iStock.com/AntonioGuillem

「宅建」は不動産投資家にとって必要な資格なのだろうか?

7月1日から宅地建物取引士(宅建士)試験の申込受付が始まった。毎年およそ20万人が受験している人気の国家資格で、受験者の中には不動産業務とは関係のない仕事をしている人も多くいる。不動産投資家の中にも、「宅建士の資格を持っている/勉強したことがある」という人もいるのではいだろうか。

今回は、元不動産仲介業者で宅建士の筆者が「宅建士資格は不動産投資に役立つのか?」という疑問について解説する。宅建士試験への挑戦を予定している人のために、筆者が考える効率的な勉強方法についても紹介していきたい。

宅建士の知識は強みになる

まず筆者なりの結論を言うと、不動産賃貸業を行うのに宅建士資格が必須というわけではないが、宅建士試験の出題範囲となっている不動産取引に関する知識はあったほうがよいと考えている。収益物件を購入するときは、物件資料や不動産売買契約書・重要事項説明書などの内容を理解しておく必要があるからだ。

不動産売買で特に重要な「地目」「前面道路」「用途地域」「防火地域」、さらには「日影規制」や「高度地区」といった制限も宅建士試験のテキストに登場する。これらの知識を習得していれば、物件の売買時に「建築基準法に違反していないか」「売買価格が適正か」「建築計画の変更は可能か」などが判断しやすくなり、物件の買い付け前に異変を察知できるようになる。

例えば、購入する一棟アパートの一部に未登記の増改築があるのに、その説明を受けていないような場合。現況は建物図面にない部屋や付属建物があるのに、登記事項証明書に増改築の記載がなければ、未登記の増改築で建築確認申請をしていない可能性が高い。その場合は建蔽率や容積率、高さ制限などの面で違法建築とみなされてしまうリスクがある。

また、融資を受ける際には、購入物件に関する法規制についてきちんと理解していることを金融機関にアピールすることも重要になる。全ての融資担当者が不動産に詳しいわけではないからだ。仲介業者に任せっぱなしにするのではなく、法規制を遵守した収益物件であることを投資家自身できちんと説明できれば、融資担当者からの信頼を得て審査を有利に進めることにつながることもある。

借地借家法は賃貸経営の基礎知識

宅建士の知識をつけておくことで、不動産取引を円滑に進められる分野はいくつかある。例えば、借地借家法で規定された定期借地権。利回りが高い一棟物件などで「借地権」と明記されている場合があるだろう。普通の借地権であれば、よほど特別な事情がない限り基本的に賃貸借契約は更新されるのであまり心配はないが、定期借地権の場合は要注意だ。

定期借地権は「賃貸借契約の更新をしない」ことが前提となっているため、契約期間が満了すると、建物を取り壊して更地にして地主に返還しなければならない。土地にも所有権がある通常のマンションと比べると売買価格は割安に設定されていることが多いが、やはり将来的な建物の取り壊しがネックとなる。

定期借地権についての知識があれば投資家自身で物件の良し悪しを判断できるが、投資に慣れていないと、利回りの良さに飛びついてしまって買付をした後や売買契約後になって後悔する可能性もある。逆に、定期借地権であることを理解したうえで、高利回りという要素を大きなメリットと捉えることも可能になる。

宅建士の勉強は「宅建業法」が最も多く出題されるのだが、正直なところ宅建業者ではない一般の投資家にとってはあまり関係がない。それよりも、「法令上の制限・税」や「権利関係(民法)」の方が不動産取引に関する法規制を学ぶことができる。権利関係は、錯誤や詐欺、瑕疵担保責任、相続、抵当権、地上権、借地借家法など、投資家にとって身近な内容のものが多いため、試験の合否関係なく学んでおきたい。

宅建士資格を持たない不動産営業マンも多い

宅建士とは不動産取引に関する専門知識を有した者のことで、売買や賃貸の仲介業務を専門的に行う。不動産取引の相手方に対して重要事項説明を実施し、契約書や重要事項説明書に記名押印をする。重要事項説明や記名押印は宅建士の独占業務なので、宅建士資格を持たない者が行うと宅建業法違反となる。

不動産仲介業者であっても宅建士資格を持っていない人は意外と多く、不動産の専門知識を持たずに売買仲介の営業を行っているケースもある。不動産業界では契約を取れば取るほど物件調査や契約書の作成などといった業務が増えるため、どうしても勤務時間が長くなり、宅建士資格の勉強をする時間がなかなか取れないことも多い。筆者の場合は宅建士試験に合格してから不動産会社へ勤務することになったので、タイミングがよかったと思っている。

ちなみに筆者が宅建士に興味を持ったのは、よく買い物へ行く地価が高い商業地に、店舗付き土地が300万円で売りに出ていたことがきっかけだった。建物が古いとはいえ、市街地の中心にある商業地なので「安いな」と思ったが、不動産の知識がないため、本当に安いのかが分からず購入には至らなかった。その物件は売却に出てから2週間ほどで売買が成立したようだった。その時の大きなチャンスを逃したような後悔から、不動産を学ぶために宅建士の勉強を始めた。