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賃貸経営をする上で起きるさまざまなトラブル。予防したり対処したりするために、法律の知識はできるだけ習得しておきたいものです。

弁護士法人丸の内ソレイユ法律事務所の阿部栄一郎弁護士が、不動産投資をとりまく問題を解説します。

第1回目の今回は、ニュースでも話題になった「住宅ローン名目での投資用物件の購入」について。法律的にはどのような問題があるのでしょうか?

○今回のトラブルの概要

不動産コンサルタントの営業文句を信じたX氏は、A銀行から住宅ローン名目で融資を受けて、とある投資用物件を購入しました。

しかしながら、後日、A銀行に、X氏が購入した物件に居住しておらず、賃貸に出していることがばれてしまいました。

その結果X氏は、A銀行から、契約に反したことを理由として住宅ローンの残額を一括返済するよう求められた…という事例です。

「住宅ローンで投資」、不動産コンサルを信じて…

不動産投資初心者のX氏は、ある日、不動産投資コンサルタントのセミナーに参加しました。不動産投資コンサルタントは、セミナー中で「最近は不動産投資のローンの審査が通りにくくなっている」「しかしながら、住宅ローンは不動産投資のローンと比べて通りやすいから、不動産投資にも住宅ローンを利用すべきだ」などと話していました。

さらに、不動産コンサルタントは「住宅ローンを利用するメリットは審査の通りやすさの面だけではない」「住宅ローンは不動産投資のローンよりも金利が安いため、利回りがより良くなる」「不動産投資に住宅ローンを利用するのはメリットしかない」とも熱弁を振るっていました。

それを聞いたX氏は、住宅ローンを利用して不動産投資物件を購入しようと思い、状況をよく理解しないままに、不動産コンサルタントと契約をしてしまいました。

その契約は、契約時に数十万円、住宅ローン審査が通った段階で数十万円を支払うというもの。不動産コンサルタントはあくまでアドバイザー的な立場であって、代理行為はしないということでした。そのため、金融機関との間の契約は全て自分でやらなければなりませんでした。

一方で、住宅ローンの中でも、低収入や自営業者でも審査が通りやすい商品や、住宅ローンが通りやすくなるための書面の準備といったことを、その不動産コンサルタントが手取り足取り教えてくれました。

X氏が不動産コンサルタントの言うとおりにA銀行の商品に申し込み、きちんと書類を揃えたところ、無事に住宅ローンの審査に通りました。X氏自身も住宅ローンの審査が通った際には、嬉しさもひとしおだったそうで、不動産コンサルタントにもきちんと報酬を支払いました。

その後、購入した投資物件の賃借人も決まり、無事に賃料が入り始めました。ところが2カ月後、A銀行から一通の通知がX氏の下に届きました。X氏が不動産投資目的で住宅ローンを利用したことが発覚したため、住宅ローンの残金を一括で請求するという内容の通知でした。

その通知を見て驚き、X氏は、不動産コンサルタントに連絡をしましたが、連絡がつきませんでした。X氏は結局投資物件を売却。それでも債務が残っており、ほかに抱えていた投資物件の返済も滞ってしまったため、やむなく弁護士に依頼して破産申立てをすることになったのです。

カギとなるのは住宅ローンの「目的」

住宅ローンや不動産投資ローンなど、銀行の提供する商品は、民法587条が規定する消費貸借契約の一種である「金銭消費貸借契約」です。金融機関との間で締結する金銭消費貸借契約書にはさまざまな条項が規定されていますが、上記の事例で問題となったのは、1.契約の目的と2.期限の利益の喪失条項です。

上記1の「契約の目的」は、多くの場合、契約書の最初の方の条項で規定されています。契約の当事者が当該契約を何の目的で締結するのかということを定めています。住宅ローンを例に挙げれば、借主は、自分又はその親族が居住する物件購入のために金銭を借り受けるということになり、それが目的として規定されます。上記の事例では、契約の目的と実態が異なっている(投資物件を購入するために住宅ローンを借りています)わけです。

