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「改正住宅セーフティネット法」の施行から2年が経過した。単身高齢者や障害者、低額所得者など、賃貸を断られやすい世帯(住宅確保要配慮者)の受け皿として、公営住宅に代わり民間住宅を活用しようと始まったこの制度。しかし物件の登録数は今も伸び悩んでおり、活用は進んでいないという。

入居者は月額最大4万円の家賃補助が受けられ、また物件を提供する大家は最大100万円の改修費補助のほか、改修費の8割を上限とした融資が受けられるなどメリットがありそうだが、どこに問題があるのか。改めて制度の内容を確認するとともに、課題を整理し、上手な活用法を探った。

単身高齢者が急増

2010年10月に施行された改正住宅セーフティネット法。改正の背景には、高齢者世帯の増加や低所得者、1人親家庭など、住居が確保しにくい世帯の受け皿不足の深刻化がある。

この改正法は主に3つの柱からなる。1つ目は、これら世帯への賃貸を拒まない物件を「セーフティネット住宅」として登録し、インターネット上で公開する制度。2つ目はこうした住宅に対して改修費や家賃の一部助成を行う制度。3つ目は対象世帯が円滑に入居できるよう支援する制度だ。

改正住宅セーフティネット法の3つの柱

以下、それらについて具体的に説明しつつ、問題点や大家から見た活用方法を紹介していくが、その前に前提条件となる単身高齢者世帯の現状に触れておこう。

国立社会保障・人口問題研究所が今年4月に発表した人口推計によると、65歳以上の単身世帯数は2015年(625万3000)から2040年(896万3000)にかけて43.4%増加。75歳以上に限っても37.0%増となっている(ちなみに単独世帯全体の数は8.3%の増加にとどまっている)。

単身高齢者世帯では、持ち家から、安くて利便性のよい賃貸物件への住み替えニーズが高まっている。こうした動きは大家を稼業とするうえでぜひ抑えておきたい。

開始2年で目標の1割未満

まずは1つ目の柱である「セーフティネット住宅」の登録制度について。制度そのものは単純で、基準を満たした物件を、「セーフティネット住宅情報提供システム」のウェブサイトを通じて自治体に申請すれば、サイト上で公開される。閲覧した賃借希望者は物件管理者などにアクセスできる。

国交省が管理する「セーフティネット住宅情報提供システム」。都道府県名をクリックすると、一般的なポータルサイトのように物件情報や写真が表示される(クリックして拡大)

申請できる物件の基準は床面積が25平米以上であることや、台所や便所、浴室の設置、また一定の耐震性を備えていることなど(シェアハウスなど共用部がある場合はこの限りではない)。

登録する際は、「高齢者、低所得者の入居は拒まない」など入居者の属性を限定することができ、集合住宅の場合は戸別の登録が可能だ。登録した属性の入居希望者に対しては、その属性であることを理由に入居を拒むことはできなくなる。家賃設定は周辺相場と同水準であれば問題ない。

物件の登録画面サンプル。どのような入居者を可/不可とするかを指定できる(『セーフティネット住宅事業者向け管理サイト 入力マニュアル』より、クリックして拡大)

注意が必要なのは、登録する住宅には「専用住宅」というカテゴリーがあること。ここでいう専用住宅とは、単身高齢者など、住宅を確保しにくい世帯専用の住宅を指す。実は、この制度で助成対象となるのは専用住宅だけだ。後に詳述するが、この制限が大家にとって制度のメリットを感じにくい一番の要因となっている。

こうした問題点もあり、制度創設から丸2年が経過した10月時点の登録戸数は約1万2300戸で、来年度末までに17万5000戸とした目標の1割にも達していない。制度を所管する国土交通省の担当者は、「制度が十分周知できていないのが一番の理由」と話しているが、ことはそう単純ではないようだ。

改修費に8割融資、助成適用は「専用住宅」のみ

続いて2つ目の柱の「助成制度」について見ていこう。助成制度は下表のように4つの仕組みからなっている。4つのうち3つは、既に指摘したように「専用住宅」という極めて限定された物件にしか適用されない。

これらのうち、専用住宅にしなくても登録するだけで受けられるのが改修費融資制度。物件をセーフティネット住宅として登録する際、または登録後に、住宅のバリアフリー化や間取り変更、耐震補強といった改修を行う場合、住宅金融支援機構を通じて、返済期間最大20年の固定金利で、工事費の8割までの融資が受けられる。ただし完済するまでセーフティネットに登録(専用住宅とする必要はない)し続ける必要がある。

