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損保大手4社は10月から火災保険の保険料を一斉に改定し、多くのケースでは値上げとなる。収益物件も例外ではなく、オーナーにとってもランニングコストの増加が見込まれる。どのくらいの値上げとなるのだろうか。物件の構造や所在地などで大きく異なるため一概には言えないが、損保大手などへの取材で、全体平均で6~7%程度、東京都の木造アパートでは約10%の値上げとなるなどの大まかな傾向が分かった。

災害の多発が背景

火災保険は読んで字のごとく、火災などの自然災害が発生した際、保険料に応じて、物件や家財を元通りにするのにかかる費用が保険金として支払われる制度だ。近年は火災よりも台風や大雪といった風水害に対する保険金の支払いが大半を占めている。地震とそれに伴う津波による被害は対象外で、これは地震保険がカバーしている。

値上げの背景には、この風水害が近年多発したことがある。保険金の支払いが増加し、保険各社の収益を圧迫。こうした事情を踏まえ、2018年5月、公的機関である損害保険料率算出機構が、各社が保険料設定の参考としている「参考純率」を4年ぶりに改定した。

同機構は、公益性の高い火災保険や自賠責保険の公正な料率を決めるために法律に基づいて設立された組織。同機構の会員である保険各社から、保険金支払い額や契約件数などのデータを集めて、適正な保険料率の指標となるよう参考純率を定めている。

参考純率は構造別、都道府県別に設定されている。これは物件が損害を被るリスクが異なるからだ。例えば木造よりは鉄筋コンクリートの方が頑丈で風雪に耐えやすい。また台風や大雪に見舞われやすい地域は、当然リスクが増える。

火災保険参考純率における建物(住宅物件)の構造(損害保険料算出機構『2018年 火災保険・地震保険の概況』)

今回の参考純率の改定率は全体平均で5.5%増で、個別の改定値は非公表とされている。後述するが、実際の保険料は各社の裁量に委ねられ、改定率の平均も数ポイント上乗せされている。今回取材に応じた損保各社の場合は、全構造・全国平均を合算した改定率は「6~7%」「7%程度」などとなっている。

以降では、収益物件の具体例を挙げて、値上げ幅がどの程度になるかシミュレーションした結果を紹介する。ただし冒頭でも触れたように、築年数や構造、所在地などによって、保険料や改定率は大きく異なるため、自身の物件がどうなるかは損保各社に問い合わせてほしい。

1棟当たり年間5000円増

今回、損保大手4社に築30年の2階建て木造アパート(6戸、保険金額3500万円)という条件の物件を提示して、改定率がどうなるか試算するよう依頼。すると4社のうち2社が都内での例を挙げて、匿名を条件に回答してくれた。

A社の場合、従来年間6万2140円だった保険料が、10月からは6万8060円となり、9.5%の値上げだった。年間約6000円のコスト増で、仮に都内で同条件の物件を5棟所有していたとすると、年間約3万円増、3年間だと約9万円増の計算となる。

一方B社の場合、一括払、自己負担額なし、1年契約などの条件で、今年7月に契約した場合と10月に契約した場合で比較したところ、改定率は10%増となった。具体的な金額は示されなかったため、仮に7月時点で年間6万5000円とした場合で考えると、10月以降は7万1500円で、6500円の値上げ。5棟所有で年間3万2500円、3年間で9万7500円のコスト増となる。B社担当者は「価格改定率は所在地や保険期間、補償内容等の契約条件や、比較する契約の開始日によって異なります」としている。

大阪、愛知で値下げの可能性も

災害に見舞われるリスクに応じて地域差があることは先ほど指摘した。都道府県ごとの改定率について、損保大手各社に回答を求めたが「開示していない」とのこと。ただある担当者は「全体としては引き上げ傾向ですが、契約条件によって改定率は大きく異なり、引き下げとなる場合もあります」と応じた。

