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土地の「境界」をめぐっては、さまざまなトラブルが起きるもの。相続した古い建物を解体し、その土地に新築しようとしたときに境界標がなかった…というのが今回取り上げる事例です。

土地の境界はどのように確定させればよいのか、弁護士の阿部栄一郎氏が解説します。

新築しようと思った土地に境界標が無かった

ある日、X氏(50代)の母親(80代)が亡くなり、X氏は母親が住んでいた自宅の土地建物を相続で取得しました。その建物は住めなくはないものの、古く傷んでいたので、X氏は建物を解体して、新しくX氏とその家族も住める賃貸併用住宅を建てようと思っていました。

X氏が、建築会社に相談をしたところ、建築会社の担当者が現地を見に来ました。その担当者が敷地の境界標を確認すると、一部、隣地との境界標が見当たりませんでした。

当該場所には塀が建っているのですが、その中心が境界なのか、それとも塀がX氏または隣地の所有者Y氏のいずれかの敷地内に建っているのかよく分からない状況でした。担当者からは、隣地との境界をきちんと確認してもらわないと、クレームが出て工事が中断することもあるので、きちんと隣地との境界を確定してほしいと言われました。

X氏は以前、母親から、塀は隣地の敷地内に建っていると聞いていました。そこで土地家屋調査士に資料収集、および「Y氏の敷地内に塀が建っており、その場所で境界を引く」というX氏の主張通りに境界の確認をY氏としてもらうように依頼しました。

土地家屋調査士はY氏のところに行ってくれたのですが、Y氏と境界確認書を交わすことはできませんでした。Y氏も代替わりをしており、塀を築造した経緯や境界標のことがわからないので、境界確認書を作成することはできないというのです。ただ、強く争うつもりはないことや公的な判断があればそれに従うことを話しているようでした。

そこでX氏は、弁護士に、Y氏との境界紛争について相談をしました。弁護士としてはX氏とY氏間の紛争がそれほど強くないことから、境界確認訴訟ではなく、筆界調査委員などの専門家の調査・意見などを基に筆界特定登記官が筆界を特定する「筆界特定制度」を利用することを提案し、その旨、Y氏に打診しました。Y氏としても、国の制度として客観性のある制度であり、公的な判断をしてもらえるのであれば、それに従うと約束してくれました。

弁護士は、知人の土地家屋調査士とも協力し、筆界特定の申請をしました。事前に土地家屋調査士が収集した資料で、おおむね前述のX氏の主張が正しいことは分かっていました。

筆界調査委員が現地を調査する際に、X氏およびY氏が実地調査に立ち会い、さらに筆界特定登記官の主宰するX氏とY氏の意見聴取に参加する中で、Y氏もX氏の主張が正しいということをある程度理解してくれたようです。

筆界特定登記官がX氏の要望どおりの筆界特定をした際にも、Y氏は、特に異論を述べることはありませんでした。筆界特定の手続きが終わった後に、Y氏は、X氏の要望どおりの境界確認書の作成に応じてくれ、境界標も復元することができました。このように境界の紛争は解決しました。

筆界特定の手続き自体は半年程度かかり、その間、新築工事は遅れてしまいましたが、その後は無事に工事が進み、賃貸併用住宅も完成。賃貸経営をしながら、X氏と家族も新たな自宅に住んでいます。

紛争性の高さで、境界の争い方は異なる

境界が異なり、敷地面積に数平米の違いが出ただけでも、場所によっては土地の価値が100万円単位で異なることがあり得ます。また、その境界部分によって接道義務を果たすか否か、条例などによって建物の建築が制限される広さになるか否かといった場合、境界の問題は死活問題ともなりかねません。こういった紛争性の高い事案もあれば、本件のような紛争性がそれほど高くない事案もありますが、事案に応じて、どのような形で解決するのが良いのでしょうか。

境界を争う制度としては、大きく2つに分けられます。1つは訴訟で、もう1つは訴訟以外の制度です。

紛争性の高い事案(その他の手続きを利用しても、解決できない場合)は、訴訟提起を選択することになりますし、紛争性がそれほど高くない場合には訴訟以外の制度(裁判外紛争解決手続(ADR))を選択することも選択肢になるかと思います。

「筆界」か「所有権界」で利用する制度も違う

「筆界」と「所有権界」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。筆界は、公法上の境界、すなわち、登記上の土地区画のことをいいます。他方、所有権界とは私法上の境界、すなわち、所有権の範囲そのもののことをいいます。多くの場合、筆界と所有権界とは一致しています。

筆界は、公図上の土地と土地との区画の線のことを指していると理解していただければいいと思います。典型的には、土地の現地に行っても、その区画の場所が分からないという場合に、本来あるべき境界を復元するという形で筆界がクローズアップされます。

それに対し、所有権界は、上記のとおり、私法上の所有権の範囲を画する概念です。典型的には、取得時効で他人の土地の一部を取得したというような場合に、その所有権の範囲として所有権界がクローズアップされます。

訴訟の場合、本来あるはずの境界を確認するという場合には、「境界確定訴訟」を提起する必要があります。一方で、自身の所有する土地の範囲を確認する場合には「所有権確認訴訟」を提起します。

訴訟以外の制度では、訴訟外で紛争を解決する手段である「ADR」があります。本来あるべき境界を確認するという場合には、「筆界特定制度」を利用することが可能です。一方、自身の所有する土地の範囲を確認する場合には、例えば土地家屋調査士会が設置している「境界問題相談センター」などを利用することができます。なお、所有権界の特定を求めて筆界特定を申請すると、却下されます。これは、制度として特定するものが異なるからです。

