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今年3月に発表された公示地価、7月に発表された路線価、そして9月に発表された基準地価。この3つで特徴的だったのは、都心部だけでなく「地方でも地価が上昇している」ということだった。地方圏の地価が全用途平均で上昇となったのは、バブル末期の1991年以来27年ぶりのことだ。

地方都市の中心部では、新築分譲マンションの価格が高騰しているエリアもある。こういった状況の中で、地方圏の投資用マンション購入を検討する場合、どのようなエリアが狙い目なのだろうか。住宅評論の第一人者で年間200件以上の物件取材を行う住宅ジャーナリスト・櫻井幸雄氏に見解を聞いた。

高くなりすぎた都心部

東京や大阪の中心地で不動産価格が大きく上昇し、高止まりしている現在、地方都市の中心部への関心が高まっている。そのことを示すように、地方で地価が上昇し始めた。特に、北海道のニセコ周辺や京都、石川県の金沢などで地価上昇が顕著だ。

北陸新幹線が開業して以来、東京に降り立った外国人旅行客が金沢を経由して京都に向かうようになり、金沢市内には大きな荷物を背負ったり引いたりする欧米人の姿が目立っている。

同様に外国人の姿が目立ち、外国資本の土地取得も増えているのが、北海道のニセコ周辺。いずれも活気が出て、飲食店や物販店の進出が盛んな場所である。

バブル崩壊以降、地方では地価の下落が続き、タダでも引き取り手のない土地が「負動産」と呼ばれるケースも出てきていた。その地方で、活気が出ている場所があるというのは、不動産の世界で看過できない出来事となっている。

実際に「これからは地方だ」と食指を動かしている不動産会社は少なくない。

「地心」に注目する

私は、「都心」に対して「地心(チシン)」という言葉を以前から使っている。地心とは、地方の中心エリアを指す私の造語。「都心」とともに、「地心」もマンション立地として注目すべき、との思いを込めた言葉である。

地心マンションに注目してきた理由は、分譲マンションを安く購入でき、高い家賃で貸すことで利回りが上がるからだ。しかし「安く仕入れて、高く貸せる」は、すべての地心に当てはまるわけではない。

地方でも、新築分譲マンションの価格が大きく上昇したエリアがある。そして、家賃水準が低く、なかなか高くならないエリアもある。

地心で分譲価格が大きく上がってしまったエリアの代表は、仙台と福岡。さらに、那覇、広島、札幌もだいぶ高くなってしまった。

そして、家賃水準が低いエリアの代表が福岡と札幌だ。そうなると、福岡は「高く仕入れても、安くしか貸せない」最悪の場所ということになる。

しかし、実際にはそうともいいきれない側面がある。

福岡と札幌で家賃水準が低いと感じるのは、1Kや1DKなどの若者向け賃貸住宅。地元不動産業の方々が「苦労している若い人たちを助けてあげよう」という男気のようなものが強いためか、若い人向けのコンパクト住戸は家賃3万円、4万円といった物件が豊富。地方の美徳ともいえる現象なのだが、それがシングル向け投資物件の魅力を下げているのも事実だ。

地心で魅力的なのは「転勤族向け3LDK」

一方、地心であっても、ファミリー向けの3LDKは家賃設定が高めだ。その理由は、転勤族が借りてくれるからに他ならない。

福岡や札幌、仙台、広島、金沢といった「地心」には、東京・大阪からの転勤族が多い。ここで重要なのは、転勤族の賃貸事情。彼らは東京と同じような家賃で賃貸マンションを借りようとする。「家賃補助もあるから、東京と同じレベルの家賃で、東京では住めないような家を借りよう」―。そう考えるので、月額家賃15万円までは許容範囲となる。

地方都市において、家賃15万円はかなりの高額である。地元の人は、そんな高額家賃を払うぐらいならマイホームを買ったほうがよい、と考える。しかし、転勤族は一時的な仮住まいなので、「買う」という発想はない。「嫌な転勤を甘受するのだから、せめて快適な住まいに暮らしたい」と思う。だから、3LDKや2LDKは高い家賃設定が可能となり、高利回りが期待できるわけだ。

中でも高利回りだったのが、東日本大震災前の仙台。物件によっては表面で9%くらいは出る、と言われた。利回りが高かった理由は、中心地の好条件マンションを割安に購入できたことにある。震災前の仙台では一戸建て志向が強く、マンションはたとえ中心地でも価格は抑えられていた。

もちろん、中心地の好立地マンションであれば、売れ行きは好調だった。ただ、都心マンションのように全国から購入者が集まって「即日完売」になるほどではなく、買い手は地元の人たちが中心。絶対数が少なかったので、販売開始から1年後に販売センターを訪れても、まだ購入可能な住戸がある―。そんな状況だったから、安く購入しやすかったわけだ。

その状況が、東日本大震災で一変した。

短期間に市況が変わるのも地方の特徴

東日本大震災からしばらく後、一戸建てを失って避難所生活を送っていた人たちが、仙台中心地のマンションを買い求める動きがあった。中心部でも停電や都市ガスの停止は起こったが、津波の被害はなく、建物は無事だった。だから、新たなマイホームを求める人が中心部のマンションに殺到したのだ。

保険金や義援金を購入資金に充てることができたので、1億円近いマンションを一般的な家族がキャッシュで購入して不動産会社を驚かせたりした。

当時の仙台では「マンションはつくるハシから売れてゆく」という異常な状況が生まれ、不動産価格は急激に上昇。その結果、東日本大震災から5、6年経ったあたりから、仙台でマンションを新たに購入し、賃貸に回したときの利回りは大きく下がってしまった。

仙台の新築分譲マンションの価格は2年ほど前まで上がり続け、現在は高止まりの状態。この後、価格が下がれば賃貸に出したときの利回りが回復するだろうが、現在はまだその気配はない。

ここにも、地方都市の特徴がある。限られた面積であり、マーケットのスケールも小さいため、災害や新たな開発計画など、マイナス要素・プラス要素が加わると市況がダイナミックに変わってしまう。不動産市況が不安定といってもいい。しかし、大きな利回りを得ることができる可能性もある。そこが、地心投資のおもしろさといえないこともないのだが…。