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農家とその家族を主な組合員とし、相互扶助の精神のもとで運営されているJA(農協)。そのJAが行っている金融事業が「JAバンク」だ。主に農業者の預金や融資業務を行っているが、アパートローンも展開している。

前回の記事では、著者である金融コンサルタントの高橋克英氏に「銀行が時代に淘汰されても、信用金庫は生き残る」という予測の根拠を解説してもらった。今回は、信用金庫に似た性格を持つJAバンクについて現状を整理するとともに、不動産向け融資に関する将来の展望について語ってもらう。

知られざるJAバンクの実力

テレビCMなども放映され、「JAバンク」という名称は広く知られている。しかし、実際にはこのような名前の金融機関は存在しない。JAバンクとは、JA・JA信連・農林中金の3つの組織が行う金融事業の総称だ。

JAバンクを構成する3つの組織。市区町村レベルの「JA」、都道府県レベルの「信連」、全国レベルの「農林中金」(JAバンク東京信連Webサイトより)

3つの組織の違いが少々分かりづらいかもしれないので、簡単に説明しておこう。まず「JA」は、「JA○○(市町村名)」などのような名称を持つ市町村レベルの農協である。組合員である農家に向けて貯金やローン、為替などの金融サービスを提供している。

「JA信連」は都道府県レベルの農協で、⼤規模な農業法⼈や地元企業への融資などを行っている。「JA大阪信連」「JA福岡信連」などのような名称を持つ。

「JA福岡信連」のあるJA福岡県会館(PHOTO:Renoir/PIXA)

そして「農林中⾦」は全国のJAバンクの本部機能を果たす機関。また金融市場での有価証券投資や法人向けに大口の貸し付け業務などを行っている。

JAバンクは2019年7月時点で全国に642あり、7594店舗を展開している。農協を基盤とした強固な組織力を持ち、農業金融、地域金融の一翼を担う金融グループなのである。

103兆円の預金が負担に

農家を主とする組合員から、全国のJAバンクが預かっている預貯金はおよそ103兆円。そのうちの64兆円はJA信連に、14兆円は農林中金に預けられている。JAは、残りの25兆円を地域の農家、農業法⼈、その他利用者に向けて運用している。前述したような農業融資や住宅ローンに加え、農家の地主などへのアパートローンといった資⾦ニーズにも対応する。

ちなみに、JAバンクの貯⾦残⾼103兆円は、国内の個⼈預貯⾦の10.3%に当たる。MUFGやみずほFG、SMFGといったメガバンク各行の個人預金量を上回っており、信用金庫全体の預金量に迫る規模を誇っている(2018年9⽉末時点)。

『JAファクトブック JAの信用事業』より

一方、この103兆円の貯金の存在は、JAバンクにとって重荷でもある。少子高齢化や過疎化、日銀の低金利政策、そして農業人口の減少などの影響を受け、銀行と同様厳しい状況に置かれているJAバンク。農家など組合員から預かった預貯金を自助努力・自主運用によってできる限り運用することが求められている。

こうした状況から、銀行などと同様、安定的な資産形成や、資産運用等の提案(ライフプランコンサルティング)に取り組もうとしている。投資信託や国債といった金融商品販売を強化することで預貯金の流入を減らし、手数料収入の増加を目指しているが、こうした事業はまだ緒に就いたばかりである。

中期戦略でも「貸出の強化」を打ち出す

こうなるとやはり、貸出に注力せざるを得ない。実際JAバンクは、公的融資を含む国内の農業関連融資約4.2兆円のうち5割以上のシェアを占める最⼤の貸し⼿だ。農業融資の新規実⾏額は2015年度(2535億円)から2017年度(3886億円)と増加基調となっており、取引者数も増加している。

主力業務である農業関連融資意外にも収益の柱が欲しいところだが、住宅ローンは銀行や信金などとの競争が激しく、利ざやが大きく確保できるわけでもない。マイカーローンやカードローン、リフォームローンなども規模感などに限界がある。このため、残高を示す公表資料はないものの、JAにおいても農家の地主の相続対策などを主とした不動産投資ローンが、規模や利ざやの厚さといった面からもより一層注力される可能性はあるのではないだろうか。

JAバンクが3年ごとに発表している中期戦略(2019~2021年度)においても、柱の1つに「貸出の強化」が打ち出されている。農業者の農業資金ニーズ、組合員や利用者の生活資金ニーズを的確に捉え、適切な資金対応を行うこと、そのために融資専任担当者の育成などに従来以上に取り組むとしている。

銀行と同様、JAバンクでも預貯金の運用に困っており、貸出の強化を打ち出すものの、上述したように有望先は乏しいという状況は同じだ。結果的にアパートローンへの傾斜が進む可能性もあるかもしれない。

JAアパートローンの利用条件

JAの一般的なアパートローンの場合、利用にあたっての条件は、個人のJA組合員であること、アパートを建てるための土地を所有していること、最終返済時の満年齢が71歳未満であること、前年度税込年収が150万円以上であることなど。こうした条件を満たせば、アパートの建設・増改築などに必要な資金に加え、保証機関への保証料、長期火災共済掛金、登記手数料、不動産取得税、消費税もあわせて借入れ対象にできる。

また融資金額は1億円以内。融資期間は、木造の場合は1年以上25年以内(ただし準耐火構造建物は30年以内)で、鉄骨造の場合は1年以上35年以内などとなっている。

ところで、JAバンクの組合員には「正組合員」と「准組合員」の2種類がある。JAの正組合員になるためには農業者である必要があり、耕作面積や農業従事日数などJAごとに定款でその具体的な基準を定めている。JAには、この正組合員のほか、准組合員制度がある。農業者以外でも、正組合員同様、JAごとに定めた一定の出資金を払えば、准組合員としてJAに加入できる。アパートローンなど不動産投資ローンを含め、JAの事業を正組合員と同じように利用できる。

なお、JAの正組合員は430万人であるのに対し、准組合員は620万人(2017年度)。2009年以降、准組合員が正組合員を上回る状況が続いている。本業を別にもつ週末農家や、副業として農業に従事する者の増加が要因として考えられる。またJAバンク側も、貸出を含めた組織の規模的拡大の一環として准組合員を受け入れてきたのだろう。

JAバンクの未来

JAバンクにとって、アパートローンは有力な収益業務の1つであるはずだ。農家による土地の有効活用や節税対策といった根強いニーズに加え、農家とその家族以外の准組合員にも同様の不動産投資に対するニーズがある。JAバンクは協同組合の地域金融機関としてエリアを限定して営業活動を行っており、地域で集めた資金を地域に還元することは、理に適った動きでもある。

人口減少に少子高齢化に伴う地域経済の衰退、日銀の低金利政策による利ざや低下の影響に加え、農業自体の従事者の高齢化や人口減少などに直面しており、JAバンクも他の金融機関同様、先行きの見通しは決して明るいわけではない。しかし、メガバンクや地方銀行と比べると、農業を基軸に地域密着により築きあげてきた地元政治家や自治体などを含めた緊密なネットワークという強みがある。

信用金庫と同様、経営理念とビジネスモデルが一致している点も大きい。株式会社である地方銀行なども地域密着や地域貢献をうたってはいるが、JAバンクは株式会社ではなく、会員相互の相互扶助と地域貢献を掲げる協同組合だ。理念とビジネスの方向性の一致する組織の方が強いのは当然だろう。

JAバンクは、103兆円を超える貯金の運用先の1つとして、アパートローンなど不動産投資ローンにより注力していくことになると筆者はみている。投資家にとっては利用機会が増えることになるかもしれない。

(高橋克英)