされるようになります。こうした特産品をはじめとした物資を東京へ輸送するために鉄道敷設の機運が高まり、東京の資本家が中心となって川越鉄道が設立されます。

川越鉄道は甲武鉄道(現在のJR中央線)の支線的な扱いで、国分寺から川越を結ぶ路線。1895年に開業しました。その後、巣鴨から埼玉県の飯能を結ぶ武蔵野鉄道が計画され、1915年に池袋と飯能の間で営業運転を開始します。こちらは地元資本が多く参加し、その中には所沢の資本家も多くいました。

こうして所沢には2つの鉄道会社の路線が乗り入れることとなります。川越鉄道はのちに西武鉄道となり、1927年に高田馬場~東村山間を開通させたことで、所沢から東京に向かうには2つの鉄道会社が選択できるようになりました。そのため、両社は所沢駅で激しい乗客争奪戦を行い、時には駅員同士の乱闘騒ぎがあったといいます。

その後1945年に両社は合併して西武農業鉄道(翌年には西武鉄道に改称)となりました。こうして西武鉄道の2路線が乗り入れる所沢のまちの姿ができあがっていきます。

そして西武鉄道は所沢を輸送の拠点として、1946年には所沢駅の南西に自社車両を製造する所沢車両工場を建設、1986年には本社が所沢駅東口に移転します。

このころになると所沢市の人口も増え、市街地再開発が始まります。1970年代には所沢駅西口の整備が考えられるようになり、1976年頃から本格的な市街地再開発計画がはじまります。そして1981年には駅前の再開発が事業決定され、1986年には商業ビルの「ワルツ所沢」が、1989年には「所沢ステーションビル」が竣工しました。

こうした再開発事業の進展に伴い、西武鉄道は所沢車両工場での車輌製造や整備を段階的に終了することを決め、2000年に閉鎖します。しかし、その後に土壌汚染が明らかになったことでしばらくはこの工場跡地の再開発は先送りされることになります。

そして2009年末から始まったのが所沢駅の改修工事です。2012年には大きな幕屋根で覆われた明るい新橋上駅舎が完成しました。2016年からは所沢駅東口駅ビル(グランエミオ所沢)の工事に着手。その際、西武鉄道を中心とした西武グループは住友商事と共同で事業推進を行います。住友商事および子会社の住商アーバン開発が商業施設を管理・運営するスキームです。

住商アーバン開発は、神奈川駅の辻堂駅前で年間554億円を売り上げる大型商業施設、「テラスモール湘南」を運営しており、実績もあります。実際、「グランエミオ所沢」は「とがり過ぎない上質感」をコンセプトにし、先に書いたとおりハイクオリティな商業施設のある駅ビルとして人気を博しています。

注目の理由は「将来計画」にあり

駅に隣接してレベルの高い商業施設があり、都心や観光地へのアクセスもよく、市内にも様々な遊び場がある所沢駅周辺。ですが、実は筆者が所沢駅周辺に注目する最大の理由は「将来計画」にあります。「所沢駅東口駅ビル計画(Ⅱ期)」と「所沢駅西口北街区第一種市街地再開発事業」です。

まず「所沢駅東口駅ビル計画(Ⅱ期)」は、現在の「グランエミオ所沢」を拡張し、テナントを40店舗増やします。その際、駅の直上に人工地盤を構築し、そこに新しい改札口と増築した商業施設を設けます。これにより改札口から「グランエミオ所沢」へアクセスしやすくなります。

2018年の「グランエミオ所沢」開業時に筆者が関係者に取材したところ、このⅡ期のエリアはサードプレイス(自宅や職場から離れた第三の居場所)を意識した、比較的ゆったりとした店舗配置にする計画とのこと。現在よりもさらに充実したテナントにより、買い物環境の向上が期待できます。

所沢駅の南側に人工地盤をつくり、駅設備の増強と「グランエミオ所沢」のⅡ期工事が進む(著者撮影)

一方の「所沢駅西口北街区第一種市街地再開発事業」では、西武鉄道所沢車両工場の跡地を中心とした約7.9haを4つの地区に分けて再開発し、2020年代中頃に完了する予定です。

「所沢駅西口北街区第一種市街地再開発事業」は約7.9haと広い土地で行われる(著者撮影)

4つの区画のうちA地区(約0.7ha)では、地上29階建て、311戸の住宅・商業複合のマンション「シティタワー所沢クラッシィ」(売主:住友不動産・住友商事)が2021年1月完成予定です。そしてB地区(約0.4ha)は商業・業務施設を主体とし、D地区(約2.8ha)は住宅地を主体とします。再開発地区で最も大きなC地区(約4ha)は「広域的な商業業務施設を主体とする地区」とされています。

建設中の「シティタワー所沢クラッシィ」(著者撮影)

実は、住友商事は東口の駅ビルだけではなく、この所沢駅西口北街区第一種市街地再開発事業も含めてトータルで西武グループと協働しています。西武グループはこの協働により外からの力を入れることでシナジー効果を期待しています。そうすると、このC地区の商業施設には「テラスモール湘南」のような大型ショッピングモールの建設が考えられます。そうなれば所沢の買い物環境はさらに向上し、まちの姿・イメージをも変えるかもしれません。また、このほかにも所沢駅周辺では高層マンションを主体とした再開発計画があります。

都心に対して時間距離が比較的近い上、自然環境も充実し、買い物環境も向上しつつある所沢に、筆者はポテンシャルを感じています。大型開発計画によりまちの姿・イメージが大きく変わりそうな所沢駅周辺に、今後も注目していきたいと思います。

(鳴海行人)