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不動産投資をめぐる法律やトラブルを、実際の事例をもとに解説する本連載。
今回は、収益物件を購入し、順調に収益を上げられて安泰だと思っていたら、なんと物件の土地の一部が他人名義であることが後から発覚した…というトラブルです。
購入した敷地の一部が他人の土地だった
今から6年ほど前に、X氏は収益物件として、1棟マンション及びその敷地をオーナーチェンジで購入しました。地方のマンションだったため、1戸につき1台の駐車場は必須。X氏も事前に仲介業者と一緒に現地を見に行き、戸数分の駐車場が確保されていることを確認していました。
決済をして5年程度、順調に収益を上げていました。ところがある時、建設会社Y社から、マンションの敷地の一部がY社名義の土地であり、周囲一帯の土地の売却を予定しているため、Y社名義の土地の使用を中止してほしいとの連絡を受けました。
なぜこのタイミングで、突然使用中止を申し出てきたのかは、よくわかりません。ですが、驚いたX氏が公図とマンションの敷地の登記簿を確認したところ、確かに、その土地はY社名義の土地のようでした。
また、マンション建築の経緯を確認したところ、マンションの建築会社はY社であり、マンションの開発許可及び建築確認を得る際に、Y社名義の土地をマンションの建築用地の一部としていたことが分かりました。
その後、この土地はY社名義のままとされてX氏の前々所有者の手に渡り、さらにX氏の前々所有者からX氏の前所有者の手に渡り、その後この人物が15年ほど所有した後、X氏に売り渡されたということでした。
なお、マンションの敷地の隣には、フェンスで仕切られたY社の土地がありました。ここは長らくY社が資材置き場として使用していたそうです。今回問題となったのは、この隣接するY社名義の土地と公道とを結ぶ部分だったため、フェンスより敷地側の一部の土地も、名義をY社のままとしていたということです。
X氏がこの一部の土地を失うと、少なくともマンションの駐車場3台分が設置できなくなります。X氏としては、公図、登記簿や現地の詳細確認などを怠った仲介業者の過失を責めたい気分となりましたが、この土地を確保することが優先であっため、弁護士を依頼してY社と交渉を始めました。
ですが、Y社は、「この土地は、X氏の前々所有者との間で使用貸借契約を締結していただけで、あくまでY社名義の土地である」と譲りませんでした。
X氏はこの土地が、X氏の前所有者の取得期間も含めて20年間の「取得時効」が成立していること(X氏は、本件一部土地の使用貸借契約書を引き継いでいませんでしたし、X氏の前所有者も同様でした)を理由として、「処分禁止の仮処分」を申し立てました。
仮処分が認められた後に、再度X氏の弁護士がY社と協議をしたところ、Y社としては、X氏による土地の取得時効が認められる可能性は高いが、この土地が公道に通じる土地の一部であることから、この土地にY社の通行権を認めてほしい、そうでなければ、訴訟を提起すると主張していました。
X氏としては、この土地を従前どおり、マンションの敷地として使用できれば特段問題がないと考えていたため、Y社との協議のうえ、この土地は登記簿上も含めX氏が所有し、債権的通行権(通行を目的とした利用契約)を交わした上で、新たな所有者にも同通行権を引き継がせる合意をしました。今回のトラブルは、こうして解決に至りました。
取得時効とは?
今回のケースでカギとなる法律を解説しましょう。キーワードは「取得時効」です。
民法162条第1項は、「20年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その所有権を取得する」、同条第2項は、「10年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その占有の開始の時に、善意であり、かつ、過失がなかったときは、その所有権を取得する」と定めています。
また、民法187条第1項は、「占有者の承継人は、その選択に従い、自己の占有のみを主張し、又は自己の占有に前の占有者の占有を併せて主張することができる」、同条第2項は、「前の占有者の占有を併せて主張する場合には、その瑕疵をも承継する」と定めています。
これらがどういうことかと言うと、つまり、占有者(今回のケースでいうX氏)が、所有の意思をもって、平穏・公然に、占有を継続した場合に、占有開始時に善意無過失(他人の物であることを知らなかったことに過失がないことを言います)であれば10年で、それ以外であれば20年で他人の物を取得できるというのが、取得時効制度です。
また、前所有者が同様に占有を継続している場合には、前所有者の占有も合わせて占有期間として主張することもでき、その場合には、前所有者が取得時効の成否に影響を与えるような事情を有していた場合には、取得時効を主張する者は、前所有者の事情も承継します。
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