区分マンションの購入を検討する際、物件の総戸数や建物図面までチェックする必要はあると思うだろうか? 一般的に、建物内の1室のみを所有する区分マンションでは、それらの情報はさほど重要視されない。しかし、中古区分のみ56室を所有し、無借金で総投資額約3億円、家賃年収3300万円を実現した「区分のプロ」芦沢晃さんの考え方は全く異なる。

不動産投資に必要な物件資料の読み解き方を学ぶ連載の第5回。これまでは登記簿謄本や公図、レントロールなど、一棟物件の購入を想定した内容を紹介してきたが、今回は番外編として、区分マンションの物件資料にスポットを当てる。

芦沢さんは1990年代半ばから都内や京浜地区の中古ワンルームを中心に現金買いを進め、20年以上にわたってほぼ満室経営を維持。鉄板のスポットに絞った投資戦略や長年の経験に裏打ちされた将来予測など成功の要因はいくつもあるが、購入検討段階で物件資料を見るポイントも人とは違っている。

ただ、「区分の物件資料に関する話はかなりマニアックになるので、書籍でもセミナーでもほとんどしたことがない」という芦沢さん。果たして、区分投資家界のレジェンドは、物件資料からどのように「買うべき物件」「買ってはいけない物件」を見極めているのか。そのノウハウを初公開する。

【取材協力】

芦沢晃さん
1995年、担保割れの自宅マンションを貸し出したことをきっかけに不動産投資をスタート。中古ワンルームを中心に56室を所有し、無借金で家賃年収は約3300万円に上る。46歳で指名退職後、再就職した電気メーカーで勤務を全うし、現在は個人技術士業エンジニアの兼業大家。

「販売図面」でまず見る場所は

今回は、まず私が販売図面をどのようにチェックしているか、そして「重要事項調査報告書」でチェックすべきポイント、その他の資料の見方という順番で紹介していきます。はじめに、物件検討段階で手に入る販売図面に記された各項目について、私がチェックする順番に沿って解説します。

クリックで拡大

物件名

一棟物件の場合は「○○ハイツ」「コーポ○○」といった物件名だけを見てもどんな建物なのか想像がつかないので、気にしない人が多いと思います。しかし、区分は判で押したように同じような建物を作るので、ワンルームマニアであれば物件価格や家賃より先に物件名を見るんです。同じワンルーム業者でも、例えばマルコーの「メゾンドシリーズ」、イトマントータルハウジングの「トップシリーズ」など、シリーズによっても建物ランクが違ってきます。

初心者の方だったら、近所にある同じシリーズの物件を見に行けば、ほぼ似たような作りになっているのでイメージができると思います。いくつも物件を見て検討していくうちに、物件名を聞いた瞬間に建物の外観やグレード感が頭に浮かぶようになって、情報が入った時に即決で買い付けを入れられるような土台ができる。優良な区分は、上流で情報が出た瞬間にマニアの買い付けが殺到するスピード勝負の世界です。

最寄り駅

セミナーでもよく初心者の方から「どこの物件を買えばいいんですか」と聞かれるんですが、マルコーのメゾンドシリーズなど初期のワンルーム物件の隣に、それより築浅の3点ユニットが建っていれば、それをお勧めします。そういった初期のワンルーム物件は今でも賃貸需要が鉄板で、驚くべきことに家賃も25年前とほぼ変わっていない。

80年代にマルコーやスカイコート、イトマントータルハウジングといったワンルーム会社が建てた物件というのは、売買後の管理も考えてデベロップしているので、都心の立地を徹底的に調べ上げて20年後、30年後まで賃貸需要があると確信できたエリアに絞っている。当時としては前例がないことだったので、各社ともガチガチのマーケットリサーチをしなければ怖くて建てられなかったわけです。

物件価格

私がターゲットにしているような都心部の3点ユニットワンルームだと、入居者さんが払える家賃は高くて6万円ぐらい。そうなると利回りのラインから必然的にいくらぐらいの物件までが投資対象になるかは決まってきて、私の場合は立地にもよりますが上限800万円ぐらいが目安です。

一棟の場合は積算の出ない物件を買えば担保割れを起こしてしまいますが、現金で買える区分であれば、積算価値が300万円ぐらいの物件を600万円で買っても別に問題はありません。基本は買値と家賃と築年の関係を総合的に判断するもので、長く所有するつもりの人と数年で売却する予定の人でも価格と利回りの目線は変わってきます。

