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自身も収益物件を所有する不動産投資家であり、大家さん専門の保険コーディネーターとして活動する斎藤慎治氏に、保険の基礎から実践ノウハウまでを語ってもらう本連載。
今回は、先日相次いで発生した台風に関連して、火災保険ではどんな被害が補償されるのか、あるいは補償されないのか、それぞれを実際の事故事例なども交えて解説してもらった。
大型台風、どんな被害がどのくらい補償される?
今年9月の台風15号、10月の19号と超大型の台風が相次いで接近・上陸し、各地に甚大な被害を及ぼしました。15号は強風による被害、19号は豪雨による洪水の被害が目立った印象です。
昨今の火災保険商品で補償されるのは「火事」だけではない(総合補償型の場合)ことは、すでに多くの大家さんの知るところでしょう。台風などの自然災害による家屋の被害では、火災保険からどのように補償されるのか、実際に発生した被害を例に検証してみましょう。
CASE1.強風による被害は「風災」で補償
台風15号は、最大瞬間風速が40メートル/秒を超えるような「風の台風」でした。屋根などの他、ドアや窓ガラス、庇(ひさし)、雨樋、アンテナ、エアコン室外機、ベランダ隔壁などの付帯設備、物置、ゴミシェルターなどの付属物(原則として固定されているものを指す)への被害が多く見受けられました。これらの被害はいずれも「風災」として火災保険の補償対象になります。

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ただし、「1事故あたりの損害額が20万円以上に達した場合に全額補償」するという補償形態(「フランチャイズ方式」と呼ばれています)の火災保険商品では、20万円に満たない少額の被害は補償されません。保険証券で「フランチャイズ」の文字があるかどうかを確認しておいてください。
CASE2.倒壊・飛来した物体による被害は「風災」などで補償
台風15号の被害報道では、強風によって付近の樹木や看板、電柱、鉄塔などが倒壊するなどし、家屋が損壊した映像が流れました。
このような場合、倒壊するなどした物体の所有者(または管理者)に相当の維持・管理上の不備または過失(著しい破損や腐食があるにもかかわらず、長時間放置していた場合など)がない限り、法律上の賠償責任は問うことはできません。民事上の賠償責任が発生しませんので、被害者自らが復旧の費用を負担しなければならないのです。このようなケースでも、火災保険の「風災」または「物体の飛来・落下」という補償項目によって保険金が支払われます。

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ところで、台風15号の強風によって千葉県市原市のゴルフ練習場の鉄塔が倒壊した事故では、隣接する民家約40世帯の家屋に深刻な被害が生じました。前述のようにゴルフ練習場側に施設管理上の重大な過失が認められない限り、家屋の復旧費用だけでなく鉄塔の撤去費用もゴルフ練習場側に全額請求できない可能性が高いのですが、この場合でも火災保険の「残存物取片づけ費用保険金」として撤去費用を請求できる場合があります。
ただしこの事故では撤去対象物の所有者が明確なので、被害者側の保険会社も積極的に支払うという状況にはならなかったようです。また費用が莫大であることから、最終的に被害住民それぞれが契約している火災保険会社が支払う場合は、各社が費用を按分して負担することになるのではと筆者は考えていました。しかしその後、都内の解体業者が無償で撤去を行うと表明し、現在作業が進んでいるようです。
CASE3.洪水などによる家屋の床上浸水
火災保険では「水災」の補償をオプション扱いとしている商品も多くなっています。水災を補償に含めていないと、河川の氾濫や高潮による浸水被害に対応できません。水災の定義は以下のとおりです。
水災…台風、暴風雨、豪雨等による洪水・融雪洪水・高潮・土砂崩れ・落石等によって、床上浸水もしくは地盤面より45センチメートルを超える浸水を被った結果、保険の対象(家屋など)に損害が発生した場合、または再調達価額の30%以上の損害が発生した場合
台風19号では、宮城県や福島県、埼玉県などの7県で111カ所もの河川の堤防が決壊・氾濫しました。土石流や土砂崩れに至っては、19の都県で199カ所の発生が確認されています。この「水災」基準に達する被害報告が保険会社・代理店に相次いでいますが、これらは比較的郊外や山間部に多く発生していました。