また、上記2の「期限の利益の喪失」条項は、端的にいえば、契約で定められた一定のルール違反をすると、残金を一括請求されるという内容のものです(住宅ローンなどは、借り入れた金銭を分割で払っていく…つまり、返済期限を猶予されているのですが、その猶予されていた期限を失うことから、期限の利益の喪失と表現されます)。

多くの契約書では、例えば、契約の各条項に違反した場合などを期限の利益の喪失の事由として規定しています。上記の事例では、X氏が住宅ローンの目的条項に違反したために、住宅ローンの残金の一括払いを求められているわけです。

詐欺とみなされる場合も

A銀行は、X氏に騙されて金銭を貸し付けているわけですから、民法上の詐欺(民法96条)や刑事上の詐欺罪(刑法246条)に該当する可能性もあります。

民法上の詐欺に該当する場合、A銀行は、X氏との住宅ローン契約を取り消すことができ、その場合、住宅ローン契約はさかのぼって存在しなかったこととなります。その場合、住宅ローン契約がなかった状態に戻りますので、当然、A銀行はX氏に対し、貸し付けた金銭の残金の一括払いを求める(正確には、不当利得返還請求といって、契約がなかった状態に戻すために金銭を戻してもらうのですが、実質は残金の一括払いと同じです)ことになります。

他方、刑事上の詐欺罪に該当する場合は、刑事手続きを経た後、罰金や懲役刑などが科される可能性もあります。ただし、刑事罰となるような詐欺は、長期にわたって複数回繰り返している、詐取した金額が多額である、発覚しないように偽装工作をしている、住宅ローン控除を受けており脱税の側面があるなどといった相当程度悪質な事案に限られると考えられます。

投資家がトラブルを避けるためには

投資家が上記の事例のようなトラブルを避けるためには、契約書をよく見ることが重要です。契約書を何のために締結しているのか、契約書にはどのようなことが書かれているのか、自分にとって有利なのか不利なのか、リスクは何かといったことを十分に認識することが必要です。

上記の事例でいえば、住宅ローンがそもそもどのような商品なのかということを考えれば、住宅ローンを利用して投資物件を購入することは契約に違反するということはすぐに分かるはずです。

自分自身で契約書の内容を理解する自信がない場合には、弁護士に相談するなどして、契約書の内容をかみ砕いて教えてもらうことをお勧めします。

私も、実際に依頼者から、上記の事例のような不動産コンサルタントとの契約書を見てほしいと言われ、住宅ローンを利用して投資物件を購入するのは詐欺となる可能性が高いので、止めた方が良いとアドバイスをしたことがあります。その結果、依頼者は不動産コンサルタントとの契約はせず、難を逃れたようです。

もし、巻き込まれてしまったら…

もし、上記の事例のようなトラブルに巻き込まれてしまった場合、まずは、金融機関と交渉をするのが良いでしょう。上記の事例の場合、A銀行との関係ではX氏が全面的に悪いですから、法的に戦おうとしても、ほぼ勝ち目はありません。

金融機関と交渉し、不動産投資ローンに契約し直してもらうというのが、一番無難な方法です。金利が多少高くなり、利回りが悪くなろうとも、最悪のケースを避けられる可能性はあります。

金融機関に他のローン商品がない場合は、他の金融機関への借り換えを検討し、それが叶わなければ、投資物件をできる限り高く売却し、一括返済をすることを考えるのが良いかと思います。

もし、投資物件売却後に債務が残った場合には、残債務の支払方法等について交渉し、できる限り、長期の分割払いに応じてもらうことが良いと思います。

ですが、やはりまずはきちんと自分自身で知識をつけ、その契約書が果たしてどのような意味を持っているのか、受けても良い融資なのか、買ってもいい物件なのか、を判断できるようになることが最善ではないでしょうか。

(阿部栄一郎)