「愛媛大学3回生、野田 昌寛です」

眩しい笑顔で挨拶をしてくれた彼には、学生以外にもう1つの顔がある。不動産賃貸業を営む会社の社長だ。愛媛県を中心に新築アパート、中古アパート、駐車場、トランクルームなどを手掛ける。不動産投資を始めたのは20歳のとき。法人を設立して物件を取得し、22歳となった現在、会社は3期目を迎えた。

「現役大学生大家さん」という稀有な肩書を持つ彼は、どんな人物なのだろうか。

「あんまり働いていないのに、良い生活しとるな」

野田さんが大家業に興味を持ったきっかけは、小学生時代によく見かけた、自身が住むアパートの大家さんだった。他の大人は朝早くからスーツを着て出かけていくのに、大家さんは出かけるのが遅い。それなのに、良い車に乗って良い生活をしているように見える。「あんまり働いていないのに、良い生活しとるな、良い車乗っとるんやな」子どもながらに、大家という存在に興味を抱くようになった。

小学生の時、家族旅行で訪れた大阪の「ひらかたパーク」で

小さい頃からお金やビジネスに関心があった野田さん。中学生のときには金融機関主催のビジネスコンテストに参加、不動産をテーマに「ホテルとアパート一体型のビジネス」を立案した。「祖母からは、あんたはお金お金した子やなと言われていました」と笑いながら話す。

高校時代はボランティア団体にも所属していた

そんな野田さんに転機が訪れたのは大学時代。祖母が亡くなり、住んでいた家の活用を考える機会ができたことがきっかけだ。もともと大家業に興味があった野田さんは、その土地にアパートを建て、自らが大家さんになることを志願した。

しかし、当初は両親から反対され、なかなか話を進められかった。「両親に納得してもらうため、事業計画書を作成し、事業に問題がないことを数字で示しました。また、自分で銀行を訪問して融資を得たことで、これから大家業で生きていくんだという本気の姿勢が伝わったと思います」。野田さんはこう、当時を振り返る。

1棟目の新築アパート

きみにはできないと思う、と言われて

1棟目の物件取得で一番大変だったのは融資付け。何行も頭を下げて回ったが、「大学生だからきみにはできないと思うよ」という決まり文句で何度も断られ続けた。

「一時期は正直諦めていました」と振り返る。ただ、3カ月ほど粘り強く金融機関回りを続けた結果、今のメインバンクとなる地元の銀行と出会った。その銀行もはじめは渋い反応だったが、何度も通い続けることで、学生ながら本気の姿勢が認められ融資承認につながり、不動産投資の第一歩を踏み出した。

大家さんになると決意してから1棟目の取得まで、1年が経過していた。

新築の見学会、2日で100組

1棟目の入居付けから野田さんがお世話になっている地元の不動産会社の社長がいる。愛媛県宇和島市にある有限会社丸和の古谷社長だ。社長自身が大家業を30年以上行っており、長年の経験で培ったノウハウを生かし、入居管理だけではなく野田さんの不動産経営全般の相談に乗っている。

古谷社長(写真右)と野田さん

古谷社長は「30年以上この業界に携わっているが、現役大学生の大家さんには一度も出会ったことがない。メガ大家さんと呼ばれるような凄腕の大家さんには会ったことがあるけど、学生は初めてだ」と嬉しそうに話し、野田さんの凄さがわかる規格外のエピソードを披露してくれた。

「1棟目の新築アパートでは新築見学会を行ったんですが、2日でなんと100組もお客さんが集まったんです。宇和島でそんなに人が集まる見学会はありません。私も建築会社も朝から晩まで対応が大変でした」(古谷社長)

野田さんによると、近隣住民の方へのビラ配り、SNSによる広告や野田さんの家族の協力もあって、想像以上に口コミが広がった結果、多くの人を集めることができたそうだ。

1棟目の現地見学会の様子

野田さん自身が来場者に部屋を案内したところ、その場で入居を決めてくれた方もいる。「私がこの物件の大家さんです。今、大学生なんですよ」。そう伝えたところ、その行動力の高さに興味を持ってもらい、入居を決めてくれたそうだ。