家賃

地方のアパートや戸建てと違って、都会の区分であればそのエリア内に同じようなスペックの部屋が無数にあり、賃料相場はすでに形成されています。家賃が周辺相場から見て適正かどうか、管理会社に電話して聞けば、「そのマンションなら大体いくら」というのがプロは頭に入っているので答えてくれる。同棟内で同じ間取りの部屋がリアルタイムで募集されているケースもあります。

もし家賃が相場より高ければ、「おそらく10年ぐらい前に入ったんだろうな」「次に募集したらいくらぐらいに下がりそうだな」といったことが想像できるので、未来の収益がどのように落ちていくかを先読みすることができます。

駅徒歩

駅徒歩の考え方も、ワンルームの場合は本当にケースバイケースです。例えば私は神奈川の相模原に区分を持っていますが、あそこは駅から5分以上離れると農地法改正の時に膨大な土地が出ていて、無限に競合物件がある状態。あのエリアで区分を買うなら、本当に駅に張り付いているような物件でないと投資できない。

一方で、三鷹や吉祥寺、久我山、仙川に囲まれたあたりなら駅から30分でも投資対象になります。中央線・井の頭線・京王線に挟まれたデルタ地帯の賃貸需要が鉄板であることは私の経験上確かですし、バスも網の目のように走っているから、ワンルームであれば駅からの距離はほぼ関係ありません。

管理費・修繕積立金

ここが区分独特なんですが、管理費・修繕積立金(管積金)を毎月いくら払わないといけないかというのが投資判断にあたっては重要です。この2つはボディーブローのように後からきいてくるので、建物の長期維持ではなく比較的短期の売買を前提とすれば、基本的には少なければ少ないほうがいい。家賃の3分の1を超えてくると、ちょっと手が出せません。

どちらかといえば、管理費が少なくて修繕積立金が多いほうがいいと考えます。管理費は管理会社に吸い取られる割合が多いですが、修繕積立金は支払ったとしても実際はオーナーのものとして将来の大規模修繕に活用されるからです。

例えば毎月の管積金が1万円でも、管理費と修繕積立金が5000円ずつならかなり優秀。管理費が8000円で修繕積立金が2000円だと、厳しいという判断です。

総戸数

区分を買うときに総戸数を意識しない人も多いと思いますが、私は物件の将来性を計る尺度として重視しています。

例えば毎月の修繕積立金が5000円だとして、10年ごとに大規模修繕を行うと仮定すると、50戸の場合は5000円×12カ月×10年×50戸=3000万円、同様に200戸なら1億2000万円が積み立てられることになります。

ただワンルームの場合は、50室のマンションで大規模修繕に2500万円かかるとして、単純に200室あったら4倍の1億円かかるかというとそうでもない。

エレベーターや給排水ポンプ、電源系などは総戸数が増えても費用がそれほど上乗せされないので、50室ぐらいまでは総戸数に比例して修繕費が増えますが、それ以降は頭打ちになり、1戸当たりの負担額は減っていく傾向がある。だから長期的に考えると、総戸数の多い物件の方が有利という考え方ができるんです。

平米数

平米数も立地次第です。八王子や立川だと最低でも15、16平米はないと苦しいかなという感じですが、都心ど真ん中なら8、9平米でも問題ない。私も品川に家賃5万9000円で9平米のワンルームを持っていますが、若い女性会社員が入居してくれています。だから立地に見合った平米数かどうか、というポイントですね。

25平米以上は一般論としてはいいと言われていますが、ワンルーム規制の適用外なので、将来も競合物件が増えていくリスクがあり、入退去時の原状回復費も面積の分だけ高額になります。

また、ファミリー向けの区分を買って出口で実需売却を考えている場合は、住宅ローン控除の対象になる50平米以上を基準にした方がいいです。

間取り図

ワンルームは狭いですから、角部屋で窓が複数あって明るい作りの方が好まれます。あとは最上階でルーフバルコニーが付いている部屋なども狭さを補えるメリットです。ワンルームの場合は寝に帰るだけという人も多いので、方角は北向きでもそれほど懸念しません。

形はできれば長方形より正方形の方が住みやすい。玄関から部屋が全部見通せる間取りは、配達が来た時などにプライベート空間が見られてしまうので、女性にはストレートな作りより動線が曲がっている方が好まれます。

あとは下駄箱や洗濯機置き場があるかどうかなどもチェックします。ワンルームのよいところは、仮に間取り図が不十分でも、ネットで物件名を調べれば同じ物件の他の部屋の中が写真で見られることですね。