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ところが河川の氾濫や土砂崩れとは無関係に思える都市部においても「水災」被害は発生しています。いわゆる排水設備の「オーバーフロー」などによるもので、河川の増水などで行き場を失った大量の雨水がマンホールなどから逆流し、家屋の1階部分や地下室を浸水させます。
この場合、火災保険に「水災」の補償が付帯されていないと補償の対象にはならないので、河川や海が近くにはない立地であっても「水災」の危険がないのかを確認し、「水災」補償の付帯を再検討する必要があるでしょう。
CASE4.「落雷」による設備の被害
大型台風の通過に伴い、一部地域で激しい落雷が発生しました。これにより建物付属機械設備(エアコン、給湯器、配電盤、給水ポンプユニット、エレベーターなど)に過電流などが生じて不具合が起きる事故も発生しています。これらは「落雷」による損害として火災保険でその修理費用が補償されます。
CASE5.復旧に付随する費用
家屋が被害を受けてから復旧に至るまでには、原状回復工事費の他にもさまざまな費用がかさみます。たとえば損害を調査する(損害範囲を確定する)費用や、仮復旧(仮修理)するための費用、残存物を撤去・処分する費用などです。
火災保険からは通常、これらの費用も合わせて損害保険金として支払われます。また、上記以外にも以下のような費用がかかります。
・損害を受けた対象物を再稼働するための点検や、調整に要した費用
・損害を受けた対象物の代替として使用する仮設物の設置及び撤去費用、並びにこれに付随する土地の賃借費用(仮設物設置費用)
・損害の拡大を防止するために要した費用(消火薬剤の詰替え費用など)
これら修理費以外のさまざまな費用も、総合型火災保険では「費用保険金」として上記損害保険金とは別枠で補償しています。
保険商品によって異なりますが、これらの付随する費用が契約上の補償限度額(保険金額)を超えた場合でも、損害保険金と合計した金額を「補償限度額(保険金額)の2倍」まで補償するものもあります。ご自身の賃貸物件の火災保険ではどのようになっているのか、把握しておく必要はあると思います。
CASE6.復旧までの家賃収入
居住することが困難になるほどの甚大な被害に遭った賃貸物件では、復旧までの間に家賃収入を失う可能性もあります。賃貸物件に「家賃補償保険」または「家賃補償特約」を契約していた場合、あらかじめ約定された月額家賃を復旧までに要した期間にわたって補償してもらえるので、賃貸事業の安定化が図れます。
大雨による被害でも補償されないケースがある
台風19号では、観測史上最大の降水量を記録した地域が多数ありました。想定外の事態が各地で起きていますが、火災保険の「水災」では補償されない事例もあります。代表的なものを以下に紹介しておきましょう。
1.雨水の吹込み、浸込み
・サッシの隙間から雨水が吹込み、室内が水浸しになった
・換気扇のダクトから雨水が吹込み、室内が水浸しになった
・通気口から雨水が吹込み、室内が水浸しになった
・老朽化が原因の雨水の浸込みによって雨漏りした
これらはいずれも家屋の破損を伴わないので、事故として認められず火災保険では補償されません。前述のように火災保険で補償される「水災」には定義がありますので、この条件に該当しない、または免責条項に記載のある状況のものは被害に遭っても補償の対象にはなりません。
2.土砂の流入を伴わない地滑り
地滑りは「土地の被害」なので、土砂によって直接家屋が破損または汚損する状況を伴わない限り、火災保険では補償されません。一方、土砂崩れの場合は火災保険の補償の対象となります。土砂崩れと地滑りの違いは、家屋に雨水や土石流による圧力がかかったかどうか、および家屋の基礎部分が沈下、移動または隆起したかどうかです。
土砂崩れの場合は家屋に土砂が大量に流入し、外壁や屋根が破壊または汚損する状態ですが、地滑りは雨水や土石流の流入を伴わずに家屋が沈下または傾斜する現象なので、土地の被害ということになります。
なお、保険約款には「土地の沈下、移動または隆起による損害」を免責とすると明記されていますが、これは上記で言うところの地滑りに当たります。違いがわかりづらいのですが、保険約款ではこのように定められているのです。
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今回の台風15号、19号では、すでに被災している家屋が追い打ちをかけられるかのように被災し、被害がさらに拡大した事例も見られました。大型台風が相次ぐと被災家屋の修復活動が追い付かず、被害が拡大することがあります。今回の被害を教訓に、必要な備えができるよう、正しい保険の知識を身につけていただきたいと思います。
(斎藤慎治)
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