米国在住の不動産投資家・石原博光さんが自身の知見から「不動産投資」を語る本連載。今回は、「遠隔地にある物件の管理」がテーマとなっています。

2014年に米国に移住してからも、日本で3物件を所有し続けている石原さん。果たして、どのように維持・管理をしているのでしょうか?

日本の物件で感じた「駐車場の大事さ」

こんにちは、石原博光です。今回は「遠隔地の物件の管理」をテーマに、僕の経験などをお話します。最初に、僕の日本の物件をご紹介します。

僕は、米国では自宅を含む6つの戸建てを所有していますが、現在、日本でも3つを所有しています。

1つ目は、茨城県にある3階建ての物件です。重量鉄骨造で築40年超。17世帯は、ありがたいことに満室です。電車も通っていないような地方の物件ではありますが、見た目はタイル張りで、古い割に古さを感じさせない外観になっていると思います。

2つ目は栃木県の大きな駅から徒歩圏内にある、4階建て。こちらはエレベーターがありませんが、最上階も含めて24世帯満室となっています。全室55平米以上あり、ファミリー向けであるのが特徴的でしょうか。この鉄筋コンクリート造物件も築33年ほどになりました。

この2つの物件に共通して言えるのは、やはり、駐車場の大事さです。実は、購入時には両方とも世帯数分の駐車場がない状態だったのですが、木が植えてある部分をつぶしたり、車の並び方を変えたり、小型車用と中型車用とサイズを分けて、改めて線を引き直したりと、世帯数以上の駐車場を確保する努力をしました。

栃木県に所有する物件

3つ目は、もともと自宅と事務所を構えていた都内の物件です。こちらは移住を機に一般的な賃貸物件として運用をしていたのですが、昨年からはミニホテルとして、運営する法人に一括で貸し始めました。

都内という立地柄なのでしょうか、運営は順調のようです。

移住してから「一度も物件を訪れてない」

実は、2014年に米国へ移住してから、これら所有物件の現地を一度も訪れてはいません。僕はこれまで、「現地で大家自身が指揮をとらなくても経営できる体制」を目指してきており、なるべく現地に行かないようにしてきました…と話すとちょっと語弊があるので、もう少し丁寧にご説明します。

僕は物件を購入すると、空室のリフォームや敷地の有効活用(駐車台数の最大化や入居者向け物置設置)など、物件再生から手をつけます。そのために、現地の職人の開拓から始めます。地元にある会社をまわって、何社も相見積もりをとっていきます。

それと並行して、現地に行った際には必ず管理会社に顔を出し、リフォームなど膝を交えた相談を行っていきます。そのうち、1年もすれば状況は落ち着いてくるので、数カ月に1度程度、状況の確認のために物件を訪れ、管理会社にごあいさつに伺うようになる。それが数年後には、1年に1度顔を出すか出さないか…という頻度になっていく。

物件購入直後に現地を訪れ、管理会社やリフォーム会社、職人との協力体制をしっかり構築する。そうすることで、究極的には現地に行く必要がなくなるのです。

大家16年目の境地、管理会社との連絡のコツ

管理会社とのコミュニケーションには、もっぱらメールを活用しています。込み入ったことを話すのに電話を利用する時でも、双方の記録という意味で、話した内容はメールで後から送るようにしています。

大家16年目の境地でわかったのは、メールや電話での連絡は、頻繁には行わないほうが良いということです。相手は忙しく、大家からしょっちゅう連絡があっても迷惑になってしまうだけだと思っています。

リフォームをする時や保険申請をするような時、また、空室のある時くらいにしか連絡は取りません。空室があって客付けを行ってもらっている時でも、連絡は2週間に1度くらい。その際には、現在どういう状況なのか、内見はあったのか、決まらなかったのなら、どんな決め手が欠けていたのか、ほかの物件に決まったらどういうところに惹かれたのか…など、ヒアリングしてもらった結果を長話にならない程度で聞きます。

空室が決まらないと、一日おきに管理会社、客付け会社と連絡を取る方もいるようですが、そんなに高い頻度で連絡をしても、状況はあまり変わらないのではないでしょうか。むしろ、電話をされた担当者の心の中が変わっていってしまう気がします。「うっとうしい大家」と感じられてしまうかもしれませんよね。

入居募集をする時には、部屋自体の商品力や魅力ももちろん大切ですが、それ以上に管理会社などとのコミュニケーション、動いてもらうための関係構築が重要だと僕は考えます。そして、信頼関係の構築は遠隔にいてもなんら問題なく行えます。

メールでの連絡で気を付けたい2点

メールを書く際、気を付けていることが2つあります。1つは、「だらだらした文章を書かない」ということです。シンプルで、内容が理解しやすい書き方を心掛けています。管理会社などにメールをする時は、だいたい何かを依頼したり指示したりする時ですが、長い文章の中に3つも4つもお願いを書いてしまうと、ヌケモレが発生することもあります。依頼内容がわかりやすく、伝わりやすいように書くようにしています。

それともう1つは、「丁寧な対応をする」ということです。メールは、「デジタルタトゥー」。一度送ると、それが一生残ってしまうといっても過言ではありません。また、担当者にメールしているつもりでも、社長以下スタッフ全員と共有されていることは珍しくありません。

