雨漏り被害はとにかくやっかいだ。居住者の日常生活に支障をきたすのはもちろん、被害の規模や期間によっては躯体の劣化にもつながってしまう。しかも、えてして雨漏りの原因箇所は特定が難しい。ある箇所から入った水が、梁などの横材を伝って別の箇所から出てくることも少なくないためだ。

不動産業界を支えるさまざまなプロフェッショナルに焦点を当てた本企画。今回は雨漏り調査のプロ「雨漏り診断士」の仕事に密着した。その内容を動画と記事でレポートする。

 

「再発」でリフォームがムダに

「雨が降ると外出できない。かといって、家にいても全然くつろげないんです」。ため息交じりにそう話すのは、長年雨漏りに頭を悩ませているという熊谷さん(仮名)。重量鉄骨造5階建てマンションのオーナーだ。30年ほど前に新築した建物を数年前に親から引き継いだ。14階は賃貸とし、最上階にはオーナーである熊谷さんが住んでいる。この最上階の部屋で長年雨漏りが発生しているという。

熊谷さんはこれまで複数回にわたり、建築業者などに依頼をして雨漏りの原因を探ってきたが、特定には至らなかった。そこで昨年、思い切ってスケルトンリフォームを実施。躯体をいったん露わにした状態で、施工業者に雨漏りが疑われる箇所を潰してもらった。リフォーム後、数カ月は雨漏りが発生せず安堵していた熊谷さんだったが、今年に入って「再発」してしまった。業者に問い詰めるも「原因が分からない」と言われ、打つ手がなくなってしまった。

雨漏りが発生した玄関の天井部分。クロスがたわむほど水が溜まってしまったため、工務店に頼んでボードを剥がしてもらったという

しかし、どうにかして雨漏りを止めなければならない。今は最上階のみの被害だが、いずれ階下に影響が及ぶ恐れもある。

困った熊谷さんが頼ったのが、雨漏り診断士の米田秀樹氏(株式会社ホークアイズ)だ。過去に調査や施工を依頼したのはすべて建築業者だったが、「雨漏り診断士」という雨漏りの専門家がいることをインターネットで知った熊谷さんが自らコンタクトを取った。

雨漏り診断士の米田氏。これまで調査したすべての現場で原因を突き止めてきたという

米田氏は14年間建設会社で職人として働いた後、5年ほど前に雨漏り診断士として独立。建築現場で積み重ねたノウハウを生かし、雨漏りの診断から補修工事までを一手に引き受けている。YouTubeには自らの調査・施工の様子を録画した動画も投稿。悪質な手抜き工事への怒りをカメラに向かってぶつけた動画は80万回以上再生されている。

これまで調査したすべての現場で原因を見つけてきたという米田氏。この日も作業開始に先立ち「一発で見つけたい」と意気込みを語ったが、今回の現場は想像以上に手強い建物であった。

散水から2時間、水が出ない

調査はまず「目視診断」から始まる。室内の雨漏り発生箇所から、外部の原因箇所を推測する作業である。言わば水の出口から入口を辿るわけだが、先述したように水は真下に落ちるばかりではない。躯体を伝って思わぬ箇所に出てくることが少なくないため、調査には建物の構造に関する知識が求められる。

室内の雨漏り被害箇所は大きく2カ所。クローゼット内の天井と玄関の天井だ。それぞれの天井裏を覗きこみ、どこから雨水が漏れているのかを確認していく。

雨漏りが発生したクロゼットの天井。シートを引き、洗面器で水を受ける応急処置の跡が見られる

目視診断の末、米田氏は原因箇所を屋上の3カ所に絞り込んだ。クローゼットの雨漏りは「屋上の排水溝」と「サンルームのサッシ」、そして玄関の雨漏りは「塔屋(屋上などに設けられた小屋)付近」である可能性が高いとにらんだようだ。屋上に上がり、それぞれの箇所に目印となるテープを貼っていく。

目視診断の結果、怪しいと思われる箇所に目印となるテープを貼っていく。写真の箇所は屋上の排水溝

目視調査の後に行われる「散水調査」は、事前に当たりを付けた箇所に水をまき、雨漏りを再現させることで原因箇所を特定するというもの。長いホースを屋上まで伸ばし、散水調査の準備を進めていく。