「筆界特定制度」の進め方

今回の事例で利用した「筆界特定制度」は、おおむね次のとおりに進んでいきます。

(1)筆界特定の申請

筆界特定の申請は、今回の事例で言うX氏のような土地所有権登記名義人らが、筆界特定登記官に対してすることができます。法務局に所属する「登記官」の中から、必要に応じて筆界特定登記官が指定されます。

(2)関係人への通知

筆界特定の申請があったときは、「筆界特定登記官は、遅滞なく、法務省令で定めるところにより、その旨を公告し、かつ、関係人に通知しなければならない」とされています。

ここで言う関係人とは、対象土地の所有権登記名義人ら、筆界特定の申請人以外の者及び関係土地の所有権登記名義人らのことをいいます。関係土地とは、問題となっている筆界のうちの1点と接している土地のことです。

関係人への通知によって、問題となる土地に関わる人たちにも、筆界特定手続きに関わる機会が与えられます。実際に、申請人及び関係人は、現地の測量や実地調査への立会い、または意見や資料の提出をする機会が与えられます。

(3)筆界の調査

筆界特定手続きを進めるに当たって、筆界特定のために必要な事実の調査を行う「筆界調査委員」が指定されます。筆界調査委員は、弁護士、司法書士、土地家屋調査士といった土地や紛争解決の専門家の中から、法務局や地方法務局の長によって任命されます。なお、筆界調査委員は、複数名で任にあたります。

筆界調査委員は、土地の測量、実地調査、申請人・関係人その他の者からの事実聴取や資料提出を求めることができるほか、必要に応じて、他人の土地に立ち入ることもできます。

こういった形で、筆界調査委員は筆界の特定のための意見の根拠となる資料を集めていくこととなります。

(4)意見聴取

筆界特定登記官は、申請人、関係人に対して意見を述べ、また、資料を提出する機会を与えなければならないとされています。

意見聴取は筆界特定登記官が主宰しますが、その際には、筆界調査委員も立ち会うこととされており、必要に応じて参考人(筆界特定の手続きに適当と認める者)から事実を述べさせることもできます。なお、筆界調査委員は、筆界特定登記官の許可を得て、質問することもできます。

(5)筆界調査委員の意見の提出

筆界調査委員は意見聴取の後、筆界特定のために必要な事実の調査を終了したときは、遅滞なく、筆界特定登記官に対し、筆界特定についての意見を提出しなければならないとされています。

(6)筆界特定

筆界登記官は、筆界調査委員の意見が提出されたときは、その意見を踏まえて、さまざまな資料や事情等を総合的に考慮して筆界特定をし、その結論及び理由の要旨を記載した筆界特定書を作成しなければならないとされています。

(7)筆界特定の通知

筆界特定登記官は、筆界特定をしたときは、「遅滞なく、筆界特定の申請人に対し、筆界特定書の写しを交付する方法により当該筆界特定書の内容を通知するとともに、法務省令で定めるところにより、筆界特定をした旨を公告し、かつ、関係人に通知しなければならない」とされています

筆界特定制度と訴訟の判決、内容が異なったら?

筆界特定制度が利用され、筆界特定がなされた後に、この筆界に納得がいかず、別途訴訟となる…といったケースもあります。この時、境界確定訴訟の判決が出て、筆界特定の内容と境界確定訴訟の判決の内容が異なる場合、境界確定訴訟の判決が優先します。

具体的には、筆界特定は、判決と抵触する範囲において、その効力を失います。

このように、制度上は境界確定訴訟が筆界特定制度に優先する制度となっていますが、筆界特定がなされた後(正確には、境界確定訴訟の判決前に筆界特定がなされた場合)に境界確定訴訟が提起された場合、同訴訟の係属している裁判所は、筆界特定手続記録を送付嘱託という方法で取り寄せることができます。裁判所も当然、専門家が関与した筆界特定手続きにおける結論を尊重すると言われています。

その意味では、筆界特定制度にも事実上の紛争解決機能はあるといえると考えられます。

買う前に必ず境界の確認を

不動産の現地確認に行ってみると、意外と土地と土地との境界標がないということがあります。工事などによる人為的な境界標の脱落、天災による境界標の脱落、時間の経過による境界標の脱落など、さまざまなことが考えられます。

本件のように相続で土地を取得した人であれば致し方ありませんが、売買などの取引で土地を取得する場合には、その後の転売や今回のような建て替えの際のトラブル発生の防止のためにも、現地確認、隣地との境界の確認は必須です。

売買契約の場合、一般的に、売主が買主に対して、境界の明示義務を定める条項を設けていることが多いので、売主に境界の明示義務を果たしてもらう必要があります。仲介業者がいれば、きちんと現地確認をしてもらうのが良いでしょう。

このようなトラブルは、売買などの取引の場合には、基本的な現地の確認で防ぐことのできるトラブルであると思われます。

万が一、境界標がないというトラブルに巻き込まれてしまい、境界の確認をする必要が生じた場合には、境界の確認をするしかありません。

上記のとおり、紛争性が高い事案か否かを判断し(または、専門家に判断してもらい)、また、筆界と所有権界の確定のどちらを求めるのかを確定させ、適切な手続きをとって解決することが重要だと思われます。

また、本件のように、筆界特定制度が事実上の紛争解決のために機能する場合もあり得ますので、状況に応じて筆界特定制度を利用するということも念頭に置いていただければと思います。

(阿部栄一郎)