不動産投資で失敗する人は後を絶たない。高値で買った新築ワンルームで毎月赤字が続く、高金利で地方のRCマンションを買ってしまい出口がない、シェアハウスのサブリース会社が倒産して家賃が入らない―。そういった失敗の末、自己破産に追い込まれてしまう投資家もいる。

ローンの返済ができなくなり、行き場を失った投資家たちが、最後にすがる場所がある。不動産ローンの返済に関する専門相談機関「任意売却119番」だ。

完成前にサブリース会社が倒産

「家賃収入ゼロで毎月40万円の返済だけがのしかかる状況で、自己破産するしかないと考えていたんですが…」

この日、任意売却119番を訪れた若月まどかさん(仮名・32歳)は2年前、スルガ銀行から金利4.5%で8000万円を借り入れ、埼玉県で新築のシェアハウスを購入。以前に節税目的で中古区分マンションを購入した不動産会社からの紹介物件だった。

30年間のサブリース契約で毎月60万円の家賃が保証されるはずだったが、物件が完成する前に運営会社が経営破綻し、保証家賃の振り込みがストップ。立地が悪く、物件が完成した現在も10室全空で、家賃収入なしで毎月40万円ほどのローン返済だけがのしかかる。いったん返済はストップしたが、8000万近い残債に自己破産も考えた末、相談に訪れたという。

相談を受けた任意売却119番の富永順三代表は、「通常はローン残債を上回る金額で売却しなければ抵当権を抹消することができませんが、今回は実勢価格の倍近い金額で買っているので、8000万円で売り出しても買い手はいない」と指摘。「こういった場合は、金融機関と交渉して『任意売却』という手段をとることができます」と説明した。

任意売却のメリットは

任意売却とは、ローン返済が滞ってしまった際、融資した金融機関など債権者の合意を得て、競売を避けて市場で売却する方法。競売と比較して市場価格に近い金額で売却することができ、売却後の債務を減らすことにつながる。また、債権者との話し合いで引っ越し時期や条件面について交渉でき、インターネットなどで広告される競売と違って周囲に滞納が知られることもない。

ただ、債権者との合意形成には専門知識が必要で、信頼できる業者を自ら探す必要がある。当然、債権者の合意が得られなければ任意売却はできない。また、滞納によって信用情報機関に登録され、5~6年程度は新たにローンを組むことができないこともデメリットとなる。

富永代表は「任意売却後、数百万~数千万の残債を毎月返済していかないといけないと思われがちですが、任売後の残債は金融機関にとってローンではなく『不良債権』の扱いになります。多くの場合、債権は金融機関から回収業者(サービサー)に移動し、サービサーとの交渉次第では月1、2万など生活に無理のない範囲での返済が可能になる。大幅に債務を減額できる可能性もあります」

今回は特殊ケース

若月さんが仮に購入価格の半額の4000万円で売却した場合、約4000万円の債務が残ることになる。ただ、富永代表は「今回は通常の任意売却と違い、スルガ銀行が自らの詐欺的行為を認めて元本の一部カットに応じる姿勢を示しているので、借金がほとんど残らない可能性もある」と説明した。

スルガ銀行は今年5月、一定の条件を満たした案件について、購入価格と積算価格の差額を上限に元本の一部カットを検討すると公式に発表。(1)現在の物件収支が赤字である(2)ローン契約時にスルガ銀行側の不正行為が存在した(3)不正行為と投資判断の間に因果関係が認められる―などの基準を設けている。

若月さんは預金残高を改ざんされた証拠も入手しており、入居者はゼロで赤字の状態。富永代表は「スルガ銀行が提示した条件を満たしているので、全額かどうかは分かりませんが、損失が出た分は元本カットされるはず。自己破産をしなくても解決できます」と語った。

「例えば弁護士に相談すると高確率で自己破産を勧められるので、同じシェアハウス被害者でも早々と破産した人は多くいます。勇気を出して任意売却119番に相談してもらってよかった」と富永代表。打開策があることを知った若月さんは「金銭的な恐怖がなくなり、ひとまず安心しました」と安堵の表情を浮かべた。

年間5000件の相談

「任意売却119番」は2006年に発足し、任意売却だけでなく金利の引き下げやリスケ(返済計画の変更)など、総合的なサポートをしている。相談は年間5000件以上に上り、最近は3割ほどが投資用不動産に関する内容だという。富永代表は「去年や一昨年はやはりシェアハウスの案件が多かったですが、今年は新築アパートやスルガ案件の地方RCなども増えています」と語る。

投資家視点でも、市場価格より安く入手できる可能性がある任売物件の注目度は高まっていて、「任売物件を専門に扱う『任意売却物件情報センター」などのサイトの登録者数も増加傾向にある』と富永代表は言う。

高校生で味わった強制競売

富永代表が任意売却119番を立ち上げたきっかけ。それは、過去の苦い経験からくる「ある思い」だった。

「私が高校生の時、父が事業に失敗して大きな借金を背負ったんです。私は何も知らなかったんですが、ある日1人で自宅にいたら、突然男たちが家に入ってきて、テレビや冷蔵庫などに次々と白い紙を貼り始めて…。男たちは最後に、私に向かって『この家はもうあなた方のものではないので、すぐに立ち退いてください』と言いました。自宅が競売にかけられ、強制執行されたんです」

それから約20年。「私がコンサルティング会社で法人の事業再生をサポートしていた時に『任意売却』という手段があると知り、この方法なら自分の両親も救われたかもしれない、と思った。当時は任意売却のサイトもほとんどなかったので、自分で簡単なホームページを作ったのが最初です。その頃は事業化を考えていなかったんですが、リーマンショックを境に電話が殺到するようになり、こんなに多くの人が困っているなら、と全国ネットワークの組織化を始めました」