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全国に12万社以上存在するとされる不動産会社だが、その内実はさまざま。中には悪質な手口で不動産投資家を食い物にする会社もある。

「とりあえず手数料がもらえればいい、という『営業重視型』の会社の中には、いいことばかりを話して契約まで持ち込み、解約できないよう売買契約書に罠を仕掛けていることがあります」。物件オーナーからの相談を数多く受け付ける不動産コンサルタントの秋津智幸氏は、こう警鐘を鳴らす。

悪意のある不動産会社の被害に遭わないために、必要なことは何なのか。今回は秋津氏が「売買契約書に潜む罠」について解説する。

「解約したい」

その相談があったのは数年前のこと。初めてアパートを購入したというAさんから、売買契約書を締結して2、3日後の相談でした。契約した物件は、郊外の駅から徒歩10分ほど、ワンルーム10室、築20年程度の木造アパート。築年の割に8000万円と価格が高く、想定の表面利回りは8%程度でした。

Aさんは当時まだ元気だったスルガ銀行の融資で購入することになっていました。相談は、金利が高いこともあってローンの返済に不安を感じ、「できれば解約したい」という内容。返済比率はかなり高く、管理費や固定資産税などを含めるとカツカツという状況でした。

持参した物件の資料を見ると、入居率が今一つで、想定利回りこそ8%でしたが、実態は7%程度。しかも、レントロールでは古い入居者と新しい入居者の賃料差が大きく、今後入居者が入れ替われば賃料が下がっていくだろうことが読み取れました。近い将来ローンの返済はできても、ちょっとした修繕が発生したり、1、2室の空室が出たりすることで、月間収支が赤字になる可能性が高いものでした。

手付解除条項に書かれていたこと

契約後2、3日であることから、本来なら手付金を放棄しての解約(手付解除)が可能なはず、と契約書を読み始めました。しかし、契約書の手付解除条項を見て、どうして相談されたのかようやく理解しました。

その契約書の手付解除期限が「契約日の翌日」に設定されていたのです。

手付金は200万円だったので、通常の契約であれば、締結後2、3日なら200万円をあきらめて解除することができたでしょう。

しかし、その契約書の条件では、その時点で契約を解除するには違約金を支払って解約するしかありません。しかも、違約金は物件価格の20%となっていたので、違約解除するには1600万円を支払う必要があります。

正直、「やられたな」と思いました。

ローン特約にも罠が

ここで、もう一つの解除手段として残されたローン特約(ローン条項)にも着目しましたが、ここにも罠が仕込まれていました。

Aさんは当初、金利が1%台と低いメガバンクでの融資を勧められ、この金利であれば実質利回り7%の物件でも十分月々の収支が回る計算でした。そして、万一このメガバンクの融資が下りない場合でも、金利2%程度の地銀Bなら、やはり収支が成り立ち、手元にお金が残るという説明を受けていたのです。

ここまでの説明を受けて、Aさんは物件を購入する気になったわけですが、本当に最後の手段として、万一、地銀Bの融資がダメだった時のために、金利4.5%のスルガ銀行も保険としておきましょうと言われていました。さすがにメガバンクと地銀Bのどちらかで決まるだろうと考えていた(決まると言われていた)ので、契約書のローン条項にこの2行に加えてスルガ銀行の計3行が記載されていても、気にしていなかったそうです。

違約金を払うしかない状況だった

契約上、ローン条項の金融機関欄に記載された金融機関の融資がすべてダメだったとき、ローン条項が適用され、契約が解除となり、支払った手付金の返還を受けることができます。しかし、結果はメガバンク、地銀Bとも融資はNG。一方、スルガ銀行は融資が通っていました。

Aさんの方の契約書にはスルガ銀行まで記載されていたので、スルガ銀行の融資が通っている以上、ローン条項は適用されず、やはり解除するには違約解約するしかない状況になっていました。

当時(恐らく今も)、このメガバンク、地銀Bともに、築20年の木造アパートでは長期の融資は通らないことは業界では知られており、ローン条項に書かれた金融機関を見れば、初めからスルガ銀行の融資で買わせるつもりだったことが明白でした。

さらに、ローン条項のローン特約の期日をよく見ると、契約日から2週間となっており、当時、このメガバンクも地銀Bも通常融資の承認が下りるまで3週間~1カ月はかかっていたため、この点でもスルガ銀行が本命なことが見てとれました。

結果的に、Aさんに違約解約しかないと伝えると、「やはりそうですか」と落胆され、当然ながら1600万円も支払うことができないということでした。つまり、もう購入するしか選択肢がないということ。Aさんの落胆は見ていて気の毒でしかありませんでした。

後日、Aさんから「結局、その物件を購入しました」と連絡がありました。

契約書には細心の注意を

このケースでは、さも低い金利の融資を利用して購入できるかのようなうまい話で契約まで持ち込み、契約上、高金利でも融資の承認が出てしまえば、多額の違約金を支払わない限り解約できない形にし、購入するしかない状態が仕込まれていました。まさに、「契約書に仕組まれた罠」にはまってしまった事例です。

契約書に記載されている数字には、細心の注意を払わなければいけません。具体的には「手付解除期限が異常に短くないか」 「ローン条項に高金利で審査が緩い金融機関が記されていないか」「ローン特約期日が本命の金融機関の審査に必要な期間と見合ったものか」など。Aさんのケースでも、しっかりと契約書の内容を読み込んでいれば、その時点でおかしいと気付けたかもしれません。

では、この事例も踏まえ、投資家目線で気になる点を以下Q&A形式で解説していこうと思います。