iStock.com/kieferpix

「不動産執行」という言葉を知っているだろうか。

債務者のローン返済が滞った場合などに、土地や建物を差し押さえ、競売にかける手続きのことだ。

リストラ、ギャンブル、投資の失敗――。さまざまな理由で生活の歯車が狂い、追い詰められた債務者と向き合う仕事。

そんな「不動産執行」を生業としているニポポさんに、知られざる絶望の現場の内情を明かしてもらう。

転落する投資家の共通点

この文章に目を通してくれる方の多くは「不動産投資家」としての一面を持ち、大きな、或いはある程度の成功を収めているかもしれない。私は、不動産関連の現場事情を多少なりとも把握している身として、個人的には不動産投資の行く末にあまりポジティブなイメージを持っていない。

それでも「不動産投資家」という一面を持ち、「成功」や「安定」を手にしている方に向けて、この文章を発信していければと思う。

「自分に都合の良くない情報からは目を背ける」
「自分が今やっていることを正当化できる情報しか求めない」

このような傾向が、階段を踏み外し転がり落ちていく不動産投資家の共通点として挙げられるもののひとつだからだ――。

絶望の淵へ

「不動産執行」

これが私の携わる現場。

さまざまな理由で人生の階段を踏み外し、転がり落ちてきた債務者たち。そんな絶望の淵にいる債務者たちから、さらに家を取り上げていくという酷な仕事だ。

「彼らにとって私達の存在は、死刑執行人みたいなものですから」

この仕事を始める際に先輩から伝えられた心構えの言葉。ある程度の執行をこなす今となっては、これにも納得がいっている。

大抵の人にとって耳慣れないこの「不動産執行」とは、住宅ローンの返済滞りや、借り入れに対する債務不履行の際に生じる「不動産の差し押さえ」、そして「競売」という一連の流れを滞りなく行う存在という認識で問題ないだろう。大まかには。

実際には「抵当権の実行」「強制競売」という2種類があったり、「管理執行(強制管理)」というものがあったりと、少々ややこしい。

住宅ローンや借金の焦げ付きを発生させてしまうと、債権者の申立があり、これが認められると、ある日お手元に裁判所からの特別送達で「担保不動産競売開始決定通知」が届く。このあたりから債務者と連絡を取ることになるのが、「執行官」という存在だ。

欠かせない4役職

不動産執行に関わる「仕事人」を少し紹介しておこう。

「執行官」

段取りや債務者との調整、調査の方法や資料のまとめなどを行う、「執行」チームのリーダー的存在。裁判所の書記官が自らの意思で就任するというケースが大半で、暴力団関係者が凄みを利かせようが、可憐な奥様が涙ながらに訴えようが、当該物件内部から「仏さん」が出てこようが、動じない精神力を持つ。

といっても屈強な人物像ということはなく、むしろ愛嬌たっぷりで債務者を荒立てない温厚さと丁寧さ、そしてウソや隠し事を見抜く冷静な判断力を持つという、実に頼りになるリーダーだ。

「不動産鑑定士」

土地、建物、その地下、上空、周辺と不動産に纏わる情報をくまなく調査し、競売の入札開始価格を決定するという重要な役割を持つ評価人。不動産鑑定士は国家資格でもあるため、「先生」と呼ばれる存在でもある。

この2役職が揃えば大抵の執行は滞りなく進むのだが、責任も重大。大きなミスや見落としがあった場合には、国家賠償という事態に陥る可能性もあるほどだ。

この2役職に加え、債務者と音信不通であったり、立て籠もり、失踪などが発生の場合は、さらに2つの役職が登場することになる。

「鍵師」

限られた時間内にどんな家の扉も解錠しなければならないという、匠の技が求められる仕事人。昨今飛躍的に難易度が向上する「鍵」とも対峙しなければならないため、常にスキル向上を怠らず、定期的に驚きの技術や秘密兵器を披露してくれるイリュージョニスト。

この鍵師として新規参入を試みる業者もポツポツと入ってはくるのだが、スキル不足でなかなか居着けない。そのため、少ない人員が広域をカバーしている。

「立会人・見届人」

誰もいない債務者宅への立ち入りがあるため、最中に窃盗や傷つけといった不手際がないか確認する役職。立ち会うだけなので誰もがなれるのかといえばそういうわけでもなく、基本的には元警察官。不動産執行人チームとしては珍しい女性の参加も目立つ。暴力団関係者が係る案件などでは、元マル暴の立会人が招集配備されるというケースもある。

失敗の原因は多種多様

このさまざまな特色とスキルを持つ4役職が揃えば、全ての不動産に対する「現況調査」が可能となる。ここでの調査が、競売ではお馴染みの詳細資料「物件明細書・現況調査報告書・評価書」、いわゆる「3点セット」としてまとめられ、開札の2週間前には公開されるというわけだ。

「現況調査」では、さまざまな理由で人生に躓(つまづ)いてきた債務者と出会い、その人柄や考え方、置かれていた環境、歩んできた半生というドラマに触れることになる。

そこに一元的な「躓き」の傾向や理由があるわけでもなく、いってしまえば多種多様。誰しもが同様の躓きや滞りに陥る可能性があるだけに、1つ1つの事例に学ぶべきポイントが存在する。

実際にはこの仕事で扱う案件の8割以上が住宅ローンの返済滞りで、次いで多いのが投資での失敗組だ。

今回はせっかくなので、不動産投資に関わる案件を紹介してみたい。