PHOTO:Ryuji/PIXTA

人口減少が続き、将来の労働力不足が既定路線となる中、日本における在留外国人の重要度も高まりつつある。外国人を入居者として「受け入れる側」である投資家も、彼らのことを理解しておくに越したことはない。

本連載では、フリーライターとして活動する傍ら、外国人不動産アドバイザーとして100人以上の外国人の内見に立ち会ってきた佐野真広氏が、日本で暮らす外国人の実態をレポートする。今回は東京都新宿区・新大久保エリアを取り上げる。

「ロッテ」の進出で生まれたコリアンタウン

新大久保と言えば真っ先に思い浮かぶのが「コリアンタウン」のイメージだろう。現在、大小合わせ300以上の韓国料理・雑貨店がひしめくこの街。誕生は第二次世界大戦後にまで遡る。

この街がコリアンタウン化した最も大きな要因の1つは、韓国企業である「ロッテ」の進出だ。1950年、同社は新大久保駅から北東に徒歩3分程の場所にチューインガム製造工場を建設。同年3月に本格稼働させると、工場で働く在日韓国人労働者らが周辺地域に流入し、街は一気に日本随一のコリアンタウンへと発展した。

その後、2009年にかけて韓国を襲った通貨危機や2011年の東日本大震災などにより、留学生を含めた韓国人の数が減少。街には中国人やベトナム人も増え、多国籍化が進むことになる。中でも2010年以降、新大久保周辺で著しく増加したのがネパール人だった。

新宿区の人口調査によれば、2019年10月1日現在における区内のネパール人の数は3006人。一見少ない気もするが、新宿区の外国人住民国籍別人口で見ると中国人(1万4699人)、韓国人(1万239人)、ベトナム人(3123人)に次ぐ4番目。2009年は781人だったことを考えれば、10年間で4倍近く増えたことになる。

震災でネパール人の割合が増加

新大久保にネパール人が急増した背景には「留学生」と「ビザ」の影響がある。東日本大震災以降、新宿や大久保周辺に点在する日本語学校に通っていた中国人、韓国人留学生が一斉に帰国。学生数が急減した学校側は、2008年に日本政府が打ち出した「外国人留学生30万人計画」による外国人ビザ緩和政策を追い風に、留学生の送り出しに積極的だったネパール人留学生の確保に力を注いだ。結果、来日したネパール人留学生は学校に徒歩圏内で通えて、新宿区内でも家賃が安い新大久保周辺の物件に住むようになった。

ネパールからの出稼ぎ労働者も時流に乗った。彼らもまた政府のビザ緩和政策の恩恵を受け、以前より容易に取得できるようになった「技能ビザ」で来日。インド料理店をはじめとした飲食店のコックとして働き始め、家族を「家族ビザ」で次々と呼び寄せた。

新大久保のネパール料理店(著者撮影)

新大久保にある不動産会社従業員のM氏はこう語る。

「韓国人を受け入れてきた実績のある新大久保、大久保は他の地域とは異なり、外国人でも比較的容易に部屋を借りられるエリア。そういった仲間内の情報共有もあり、ネパール人はこの地域に集まり始めたようです」

またM氏は、東日本大震災後に新大久保周辺の外国人数が急激に減ったことで「同地域の賃貸アパートに空室が増えたことも大きかったのでは」と推測する。

それまで中国人、韓国人らに部屋を貸していたのは長く大久保に在住する外国人オーナーだった。彼らは日本人オーナーとは異なり、外国人に部屋を貸すことにさほど抵抗がなかった。この流れもネパール人増加の要因に繋がったのだろう。

国籍ごとに棲み分けも

彼らが暮らすエリアは新大久保、大久保周辺でも広範囲には及んでいない。多国籍化が進む街とはいえ、国籍ごとに棲み分けはできている。ネパール人の多くが住むエリアは現在、JR中央線・大久保駅とJR山手線・新大久保駅を結ぶ大久保通りの北側地区にある新宿区百人町一帯が中心と言われる。

百人町の一角(著者撮影)

新大久保駅改札前にあるドラッグストア「マツモトキヨシ」を右折した辺り。一歩足を踏み入れると、コリアンタウンとは異なるアジア独特の雰囲気が漂う。見慣れない横文字に加え、アジア系食料品店や飲食店が日系飲食店に交じり営業している。こうした店の中にネパールの国民食と呼ばれるダルバート(豆スープとごはん、おかずを組み合わせた定食)を提供する店があるため、在留ネパール人の足は自然とこの地に向くのだと言う。

ネパール料理「ダルバート」(PHOTO:olli0815/PIXTA)

百人町一帯は狭い路地に沿うように小規模アパートが連なる。家賃相場は1R、1Kでおよそ7~8万円程。東京23区内の外国人が多いエリアに比べれば家賃は高めだが、新宿から徒歩圏内という立地と中央線、山手線、西武線を利用できる利便性を考慮すれば決して高くはない。

「複数入居前提」で家賃を高めに設定

ネパール人の大半はこうした1R、1K物件に家族、または知人と入居する。複数入居は賃貸契約に違反しているケースが多いものの、彼らに違法という認識はない。むしろ小さな部屋に複数人が一緒に住むことは家賃節約になると考えていて、1Rに3~4人が住むことも珍しい光景ではない。こうした文化や概念の違いもあり、トラブルを恐れる日本人オーナーの多くは物件を貸したがらないのである。

ただ、ここ数年は来日外国人数の増加もあり、日本人投資家がこのエリアにあるアパートを購入、外国人居住者に貸し出し、賃料を得ているケースも見受けられる。このエリアのアパートで「外国人可」であれば、例え築30年以上のような古い物件でもすぐに借り手は見つかるからだ。

「特にネパール人は借りられる物件の選択肢が少ないこともあり、昭和のマンガに出てくる◯◯荘というような極端に古いアパートでも気にせず借りてくれます。一部投資家はそこに目を付け、あえて日本人が敬遠する築古アパートの一室を格安で購入。複数入居を前提に家賃を高めに設定してネパール人らに貸し出し、効率よく賃料を得ているのです」(前出のM氏)

もっとも、投資家には最近気になる点もある。入国管理局によるネパール人向けビザ発給の締め付けである。明確な理由は明らかにされてないものの、ここ数年在留ネパール人による難民申請が急増。「申請さえすれば一時的に就労が許可される」という制度を悪用するケースが目立ち始めたため、日本政府が対策に乗り出したと見られる。この影響により、ネパール人留学生や労働者のビザ更新が認められないケースが増えているため、今後は新大久保周辺のネパール人が減少する可能性もある。

新大久保は韓国人がコリアンタウンを形成して以来、多種多様の民族を受け入れてきた。もしネパール人が急減すれば、また新たな人種が流入してくるだろう。ただ、外国人頼みの賃貸経営は不安定要素が多い。今後、投資物件を利用して新大久保周辺で賃貸経営を行いたい投資家はその辺りのリスクを覚悟しておく必要がある。

(佐野真広)