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あなたは、「自分がいくらぐらいまでの物件を購入できるか」ということを把握しているだろうか?

収益物件を購入する際は融資を利用するケースが多いと思うが、これから不動産投資を始める場合、「自分がどれぐらいの融資を引けそうか」ということを知っておくことが重要になる。せっかくいい物件を見つけても、融資が承認されずに買えなければ意味がないからだ。

今回は、元不動産仲介業者である筆者が、資金計画を作る際の考え方や、金融機関に紹介しやすい・紹介しにくい投資家などについて解説していく。

「お客様アンケート」の目的は

投資用の収益物件を購入するときは、まず物件を紹介している不動産会社に問い合わせるのが一般的な流れ。不動産会社にもよるが、多くの場合、問い合わせてきた投資家に対してまずは自社へ来てもらうように促す。直接会ってどんな人なのかを確認するためだ。

問い合わせ客から物件の内見希望があれば、物件の現地へ案内して現況を確認してもらうが、その後は店舗や事務所へ来てもらい、具体的な資金計画の話を進める。筆者が勤務していた不動産会社では、初めに「お客様アンケート」を渡して記入をしてもらい、アンケート内容を見ながら顧客に質問をしていくのが基本の営業スタイルだった。

アンケートはシンプルなもので、「物件を探しているエリア」「年齢や家族構成」「仕事の職種」といった構成になっており、アンケートの最後のほうに「年収」や「自動車ローンの有無」「所有資産の有無」などについての質問がある。

これは、アンケートという名の「資力探り」だ。

仲介業者が知りたいこと

不動産仲介業者の営業マンからすれば、顧客の年収やその他のローンについてあれこれ質問するのは抵抗がある。投資家の側として考えても、初めて会った仲介業者にいきなり自分の年収を訊かれるのは、誰でも少なからず嫌な気持ちになるのではないだろうか。

営業マンとしては資金計画の話を進める際に顧客の資力確認は必須なので、アンケート用紙を渡す前に必ず「お客様に合った物件をご紹介させていただきたいので、最初にいくつかご質問をさせてください」と伝える。何も言わずにアンケート用紙を渡すのと、「質問する理由」を伝えてから渡すのとでは顧客の反応が大きく違うからだ。

営業マンが最も確認したい部分は顧客の「年収・ローンの有無・資産の有無」で、次に勤務先や家族構成などを確認していく。アンケートの回答内容を見ながら、より突っ込んだ質問をしていくのが通常のマニュアル。会社の勤続年数や業務内容のほか、奥様は働いているか、子供は何歳か、両親と同居しているか、など、何気ない会話の中で探っていく。

仲介業者も失敗したくない

不動産は売買金額が大きい買い物なので、投資家は誰だって失敗をしたくないはずだ。これは不動産会社も同じで、仲介業務を遂行するにあたって失敗は許されない。「不動産仲介業者の失敗」とは、主に以下の3つを指す。

・顧客のローン審査が通らない
・顧客が他の不動産会社で契約してしまう
・物件に問題(隠れた瑕疵など)があり、契約後に顧客からクレームがくる

もし優良物件があったとしても、案内をしている顧客のローンが通らなければ売買契約をした後に白紙になってしまうリスクがある(融資利用の特約による解除)。投資家にとっても営業マンにとっても、それまでに費やした時間が無駄になってしまうため、契約が白紙になるようなリスクはできるだけ避けたい。

他の不動産会社に取られないために

また、顧客に対する物件や資金計画の提案が不十分だと、他の不動産会社で売買契約を決められてしまうこともある。例えば、顧客の年収だけを聞いていて自己資金やその他のローン状況がヒアリングできておらず、返済可能額や簡易シミュレーションなどの説明が実際と大きく異なる場合。また、不動産ローンの金利タイプやその他諸費用の説明がきちんとできていない場合など、他社でもっと具体的な数字を出した資金計画の提案があれば、顧客は他社を信用してしまう。

お客様アンケートを使って最初に年収を訊いておくなど、物件を買うための具体的な資金計画を提案しておけば、顧客は「同じ話を何度もするのは面倒だ」という心理が働き、他の不動産会社に行かれにくくなる。もちろん売買契約後に問題が発生しないために物件調査はしっかりと行う。

こうした営業方針は不動産会社によって異なるが、実際に買付を入れる前には資金計画の話をすることになるので、早めに済ませておいたほうが投資家・仲介業者の双方にとってメリットがある。物件を探し始める前に、具体的な資金計画の相談をしておけば投資家にとっても「買える物件」というのがより明確になってくる。

仲介業者が提案する主な資金計画の内容

次に、不動産仲介業者がどんな資金計画の提案をしているのかを紹介していきたい。ベテランの投資家であれば分かっていることでも、これから不動産投資を始める人は「知らない・分からない」ことが多いのではないだろうか。

特に不動産を購入したことがない人は、「自分が買える金額の範囲」というのを知らない。問い合わせがあった物件価格と顧客の自己資金や年収を確認してみると、ローンの審査対象にもならない、というケースもある。

「どれぐらいの物件が買えるのか」ということをはっきりさせるため、仲介業者が資金計画で顧客に話す内容は以下の通り。

[買主が思っている購入予算]
前述の通り、顧客が頭の中で考えている物件の購入金額と現実とでは乖離している場合が多いため、まずは購入できる範囲をできるだけ明確にしていかなければならない。自動車ローンを組んで車を買ったばかりの状況だったり、カードローンの残債が多かったりする場合は、金融機関のローン審査もかなり厳しくなってくるので、きちんと把握しておく必要がある。