1カ所目は排水溝だ。排水溝の奥で防水層が切れるなどし、そこから雨水が入り込んでいる可能性が疑われるという。ここに向けて、雨漏りが再現するまで水を流し続ける。水を流し、クローゼットの天井裏から水が出れば原因箇所であると判断できるというわけだ。

ホースで散水する。該当箇所に押しつけるように、強めの水流で水を流す

水を流し始めてから2時間が経過。途中、ターゲットをサッシに切り替えたりして様子を見ていたが、天井裏から水が出る気配はない。米田氏はここでいったん目視診断の結果に見切りをつけ、予定にはなかったもう一カ所に水をかけ始めた。屋上に設けられたサンルームの縦樋(雨水を通すための部材)の下部だ。オーナーの「縦樋を外したときに雨漏りがひどかった気がする」という証言を聞き、この箇所が怪しいとにらんだのである。

目視診断では候補に挙がらなかった疑念箇所。サンルームの縦樋を取り外したところに、防水層が切れている箇所が見つかった

すると、程なくして天井裏に水滴が発生。そのまま水をかけ続け、水滴が落ちる間隔を測定する。水を流せば流すほど水滴の落ちる間隔が縮まっていく。この日が晴天であったことを考えれば、ここが原因箇所であることは間違いなさそうだ。

ようやく水滴が発生。原因箇所が見つかった瞬間だ

これで1カ所目(クローゼット)の調査は完了。続いては同じ方法で、より被害の大きかった玄関の雨漏りの原因箇所を探る。

10分で判明、原因は「手抜き工事」

目視診断の際、玄関の雨漏り箇所の真上は、サンルームの屋根に囲まれた「半室内」のような場所の床面であったことが分かっている。この床は防水層もきれいで、ここが原因である可能性は非常に低い。

玄関の雨漏り発生箇所の真上にある床面。サンルーム内にあり、水がかかる場所ではないため、原因は他の箇所にありそうだ

そうした中、米田氏が目を付けたのは、さらにその上にある塔屋だった。はしごをかけ、塔屋の「パラペット」(屋上の外周部にある小さな壁)と「笠木」(パラペットの上に載せて保護するための部材)の接合部分に水をかけていく。

塔屋のパラペットと笠木。緑のテープに書かれた矢印のちょうど先あたりにわずかなひび割れが見られた

するとそのわずか10分後、玄関の天井から大量の水が流れてきた。慌ててアシスタントに水を止めるよう叫ぶ米田氏。オーナーの熊谷さんも、大量に流れ出た水を見て「(原因は)ここだったんだ」と思わず声を上げた。原因は米田氏がにらんだ通り、塔屋のパラペットと笠木の接合部分だった。パラペットと笠木の間にわずかなひび割れが生じており、笠木から落ちる水や風に煽られた雨水がそこから浸入していたとみられる。

笠木を下から見上げたところ。わずかに隙間が空いているのが分かる

ひび割れは目視でも確認できるものであり、「シーリングを打つだけで止まるのに、(昨年工事したリフォーム業者は)なぜやらなかったのか」と米田氏も怒りを露わにしていた。

調査を終え、「ようやく原因が分かり、一安心だ」と話したオーナーの熊谷さん。米田氏の会社では通常、雨漏り調査と改修工事をセットで引き受けているが、今回は「(昨年のスケルトンリフォームを依頼した)業者に無償で補修してもらえるように交渉したい」とう熊谷さんの意向もあり、調査のみで作業完了となった。調査料金は報告書の作成費なども含めて10万円ほどだ。

自宅なのにくつろげない、とは冒頭で紹介したオーナーの言だが、これは賃貸物件の入居者にとってももちろん同様だ。雨漏りが発生し、補修までの期間が長引いてしまえば退去されてしまうばかりか、次の入居もままならないだろう。

今回取材に協力してくれた熊谷さんの場合、建築業者に依頼をし、原因箇所を特定しないままにリフォームを進めてしまったことから、雨漏りが再発してしまった可能性がある。動画の中で米田氏が話していたように、「雨漏りの調査をして、原因箇所を特定する」と明言しているか否かが、雨漏り業者を選ぶ際の1つの基準になるのではないだろうか。

 

(楽待新聞編集部)