残りの3つの制度は、専用住宅とすることが必須になっている。「改修費補助」制度は、間取り変更やバリアフリー化、耐震化などの改修工事に対し、最大で工事費の3分の2が助成されるというもの。補助率や限度額は物件が立地する自治体によって異なる。国による支援の上限額が50万円で、自治体によっては同額が上乗せされる。上限額である50万円が国から支援されている自治体では、最大で100万円の助成が受けられる仕組みだ。ただし助成を受けた物件は10年以上は専用住宅としなければならない。また家賃にも上限が設けられ、公営住宅並みに設定する必要がある。なお国からの助成は来年3月までとされ、4月以降は助成の比率や金額は自治体次第となる。

「家賃債務保証料低廉化」制度は直接オーナーには関係がない制度だが、家賃債務保証会社が低額所得者の負担軽減のために初回の保証料を下げた場合、家賃債務保証会社がその減額分に対して1戸あたり最大6万円の補助が受けられるというもの。家賃保証は、大家にとっていざというときに頼りになる存在。入居者の負担を減らすことで加入を促すのがこの制度の狙いだろう。

「家賃低廉化補助」制度は、月収15万8000円以下の世帯の入居者が対象。低額所得者の負担を軽くするために家賃を周辺相場よりも下げて公営住宅並みとした場合、その減額分のうち月額最大4万円が国と自治体から補てんされる。つまり賃借人にとっては、例えば月6万円の物件に実質2万円で入居できる。ただし、この仕組みも大きな問題を抱えている。

補てん費用は国と自治体が折半することになっており、この仕組みを導入するかどうかは自治体の判断に任せられている。全国で高齢者の見守りサービスなどを展開する「ホームネット」(東京都新宿区)によると、この仕組みを導入している自治体は全国で約20自治体にとどまり、都内では昨年度時点で、世田谷区、墨田区、豊島区、八王子市だけだったという。

そもそも専用住宅として登録することに抵抗感もあるだろう。共同住宅全戸を専用住宅にしたと仮定とすると、ある企業が長期借り上げ社宅としての活用を申し出てきたとしても、断らざるをえない。その一方で、専用住宅として登録しても、住環境などが入居希望者の意向と合わなければ借り手はつかない。

「貸し主の視点が欠如」

問題はありながらも、メリットを存分に得るために専用住宅に登録したとしたら、稼働率が飛躍的に向上することはあり得るだろうか。

制度に詳しいホームネットの種田聖氏は「そううまくはいかないだろう」との見解を示す。ニーズがあるのは確かで、特に70~80代の単身高齢者世帯からの相談は非常に多いという。「アパートの老朽化で立ち退けといわれているが、ほかに貸してもらえない。夫が他界したので、安いアパートを探しているが断られる、などの相談は1日に何件も舞い込む」と話す。

一方、「おそらく専用物件に登録するのは、立地条件が悪く、引き合いの少ない物件になる」との想定にたち、相談者らが重視する「病院に通いやすい」「買い物しやすい」などといった条件とマッチしない可能性が高いと分析。助成制度のあり方について「画に描いた餅。貸し主側に立った制度になっていない」と手厳しい。

専用物件でも、病院や役所など生活に必要なインフラが近くになければ入居者のニーズを満たせない(PHOTO:Mugimaki/PIXTA)

貸し主側の視点が欠けているとの問題は、「登録料」の存在に端的に表れている。セーフティネット住宅への登録に際し、実は、手数料を徴収している自治体がある。セーフティネット住宅のウェブサイトが公表している4月時点の資料によると、全国で10自治体が登録手数料を徴収しており、最大では長崎県佐世保市が共同住宅に対して1万9100円の料金を設定していた。国交省は手数料をとることは禁止していないものの、「制度普及の足かせになる」と問題視しており、廃止を促しているという。

種田氏は、「行政サイドにも制度がほとんど知られていないのが実情だ。住宅部局の一部が知識として知っているくらいだろう。貸し手側としても、簡単ではない手続きをしてまで登録するだろうか。仮に登録したとしても、自治体が予算を取っていなかった、ということも起こってしまう」と指摘した。