一時の感情に任せた書き方をしてしまえば、良好な関係構築は難しくなってしまいます。認識違いがあったり、対応を後回しにされたり、怒りが湧く時もありますが、そういった時に感情的になって怒りをぶつけるのではなく、冷静に言葉を選ぶことが大切だと思っています。こういった気遣いは「時間の無駄」という人もいますが、個人的には、丁寧な対応を心掛けています。

大家業は、最終的には、人間力だと思うんです。僕も若い時には舐められっぱなしでしたから、忍耐力はかなり鍛えられたと思っています(笑)。

遠隔地で行う「援護射撃」の重要性

米国に移住してから、日本の物件では入居者が逮捕されたり、室内でお亡くなりになっていたり、それに伴って6室の一斉退去があったり、入居者の過失による水漏れ事故があったり、台風でポストが破損したり…。それから、放置自転車や放置タイヤの対処、コウモリの糞害や蜂の巣の問題、退去ごとのリフォーム、共用部天井からの漏水とさまざまな出来事が起きています。

しかし、これらの問題は、大規模修繕も含めて現地を訪れることなく全ての対応を完了させています。損害保険会社への保険金請求も、管理会社の担当に対応してもらい、問題なく下りています。

一方で、管理会社に全てを任せるということはしていません。例えば入居者が逮捕された時には、第一報のメールと電話で状況を把握し、自分でもインターネットでさまざまな情報を調べました。拘置所での勾留期間を過ぎて刑務所に移ってしまうと、収監先の照会が難しくなるため「初動がとても重要」であることはこの経験から学びました(親族でない限り、収監先は弁護士を通さないと教えてもらえず、大きな費用を要します)。

逮捕されると家賃保証会社との契約が解除となり、入居者が生活保護受給者だった場合はそれも打ち切られます。実際に動いてもらうのは担当者ですが、国選弁護人との打ち合わせや逮捕された方との面会の段取り、部屋の明け渡し交渉と残置物放棄(引受人がいなかったので…)に向けた準備、債務を一覧表にするといった「援護射撃」は遠隔地にいる僕にも可能です。

遠隔地物件を上手に管理するために

発生したトラブルに対して、どういった手を打っていくのかということは、自身が考え、意思を伝えていかなければ、協力してもらえるものもしてもらえなくなってしまいます。経営者は自分です。100%管理会社に丸投げをして、知らない間に終わっている…なんてことはありません。何かあった時には、自分が主体となって動く、スピード感や勢いが大切だと断言します。

僕とお付き合いをしてくれている業者さんや職人さんは、みな、異口同音に「距離をまったく感じない」と言ってくれます。遠方にいてもそう思ってもらえるように、自分自身を「アイドリング」(稼働可能状態)しておくことが重要なのではないでしょうか。

塗装の世界では「養生8割、塗り2割」という言葉があるそうです。本番よりも、その下準備が重要で、時間をかける。大家業も常に最善の決断を下せるように、普段から頭の中で準備しておくことが非常に大切だと思います。

管理会社から判断や指示を仰がれたら、すぐに返事をします。意思決定のスピードは大切で、経営者としては当然のスキルだと感じます。ずっとうやむやにして返事をしない人もたまにいますが、そういう人は、自分こそ後回しにされてしまうでしょう。

スピードと言えば、お金を支払う時のスピードも、僕はかなり早い方です。メールで請求書をもらったら、見た瞬間に対応するし、電話で「払います」と確定したら、5分以内には振り込みを完了させています。

こうした1つ1つの積み重ねが、信頼関係の構築に寄与すると思います。

「管理会社に任せきり」の失敗談

知り合いの大家さんで、こんな失敗談がありました。遠隔地にある物件を管理会社に任せきりにしていたのですが、「施工を行った」と報告を受けていたリフォームなどがまったくされておらず、費用はすべて架空請求だったというのです。

今の世の中、現地の状況をスマホで撮ってもらい、その場で送ってもらうこともできますから、こうしたリスクは極力排除できると思います。

しかし、どんなに便利なツールが出てきたとしても、最終的には人間関係に尽きる。だからこそ、僕は言葉や態度に気を付けたいと考えています。それに、うわべだけ取り繕っても、行動が伴わなければ見抜かれてしまうこともあります。

おまけ・石原さんのアメリカこぼれ話

アメリカ・カリフォルニア州にある「セコイア国立公園」に出かけました。

1635平方キロメートルもある広大な公園はシエラネバダ山脈の一部で、入口から40分ほど山嶺に向かって車を進めると、そこには樹齢2000年を超えるセコイアの巨木(地球最大の樹もあります)がたくさん! まるで自分が小人になったような、不思議な世界が広がっていました。

さらに奥には、富士山を超える高い霊峰がそびえ、270以上もの洞窟が点在し、滝や深い渓谷、泉や温泉、湿地帯が無数にあって星空も本当に素晴らしくて…。グリズリー(アメリカヒグマ、最高時速65キロとも)やエルク(アカシカ、人の背丈より大きく、体重は600キロに達するものも)もたくさんすんでいます。

写真はトレイル中に沢が流れる音を辿って、コースから少し外れたところで見つけた名もなきクリーク(小川)。どこまでも澄んでいて、倒木もそのままに、足元にはみたことがないほど巨大な黒アリたちが群れをなしています。

電波も届かない空間に身を委ね、ありのままの自然と向き合うことで魂が癒やされるようでした。野生動物はたくさんいましたが、幸か不幸かグリズリーに遭遇…せず、無事の生還を果たしました(笑)!

(石原博光)