[返済比率]
返済比率とは、収入に対するローン返済額の比率のことで、計算式は「返済比率=年間返済額÷年間収入×100」。例えば年間家賃収入が100万円で、年間ローン返済額が60万円の場合は、返済比率が60%となる。これは返済負担率とも呼ばれており、金融機関は融資条件として返済比率をチェックしている。

不動産仲介業者によっては金融機関の返済比率表を用意しているところもあるので、気になる場合は相談してみよう。

[月々の返済可能額で見る予算]
例えばサラリーマンが不動産投資をするときは、「収益物件の家賃収入と給与を合わせて毎月どこまでの支出額が許容範囲か」を確認しておきたい。収益物件のレントロールをチェックして、物件の管理費・修繕積立金・ローン返済額から手残りのキャッシュフローを計算しておこう。逆算すれば、「この金額までの物件なら買える」というのが見えてくる。

[ローン返済可能額からの予算]
顧客の年収や所有不動産などからローンの返済可能額を予測して物件購入予算を決める。筆者が勤めていた不動産会社では「不動産資金概算シート」というエクセルで作ったツールを用意しており、物件の購入金額や顧客の年収と返済比率を入力して「年間と月間の返済可能額」を算出して提案していた。計算式はいたって単純なもので、例えば給与の年収が500万円の顧客なら返済比率を乗じて計算する。

年収500万円×返済比率40%=年間返済可能額200万円
200万円÷12カ月=月間返済可能額16万6666円

月間返済可能額と物件の1カ月あたりの管理費・修繕積立金などを合わせて総支出金額を計算し、損益分岐点を確認する。

[金利のタイプ]
不動産ローン、住宅ローン共に金利のタイプは複数あり、主に「全期間固定金利型」「固定金利選択型」「変動金利型」の3つに分かれている。

■全期間固定金利型
借入期間中はずっと金利が固定されているタイプ。例えば金利2%でローン契約をした場合は完済するまでずっと返済金利は変わらない。経済情勢に変化があったとしても返済金利が変わらない点がメリットとなる。逆にデメリットとしては、返済金利が変動しないためローン返済額も下がることがない。

■固定金利選択型
例えば初めの5年間だけ金利が1%で6年目から完済までは変動金利型になるなど、一部の期間だけ優遇金利で固定されている。最初の数年のみ優遇金利での固定なのはメリットだが、期間を過ぎると変動金利型になるため、場合によっては金利が上昇する可能性もある。

■変動金利型
半年ごとに1回金利が見直されるのが一般的で、経済情勢に応じて金利が変わっていくタイプ。低金利の時代は返済金利も低いのがメリット。ただし、半年に1回の金利見直しによってその都度金利が上昇する可能性もある。

営業マンは、ローンを組んだことがない顧客に対して金利タイプを説明し、各金融機関の現在の金利を紹介する。金利タイプは投資家が自由に選ぶことができるので、投資スタイルや賃貸事業計画に合わせて検討したい。

[返済方法]
物件の購入金額に応じて借入期間を何年にするか相談しておく。返済可能額と比較しながら提案する。例えば、5000万円を借り入れる場合、借入期間が30年・金利2%で設定すると月々のローン返済額は約18万円。もっと借入期間を縮めて20年で計算すると月々約25万円のローン返済額となり、1カ月あたり約7万円の差額になる。年間にすると約84万円も違い、返済比率が変わるのでレントロールの賃料収入を確認しながら顧客と相談していく。

また、ローン返済期間中は手残りキャッシュフローが少ないが早く完済して利益を取っていきたい場合など、投資家の投資スタイルによっても返済方法は異なる。

[金融機関の種類]
不動産会社が提携している金融機関や、よく利用されている金融機関などを紹介。地場の銀行と頻繁にコミュニケーションをとっている不動産会社の場合は、地場銀行を提案する場合が多い。

筆者が勤めていた不動産会社でよく利用していたのは主に4行で、その中でも地銀2行の利用頻度が高かった。融資担当者と打ち合わせできる機会が多いので融資の相談がしやすく、融資の目途が付きやすいからだ。銀行の支店長を交えて顧客と融資相談ができることもあり、自然と利用する機会が増えていった。

[融資手数料]
銀行から融資を受ける際には「融資手数料」が発生する。定額型と定率型の2つのタイプがあり、どちらか自由に選択できるのだが、借入額によって手数料の額が異なるのでいくらになるのか確認しておきたい。この融資手数料に関しては、実際に物件資料を持って借入の相談をしに銀行へ行った際に具体的な計算をしてもらえる。

一般的には、定額型の融資手数料は約10万円前後、定率型は借入金額の約2%となっている。例えば3000万円を借り入れたときの定率型の融資手数料は、「3000万円×2%=60万円」となり、定額型10万円のほうが割安に感じる。しかし定額型は、定率型よりも借入金利がやや高く設定されているので注意しておきたい。

[収入合算]
もし顧客の家族が働いている場合は、収入合算をすることで借入可能額が上がることも説明しておく。例えば夫婦共働きで収入合算をすることにした場合、もしご主人が持病持ちで金融機関の団体信用生命保険の審査に通らなくても、奥様のほうをメインにして審査すると承認されたケースもある。