ある日、楽待編集部のスタッフがネット上で見つけた建物。うっそうと茂ったツタで建物全体が覆いつくされ、異様な雰囲気を醸し出している。

調べてみると、この建物は東京の「山谷」という地区にある簡易宿所であることが分かった。果たして、この物件のオーナーはどんな人なのか。そして、宿泊者はいるのだろうか。現地で調査してみることにした。

かつては「日雇い労働者の街」

山谷地区はJR南千住駅の南側、台東区と荒川区にまたがるエリア。花街の吉原に隣接し、江戸時代には宿場町として栄えた。戦後の高度経済成長期に入ると、宿泊料の安さから多くの日雇い労働者が集まる簡易宿所街になったという。

城北旅館組合などによると、1960年代には労働者たちによる暴動(通称・山谷騒動)がたびたび発生。「危険なスポット」というイメージがつきまとうようになったが、近年は街の様子も変化してきているという。

1泊2000円台

スタッフはさっそく現地へ。あの物件のオーナーに会いに行ってみることにした。

南千住駅から歩いて10分ほど、「泪橋(なみだばし)」という交差点を過ぎると、簡易宿所が立ち並ぶエリアが現れた。宿泊料金は「1泊2000円」「1泊2200円」と格安だ。

英語での料金表記をしている簡易宿所も目立ち、街には外国人観光客の姿も。浅草や東京スカイツリーなどにも近いことから、最近は観光地としてもにぎわっているようだ。

「寝る場所さえあれば」

山谷地区の住民に聞き込みをしてみると、件の建物は「お化け屋敷」と呼ばれていることが分かった。案内通りにエリアの奥へ進むと、日雇い労働者と思しき人たちが現れ始め、昼間から地べたに座って酒盛りをする人たちの姿もあった。

数人で座っていた男性の1人に話しかけると、別の簡易宿所に「10年住んでいる」という。この男性も生活保護受給者で、「たたみ2畳でも関係ない」「寝る場所さえあれば」という話だった。さらに別の簡易宿所に宿泊しているという男性も生活保護を受給しており、暮らしている簡易宿所については「冷房も効いてないし、居心地は無茶苦茶悪い」とこぼしていた。

異様な迫力の「ツタ物件」

さらに奥へと進むと、ついにあの建物が姿を現した。大量のツタが建物全体を包み込む様子は、間近で見ると異様な迫力。入口の看板に掲げられていた宿泊費は「1泊1700円」で、他の簡易宿所と比べても破格の値段だった。

オーナーを訪ねてみたが、不在だった。

建物前でオーナーの帰りを待っていると、ある宿泊者に話しかけられた。この簡易宿所で1カ月ほど暮らしていて、「ひばりさん」という名前らしい。しばらく話していると、「近くの公園で夏祭りをやってるの。いらして」と誘われたので、ついて行ってみることにした。

「ぶん殴られなくてよかったな」

公園には山谷地区の住民や労働者が相当数集まり、熱気にあふれていた。参加者によれば年に1度、3日間にわたって開催されている祭りで、食事の提供やカラオケ、ステージイベントなどがあるという。

公園を出た瞬間、数人の私服警官に呼び止められた。労働者同士の争いや部外者を巻き込んだトラブルの危険があるため、警備に来ているという。想像していたより危険な祭りのようだった。

帰り際、ある住民に「ぶん殴られなくてよかったな」と声をかけられた。

ツタ物件に戻ってオーナーの帰りを待ったが、この日は戻ってくる気配がなかった。