築年

ファミリー向けなどで融資を引く場合は築年もある程度関係してきますが、私の場合は現金なので、ほぼ関係ないんですよね。ただ年数のわりに傷んでいるとか、新築からこれだけ建っているのに大規模修繕をほとんどしていないとか、そういったことはすぐに分かります。

融資を受ける場合はもちろん築年が重要で、旧耐震かどうかもチェックポイント。ただ、RCなら旧耐震でも立地の優位性で早期に投資回収できるならおそらく平気なのですが、1室目として買うのは避けた方がいいかもしれません。10戸ぐらい所有しているなら1戸ぐらい潰れても他でなんとかなりますから、旧耐震でも家賃が取れればいいという判断もできます。

例えば新宿にある「ニューステイトメナー」という892戸のマンションは築40年を超えた旧耐震物件ですが、昨年大規模修繕をして、今でも見に行くと新築同様です。銀行は築年を重視しますが、実際に住む人はきれいなら関係ないので、現金買いの区分で考えれば築年はあまりみません。

取引態様

「専任媒介」と書いてあれば、自社で買い取らずに三為取引をしている囲い込み物件なので、価格交渉ができる可能性が高いと判断する。逆に「売主」と書いてある場合は自社で買い取って一度抱いている物件で、ある程度売り手の値段が決まっている状態なので指値がききにくい。

ネット掲載可の場合はどこかに公開日が書いてある場合があって、公開から3、4カ月経っているのに売れていない場合は何か理由がある。逆にそういう物件であれば思いっきり指値して通るかもしれないという見方もできる。そのあたりは一棟物件と同じような考え方ですね。

管理会社

建物管理会社名は販売図面に書いていない場合も多いんですが、分譲会社や施工会社よりよっぽど重要な情報です。我々ワンルームマニアの間では業界で名の通った管理会社というのはいくつかあるので、後述の「重要事項調査報告書」を取り寄せてみて、未知の管理会社が記載されている場合は要調査です。

初めて区分を買う人で、どの管理会社がいいか分からない人もいると思います。一番いいのは区分に詳しい大家仲間に聞くことですが、それが難しい場合は直接その管理会社に電話してしまうのも手です。

例えば「このマンション買おうと思っているんですが、大規模修繕って何年前にやったんですか?」「修繕積立金はいくらぐらい貯まっていますか?」などと聞いてみて、パッと出てこなかったりしたら少し危険です。

普段歩いている時などに管理状態のよいマンションを見つけたら、外から見える掲示などで管理会社がどこなのかチェックし、自分独自のデータベースを蓄積していくのもいいと思います。

管理員

ランクとしては常勤(住み込み)が「松」、日勤が「竹」、巡回が「梅」というイメージです。ただ、常勤の場合は1人雇うのに組合費から20万円ほど支出することになるので、戸数が200戸ぐらいあればまだいいですが、100戸の区分で常勤となると相当管理人に食われてしまうことになります。

設備

給湯がガス給湯器ではなくて電気温水器と書いてある場合があります。ガス給湯器なら取り替えるのに6万円ぐらいですが、電気温水器の場合は壊れると30万円かかりますから、それを見込んでもペイできる買値が可能か検討します。

また、共用部からのセントラル給湯の場合、遠く離れた部屋だと蛇口からお湯が出るまでに大量に水を出す必要があるので注意が必要です。

区分の場合、エレベーターは戸数との兼ね合いで考えるべきで、戸数が50戸や100戸あればエレベーターがあっていいですが、30戸とかならない方がいい。金食い虫なので修繕積立金の貯まり具合に大きく関わってきます。

専有部にあって共用部財産になっている設備が破損した場合の修繕費負担先も、事前に建物管理会社に確認しておきたいところ。例えば居室の窓ガラスは一般的にガラスの内側が専有部、外側が共用部の財産なので、ガラスの熱割れなどが発生した場合に管理組合の共用部保険でカバーできるなら安心です。

3点ユニットに対する考え方は一棟物件とは別世界で、都会の区分の場合はむしろ3点ユニットの物件は賃貸がいいという判断になります。前述した通り、初期のワンルーム会社がマーケットリサーチをした場所に立地していますし、都内ではワンルームマンションの建築規制で狭小のワンルームは建築できずに希少性が高まっている。地方では入居も厳しくなっていますが、例えば目黒や世田谷など城南・城西エリアの3点ユニットはいまだに賃貸は堅いです。