そこで、各社の保険料率改定のきっかけとなっている参考純率の改定率から、傾向を探る。

改定時に損害保険料率算出機構が発表した資料では、保険金額が建物2000万円、家財1000万円の物件を例に、一部地域の改定率を例示している。木造住宅(H構造)の場合、三大都市圏では東京都の6.2%増に対し、大阪と愛知はそれぞれ2.6%減、9.8%減と引き下げになっている。上げ幅が最も大きいのは熊本の25.9%増、下げ幅が最も大きいのは三重の17.3%減だった。

地域ごとの参考純率の改定例(損害保険料算出機構『参考純率改定のご案内』 2018年5月)

ところで、先ほどの損保大手A、B社は都内の木造アパートの改定率がそれぞれ9.5%と10%で、参考純率の改定値からプラス3.5~4ポイント上乗せされていた。これは実際の保険料率算定にあたっては、補償内容など前提条件による違いはもちろん、各社が参考純率算出時以降の最新データを反映させたり、収益性や事業継続のための経費を上乗せしたりしているからだ。

そもそも、保険各社は金融庁の審査を経れば、参考純率に依らず独自の基準を設けて保険価格を定めることができる。このため、参考純率で下落傾向を示していたとしても、実際の改定で値下げとなるかは各社次第というわけだ。

築浅は割引拡大、築15年未満も

保険価格が決まる要素は他にもある。さきの損保大手担当者によると「当社に限らず一般的な話となりますが、築年数の浅い建物よりも築年数が古い建物の方が損害率が高い傾向にあります。公平感を高める観点からも、築年数が浅い建物は引き上げ率が抑えられる傾向にありますが、築年数が古い建物は引き上げ率が高くなります」とのことだった。

つまり築浅物件に限れば、多くの保険会社で、価格面で優遇措置が取られ、場合によっては値下げとなる可能性もありそうだ。

各社がホームページで公表している資料から具体例を紹介すると、損保ジャパン日本興亜は10月から割引対象の築年数を従来の11年未満から15年未満まで拡大。築年数ごとに割引率を変えるという。また東京海上日動は割引対象は築10年までに据え置いたものの、「割引率を拡大する」としている。割引率の算定にあたり、従来は築年数と保険期間のみを考慮していたが、10月からは新たに補償内容や構造、所在地を検討材料に加え、公平感を高めるという。

値上げ、今後も?

最後に、今後の見通しにも触れておこう。今回の一斉値上げの背景には、参考純率という保険各社が保険料を定める際の参考数値があることは既に説明した。

参考純率を決める損害保険料率算出機構は毎年、保険各社の契約件数や契約額、保険金の支払い額などのデータを収集し、分析している。機構の公表している自然災害に伴う保険金支払い額の統計によると、前回改定(2014年)直前の10~12年の年平均が約530億円だったのに対し、今回改定の基礎データとなった13~15年の年平均は約990億円で、ほぼ倍増している。

増加したのは雪災や風災で、近年の異常気象による大雪や豪雨災害が、従来の保険の想定ではまかなえないほどの甚大な被害だったことがうかがえる。

一方、水濡れ損害も増加傾向にあり、保険金支払い額が約50億円だった06年から年々増加し、15年には約230億円に達している。主に水道管などの老朽化が背景にあるとみられている。

水漏れ損害による支払い保険金の推移(損害保険料算出機構『参考純率改定のご案内』 2018年5月)

機構はこうした情報を基に今回の改定に踏み切り、保険料を参考純率に紐づけている損保各社の10月一斉値上げにつながった。前回14年の改定も自然災害や施設老朽化による保険金支払い額の増加を理由に平均値ベースで値上げとなっていた。機構は「今後いつ改定するか決まっていない」としているが、異常気象が常態化しつつあり、老朽化が進む以上、当面は今後も参考純率の値上げ傾向が続くのは避けられそうにない

今回は主に損保大手に焦点を当てたが、1996年の保険自由化以降、多くの事業者が参入し多様なサービスを展開している。今回の改定を機に、保険料を見直してみるのもいいかもしれない。

(楽待新聞編集部/ライター・山崎ハジメ)