米国在住、実績豊富な不動産投資家・石原博光さんが日米の不動産投資を語る連載。今回は、「老後2000万円問題」も少し絡めながら、ファイナンスへの意識についてお話いただきました。
アメリカと日本では、ファイナンスの考え方がかなり異なっているようです。また、石原さんが「投資初心者」に送るアドバイスは…。
投資に後ろ向きな日本人、貯蓄が少ないアメリカ人
こんにちは、石原博光です。今回は特に初心者の方に向けて、マインド面の話をしたいと思います。
少し前ですが、日本では「老後2000万円問題」が話題になっていたそうですね。年金だけでは老後に必要な資金を賄いきれない、という報告書が出されたことをきっかけに、多くの方の中で、将来に向けたファイナンスの意識が高まったようにも思います。
それでも、やはり「投資」に対しては少し後ろ向きなのが一般的な日本人なのかな、とも思います。
僕は現在アメリカ・カリフォルニア州で暮らしていますが、アメリカ人の貯蓄は日本人に比べて3分の1だそうです。そして、聞くところによると3人に1人は老後の貯蓄が0だとか。一方で、「投資」をしている率は日本人の4倍なのだそうです。
お金を貯め込むのではなく、投資をし、運用する。それがこの国では当たり前に行われています。
老後に必要な「6割の資金」の稼ぎ方
アメリカでは、老後に必要な資金について「必要な資金の6割は自分で稼げ」と言われています。アメリカ人は最初から公的な資金にあまり頼り切りになってはいませんし、個人が、資産運用などの専門家であるファイナンシャル・アドバイザーと契約するのも一般的です。
日本で言う「年金」のような制度としては、就業していた35年間の収入の平均、その4割を受け取れる「ソーシャルセキュリティー」があります。67歳以降であれば満額が支給されます。
ただ、社会保障局によるオフィシャルなコメントとして、2033年には77%しか払えなくなるという試算があるということなので、今後どうなるのか注目されますね。
さて、残りの6割を賄うには、さまざまな方法があります。
会社勤めの大半の人が利用しているものとしては「401k」、いわゆる「確定拠出年金」があります。日本でも、最近広まってきたように聞いています。
このほかにも「IRA」という個人年金制度を利用する人もいますし、僕もやっている「譲渡性預金(CD)」という定期預金もあります。これは18カ月、あるいは24カ月という短期の定期預金ですが、年利が2%台以上のものがも多く、25万ドル(2700万円)まで預金保護対象となっていて、リスクなしで貯蓄が可能です。もちろん株式投資のように投資で資金を増やす人もいます。
僕らのように人に貸すための物件を購入するという不動産投資はあまり一般的ではありませんが、不動産価格がずっと値上がりし続けています。つまり自宅も資産になりますから、それを売却してキャピタルゲインを得る、自宅で「投資」ができるという考え方もできます。
トレーラーハウスで暮らす
ちなみにアメリカでは一般的に、「退職後(65歳以上)、夫婦で過ごすためには170万ドルが必要」といわれています。日本円で言えば1億8000万円以上、2億円近い金額です。びっくりするような金額ですね(笑)。
大きな出費の1つは生活費。都心に住めば、家賃が高くなります。そんな時、お金がなければ「住み方を変える」というのがアメリカ式。中古の「トレーラーハウス」なんかを購入して、トレーラーパークと呼ばれる場所などで暮らす方法もあります。その場所に飽きたら、また別のところに移動して、とあちらこちらに住み替えることもできるので、道を走るトレーラーハウスを、本当にしょっちゅう見かけます。
貯蓄300万円以下でもアーリーリタイア
アメリカでは、働き方もさまざまです。僕の知り合いでは90歳にして現役ファイナンシャル・アドバイザーという方もいます。70歳くらいの方で、マクドナルドで働いている方もよく見かけます。採用時には、国籍や性別のみならず、年齢も含めてあらゆる差別が禁じられていますから。
一方で、僕の知っている管理会社の女性担当者は、まだ50代前半でしたが、ご主人とリタイアすると言って会社を辞めました。話を聞くと、世帯の貯蓄は3万ドル(約300万円)もないそうなんです。ですが、中古で購入したキャンピングカーでトレーラーパークを旅しながら、年金のほかに修繕のアルバイトをして生活費にし、教会のボランティアをしながら人生を豊かに暮らすのだと話していたのを覚えています。
リタイアせずに働き続ける選択肢もあれば、アーリーリタイアをして自由気ままに暮らす選択肢もある。アメリカ人は、老後に対してポジティブな印象を受けます。
将来を切り開く「投資」という手段
僕は不動産投資家ですから、現在の投資を続けていった延長に老後があると思っています。投資をして、お金が入り続ける仕組みを築いているわけですから、この仕組みそのものをメンテナンスしていけばいいのかな、と考えています。
一般論ですが、死ぬまでにいくら必要か計算し、そこまで貯めて、そしてその後はお金が減っていくだけ…というのは大きなストレスではないでしょうか。
生活を営むこととお金は、切っても切れない仲です。ならば、守り一辺倒よりも収入を増やす道を模索する生き方だってあると思います。
倹約にも本当に大きなパワーがいります。ただ切り詰める努力をするのであれば、別の手段で収入を増やすという努力をすることも、時間も、労力も、ストレスも、実は一緒ではないかな、と思うんです。
実は先日、千葉にある元実家を500万円かけて二世帯住宅にリフォーム、月13万円で入居が決まりました。最寄駅が私鉄の単線、さらに築40年を超えた古い家ですが、4年で資金を回収して、さらに15年も運用すれば2000万円だって稼ぎ出すことでしょう。
せっかく同じエネルギーを使うのであれば、将来を切り開くために、「投資」という手段をぜひ検討してほしいというのが正直な感想です。
チャンスは、手を伸ばせば届いてしまうところにあるのに、そこに気づいていないと言うこと自体が、僕はもったいないと思います。
おまけ・石原さんのアメリカこぼれ話
この1枚は、町外れのラフエリア(治安が良くないエリア)で撮りました。全身タトゥーで半身裸の人がたむろし、意味もなくフラフラ歩いている人もいて、本能的に危ないと感じる一帯です。
電線に運動靴を引っ掛ける行為をシュー・トッシング(shoe tossing)といい、北米に限らず欧米諸国で見られる風習です。うわさではギャングの縄張りやドラッグ取引場所を示している、はたまた抗争で亡くなった人の履物だ、などと言われています。
一方で、単に酔っ払いのおふざけや子供のイジメ行為、あるいは天国から死者が戻って来やすいようにする目印、悪霊よけの儀式などさまざま理由はあるようです。
2ベッドルーム120平米の貸し部屋が950ドル(約10万円)という安値に惹かれて友人の部屋探しに来ましたが、明らかに場違いで、見知らぬ人からも「ここは危険だよ!」と言われる始末。彼がここに住むことはありませんでしたが、アメリカは治安が命に直結しますので、皆さんもどうかお気をつけください。
(石原博光)
プロフィール画像を登録