2020年の東京五輪開催まで、あと1年を切った。「東京五輪後に不動産価格はどうなるのか」というのは業界内で何年も前から議論されているテーマだが、「価格は五輪まで上昇を続け、五輪後に暴落する」という予測も多い。

しかし、住宅評論の第一人者で年間200件以上の物件取材を行う住宅ジャーナリスト・櫻井幸雄氏はこの意見に真っ向から反論する。長年の経験と現場の取材を基に、東京五輪後のマーケットに対する見方を聞いてみた。

「間違いなく儲かる」と思った事例

楽待新聞で記事を書くのは初めてだが、本題に入る前にひとつ断っておかなければならないことがある。

それは、私が「不動産投資をしていない」ということだ。

35年間不動産の取材をし続け、毎年200を超える物件の取材を行ってきているから、「これは、間違いなく儲かる」と確信した事例がいくつもある。

たとえば、渋谷区内の高級マンション「広尾ガーデンヒルズ」では新築分譲時(1986年前後)5000万円台で購入できる2LDKがあったし、新橋駅に近い汐留エリアの超高層マンション「東京ツインパークス」では新築分譲時(2000年から01年にかけて)3000万円台の1LDKもあった。いずれも最盛期3倍から10倍に値上がりしたし、賃貸として活用した場合も表面利回りで10%前後は確実だろう。
 
でも、手を出さなかった。

600万円が1億円に

理由は、最初に取材したマンションにある。

私がはじめて不動産の取材をしたのは投資物件だった。1980年代のはじめ、六本木で売り出されたワンルームマンションで、約20平米が600万円という物件。全100戸くらいの規模で、私自身買ってもいいかなと思った。が、100戸一括で買うという中国人が現れて、一般には売り出されなかった。

その物件は、バブルのときに1部屋1億円まで値上がりした。それを知った私も「同様のワンルームを買っていれば…」と悔しい思いが浮かんだ。が、同時に悟りめいたものもあった。オマエはコツコツと取材をして記事を書いてゆきなさい、という神の思し召しのようなものだ。 

以来、取材だけの生活を送ったおかげで、市況の動きが読めるようになった。自ら不動産投資をやっていると、希望的観測が出てくる。これからの市況はこうなってほしい、こうならないでほしいという欲だ。すると、市況を見誤ることになりがち。

ところが、投資をしていないと、上がっても下がっても関係ない。ニュートラルな目で現場を見て歩くと、これから上がるか、下がるか、がピンとわかる。そして、おおよそその通りになった。

これまで、不動産市況の動きを外したのは、東日本大震災の後だけ。これから上がると考えていたのが、震災によって下がってしまった。その1回だけだ。

と、思いきり大きな風呂敷を広げてから、これからの予測を書きたい。

マンション暴落論の中でも

東京五輪の閉会後に首都圏のマンション価格は大きく下がる、という予測がある。

しかし私は、都心マンションの価格が上がり始めた2015年以降、一貫して「この先、不動産価格は下がらず、東京五輪後も下がらない」と言い続けている。

2015年といえば、マンション暴落論が広まっていた時期。その中、「下がらないと言ってるのは、アンタだけだ」とテレビ局から取材が来たくらいだから、当時は異端扱いされていた。

実際、首都圏の不動産価格は下がらなかった。東京五輪後も下がらないだろう。

過去の五輪開催国はどうなったか

その根拠として、私は、過去五輪を開いた国の状況を挙げている。

2016年のリオ五輪まで約30年の間で、五輪の開催地は次の通り。

16年 リオデジャネイロ(ブラジル)
12年 ロンドン(イギリス)
08年 北京(中国)
04年 アテネ(ギリシャ)
00年 シドニー(オーストラリア)
96年 アトランタ(アメリカ)
92年 バルセロナ(スペイン)
88年 ソウル(韓国)

過去8回の五輪開催国のうち、多くは五輪開催前から景気と不動産価格の上昇が起き、閉会後も下がらなかった。

参考:過去のオリンピック開催国の住宅価格(みずほ総合研究所)

中国と韓国で五輪閉会後も好景気が続き、不動産価格が上昇し続けたのはご存じの通り。近年陰りが見えてきたとされるが、中国は五輪終了後11年間好景気が続いている。韓国にいたっては五輪終了後30年も好景気だった。

92年バルセロナ五輪が開かれたスペインは07年から08年にかけてのリーマンショックで一時打撃を受けたが、それ以外の時期は好景気だ。96年アトランタ五輪のアメリカもリーマンショックまで不動産価格が上がり続けた。00年シドニー五輪のオーストラリアは、91年以降一度も景気後退が起きていない優等生である。

12年に五輪を開催したイギリスでは、五輪開催後もロンドン周辺の不動産価格は上昇を続け、現在は高止まりの状況を見せている。

閉会直後から下がった国はない

過去約30年の前例を調べると、「五輪まで上がって閉会直後から下がった」という国の例はひとつもない。ちなみに8カ国のうち、景気と不動産価格の上昇が起きなかったのはアテネ五輪のギリシャとリオ五輪のブラジルの2カ国。これは特殊な例といえる。

ギリシャは経済の悪化でヨーロッパの「お荷物」になっており、五輪をきかっけにこの状況を打破したいという期待を込めて開催が決まった。ブラジルは成長する南半球の象徴として開催が決まった。しかし、サッカーのワールドカップ(14年)と五輪(16年)を立て続けに開催するのは無理があった。

2つの国はいずれも五輪開催の費用が負担になり、五輪前から経済が悪化。五輪景気も盛り上がらず、ただ下がっただけ、という特殊ケースである。