「入居者と直に触れ合うことで、大家として学べることがたくさんある」と話す野田さん。当時の経験から、今でも入居者と直接コミュニケーションを取ることを大切にしている。家賃の振込みが遅れたり、入居者同士でトラブルが発生したりしても決して管理会社任せにせず、必要があれば自分で対応するのだそうだ。

現地調査は500件以上

「野田くんのことは、宇和島や松山じゅうの不動産会社が知っているんじゃないか」と古谷社長。それもそのはず、野田さんは良い物件を仕入れるため、松山市や宇和島市を中心に数多くの不動産会社に飛び込んで物上げを行っているからだ。

「学生で大家業をやっています、と言うと驚かれるのですが、驚いてもらえたら勝ちだと思っています。そうやって印象を残せないと、収益物件が入ったらはじめに学生大家の野田くんに紹介しようと思ってもらえないからです」と野田さんは話す。

野田さんが不動産会社への訪問で用意する資料

不動産投資で成功するためには判断のスピードが重要だと話す野田さん。「良い物件はスピード勝負。物件の紹介が来たらすぐに現地へ向かい、買いと判断したらその場で買付証明書を出します」とベテラン投資家さながらの姿勢を見せる。

不動産賃貸業を始めてからは、1週間で平均して5物件ほど物件見学に行っており、現地調査に行った回数はすでに500件を超えるそうだ。「不動産投資を始めたばかりの頃は、物件を見る目を養うためにもなるべく多くの物件を見たほうがいいと思います。たくさんの物件を見ることで判断の正確性やスピードが増すからです」。

大家業6割、学業4割

不動産賃貸業の社長として日々の仕事をこなす一方で、大学の勉強も怠ってはいない。「テスト期間と遠方の物件調査のスケジュールが被ることもあるんですが、その時は宿泊先のホテルで勉強しています。大家業をしながらでも、大学の単位はしっかりと取れています」学業と大家業をきちんと両立しているから驚きだ。

大学の授業でプレゼンを行っているところ

また、大学の授業が大家業に活きていることもあるという。「大学では、さまざまな業界のマーケティングのケーススタディを学べます。他業界ではやっているけど、不動産業界ではやっていないこと。そんなことを取り入れて、自社の強みになっています」

また、銀行の担当者からは、大家業と学業を両立するよう強く言われており、「大学の勉強もしっかりとしなさい。大学で学んだことが、事業にも絶対に生きるから」。とアドバイスをもらっている。現在の生活は、大家業が6割、学業が4割だ。

笑顔の不動産起業家

野田さんと時間を共にして、すぐに気づいたことがある。それは、彼がどんなときでも「笑顔」であることだ。また、野田さんの笑顔に呼応するように、周りにいる人も笑顔になる。

野田さんが笑顔を心がけるようになったのは不動産投資をはじめて2年目のこと。岡山県の不動産会社社長との出会いがきっかけだった。「しんどい時ほど笑顔を大切にする」。尊敬するその社長の教えを守り、今では自身のことを「笑顔の不動産起業家」と名乗るほど、その考えを大切にしている。

「お客さんを案内するとき、物件調査で現地に行くとき、銀行の融資面談のとき、すべて笑顔を心がけています。笑顔を心がけたことで入居率が上がったし、良い物件を紹介してもらえるようになった。物件の案内が来る量は3倍くらいに増えた」と、笑顔でいることの大切さを野田さんは教えてくれた。

1000世帯の笑顔をつくりたい

現在、野田さんは地元の愛媛だけではなく、香川や岡山にも物件調査に出向き、さらなる事業拡大に意気込む。

「1000世帯の笑顔をつくりたい」と1000室を持つ大家さんになる大きな夢を語ってくれた。しかし、同時に「明確な期限は設けていません。期限を設けると、買うことが目的になってしまい事業の失敗につながるからです」と冷静さを併せ持つ。

最後に、野田さんから不動産業界への思いを聞いた。「IT業界では、高校生や大学生が起業し、多くの若手の方がビジネスの世界で挑戦しています。私は大家さんとして、不動産業界で起業しましたが、同じように学生で大家さんに挑戦する人が増えると嬉しいです」

 

(楽待新聞編集部・藤江良)