もっとも国交省もこうした批判は甘受しているようで、「登録手数料は廃止の方向にある。共同住宅の登録手続きでは、戸ごとのデータ作成を簡略化するなど改善してきた。さまざまなご意見をいただく中で、大家さんがメリットを感じられるようにしていきたい」としている。

見守り、特殊清掃活用で負担減

ここまで主に問題点を挙げてきたが、大家にとって役に立ちそうな制度について紹介しておこう。

改正セーフティネット法最後の柱の「入居支援制度」と「家賃債務保証業者」だ。いずれも大家は間接的に利用することしができないが、うまく使えばアドバンテージになるはずだ。

入居支援制度は、具体的には対象世帯が円滑に入居できるよう支援する団体・法人活動への優遇措置となっている。こうした団体・法人は「居住支援法人」と呼ばれる。都道府県の指定を受け、単身高齢者ら対象世帯らの円滑な入居を支援する。10月15日時点で40都道府県の延べ265法人が指定されており、国交省がホームページ上で公開している。前出のホームネットも支援法人の1つで、NPOや社会福祉法人、不動産業者などがある。

支援法人に指定されると、家賃債務保証上の保険優遇が受けられるほか、見守りなどの事業活動が1000万円を上限に全額国費負担となる。支援法人の活動は法人によって異なるが、主だった内容としては、支援が必要な賃借希望者からの住宅相談を受けて、適当な賃貸業者に取り次ぐ相談業務、高齢者世帯の見守りや特殊清掃サービスなどがある。支援法人は、セーフティネット住宅以外の物件もサービスの対象としているため、セーフティネット住宅に登録していない大家でも間接的に助成の恩恵を受けることができる。

家賃債務保証や代理納付で便宜

もう1つの家賃債務保証業者制度は、セーフティネット住宅の家賃滞納リスクを軽減するために設けられた。入居者が連帯保証人を確保できず、支援法人などが代わりに債務保証を担う場合を想定している。この支援法人などが国交省に「家賃債務保証業者」として登録すれば、セーフティネット住宅で家賃の滞納が発生した場合に備えて、住宅金融支援機構が特別に用意した保険サービスに加入できる。この保険は、家賃1月分の25%の保険料を支払うことで、滞納が発生した場合100万円を上限に月額の7割分が保険金として支払われるというもの。大家側からすれば、賃貸人にこの保証業者の利用を促せば家賃滞納のリスクを軽減することができるというわけだ。保証業者は10月18日時点で65社が登録され、国交省のホームページで公開されている。

この保証業者には、先述した家賃債務保証料を実質的に行政側が負担する優遇措置も設けられている。国と自治体は保証業者が減額した分を、最大6万円まで丸ごと助成する。ただし、こちらの制度は、活用できるかどうかは各自治体の裁量に委ねられているため、実施しているかどうか事前の下調べが必要だ。

最後にセーフティネット住宅と関わりが深い生活保護費の「代理納付制度」についても触れておこう。これは大家が家賃分の住宅扶助費を福祉事務所などから直接受け取ることができる制度で、セーフティネット住宅ではなくても、生活保護受給者が入居する物件では、家賃滞納が解消されない場合などの条件の下で活用できるが、セーフティネット住宅では、大家側の求めに応じて行政側がその要否を判断できる。また、セーフティネット住宅登録時に受け入れの要件として、「代理納付制度」に応じる入居者であれば入居可という条件を設定できるなど、便宜が図られている。

以上の通り、居住支援法人や家賃債務保証業者を活用することで、これまで単身高齢世帯などを敬遠してきた大家でも、負担感やリスクを軽減できるようになる。借り手の選択肢が広がれば、稼働率の向上につながるはずだ。

課題改善に期待

改正セーフティネット住宅法を取り巻く現状を報告した。運用上の問題は多数見受けられるものの、単身高齢者世帯の増加といった無視できない行政課題に対して、民間住宅を当て込むというアプローチは間違っていないはずだ。

改正法施行から2年の節目に、より実効性のある制度への改善が望まれる。改善次第では、大家にとっても今以上にメリットを感じやすくなる余地はある。手始めに、手持ちの空き物件があれば、登録を検討してみてはいかがだろうか。対象となる入居希望者から住宅相談を受けた支援団体や業者から、声がかかるかもしれない。逆にその地域をカバーしている支援法人の活動実績が十分で、利用できそうなサービスがありそうなら、こちらから声をかけてみると活用に当たっての助言もえられるだろう。

(楽待新聞編集部/山崎ハジメ)