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不動産賃貸業の「事業承継」をテーマにした新連載がスタートです。解説は、中小企業の経営者に向けた会社法、事業承継などの分野を専門とする税理士の牧口晴一さん。多数の著書があり、全国から講演依頼が絶えない人気講師でもあります。第1回となる今回は、不動産賃貸業における「事業承継」の全体像について紹介してもらいました。

不動産賃貸業の「事業承継」とは?

不動産経営をしている方の相続対策。なかでも法人の相続対策は「事業承継」と言われ、高度な知識が必要な分野です。この連載では、そんな事業承継について、優しく、そして、易しくお話ししてまいります。

私はこれまで、主に税理士を対象とした「事業承継」に関する著書を数十冊刊行してきました。講演も多数行っておりますが、税務・会計の本や講演には似つかわしくないほど「笑い」のある講演をウリにしています。

その噂を聞きつけてか、生命保険の営業マンや一般企業の社長さんも受講されています。つまり、税理士向けの専門的な話を、一般の方でも分かるように分かりやすく伝えているということです。しかも「笑い」を交えて、優しく、そして楽しく、です。この連載も同じように執筆していきたいと思いますので、どうぞ気楽にお読みくださいませ。

この連載でこの先取り上げていくテーマ…と言っても、果たして何回で終わるのか、具体的なことは(連載小説並みに書き出さないことには)私にも分かりません。

それでも、これはミステリー小説ではありませんので、今回は連載の第1回らしく、この連載の概要をお伝えしたいと思います。ただ、概要を読むだけでも有益なはずです。「全体としてはこうなっているんだ」と、不動産の事業承継の大枠が掴め、理解が深まるはずですから。

「民法」と「相続税法」を分けて考える

不動産経営を法人で行っている皆さん。皆さんにとって大きな悩みの1つは相続・相続税対策ですね。

さて、ここで「相続・相続税対策」と書いたのには重要な意味があります。言葉を変えれば「民法と相続税法」という、異なる2つの法律にまたがっているということです。

さらに、法人ということは会社経営をしているわけですから「会社法」と「法人税法」も相まって、十字にまたがるようになっています。また、法人と言ってもオーナー経営者は自分個人の所得税もからんできます。それらが交差する難題を解いていかなければなりませんから、一朝一夕にはまいりません。

まずは、相続(民法)と相続税法とを峻別、つまり混同しないように区別しながら学んでいただく必要があります。

たとえば相続の時は、現に残っている遺産ばかりでなく、一定の生前贈与などを「加算」して遺産分割協議をし、同時に相続税の計算をします。この時、民法と相続税法が同時に登場しているのです。

まず遺産分割協議は「民法」の話なので、たとえば10年前の生前贈与も加算して相続財産にします。一方、「相続税法」では、相続開始前3年間の贈与を加算して相続税を計算します(ただし、「相続時精算課税制度」を選択している場合には、どんなに昔の贈与であっても、同制度選択後の贈与財産は遺産に加算されます)。

 

このように、民法ではこう、しかし相続税法ではこう…と区別しないと、とんでもない誤解を招くことになってしまうわけです。

たとえば、今年の民法改正で相続人への生前贈与は10年以上前の贈与なら「遺産分割」に加えないで良いと知って慌てて贈与する。しかし暦年贈与で1億円の不動産を贈与すると4860万円の贈与税がかかります。相続時精算課税制度なら1500万円の贈与税で安い! と選択したとします。

確かに前半の遺産分割に加えないという民法の部分は正しいです。ところが相続税法では相続時精算課税制度を選択すると、10年以上昔の贈与であっても相続財産に加算して相続税を計算します。その結果、生前贈与が節税にならなくなります。さらに、相続税の申告書で1億円の贈与が他の相続人にも知れてしまい、争いが起こる火種になりかねません。ほんの一例ですが、このような失敗を招くのです。