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居住用でも投資用でも、物件選びにあたって多くの人が「立地」と「価格」を重視することに変わりはない。居住用であれば都心部や郊外駅近などの物件は価格が高くなり、投資目的の場合は価格が大幅に安ければ不便なエリアでも魅力的になり得る。

一方、居住用と投資用で購入検討者の重視度合いが少し変わってくるのが、建物の「質」ではないだろうか。居住用であれば、自分が住む建物の質が高いかどうかは重要な判断基準になる。しかし投資目的で利回りや出口を考えた場合、「安いならば建物の質が多少低くなるのは仕方ない」「質を高めた分で値段が高くなっている物件は困る」といった捉え方になるケースもあるだろう。

長い目で見た時、建物の質は「資産価値」を大きく左右する要素になり、不動産投資家視点でも見極め方を知っておいて損はない。今回は住宅ジャーナリストの櫻井幸雄氏に、建物の「質」に関する考え方について聞いた。

初期のマンションは45年で建て替え

昭和の時代、住宅の寿命は短かった。

昭和30、40年代につくられた住宅の寿命は、建売住宅で20、30年、鉄筋コンクリートのマンションでも40、50年とされた。これまでに建て替えられたマンションが築何年目に取り壊されたのか。私がこれまで取材したマンション建て替え事例では、判で押したように築45年前後だった。「築40年から50年の寿命」を証明している格好だ。

これには驚きの声が多かった。「マンションは半永久的に住み続けられるものだと思っていた」「そんなに短命だったの?」―。さらには「ヨーロッパの集合住宅は数百年前のものがあるのに、あまりに短すぎる」という批判も出た。

しかし、これは的外れの意見。ヨーロッパで何百年もの寿命を保っている建物は、大理石やレンガを積んでつくった建物なので、それだけ長い耐久性があるのだ。地震が多い日本では使用しにくい工法といえる。

住宅に「超長寿命コンクリート」が使われることはない

これに対し、日本のマンションに用いられるコンクリートは、砂と小石をセメントペーストで固めたもの。年月の経過とともに砂と小石を固める力が弱まり、亀裂が生じやすくなって、表面剥離や崩壊などが起こりやすくなる。

現在は500年以上の寿命を持つコンクリートもつくられているが、そのような「超長寿命コンクリート」がマンションに使われることはない。費用が恐ろしく高くなるし、将来解体するときの費用も莫大になるからだ。そのため、何世紀にもわたって使い続けられる公共建造物などにしか採用されない。

住宅で、500年コンクリートが使われることはない。

しかし、昭和30、40年代に使われていた耐用年数40〜50年のコンクリートよりは寿命が延びている。では、どれくらいの寿命があるのか。その答えは、「物件によって差がある」と言わざるを得ないのが実情。少々困った状況なのである。

広まらなかった長寿マンション

短期間で壊しては作る(スクラップ&ビルド)の姿勢は資源の無駄遣いだし、環境への負荷も高いとして、日本では昭和後期から住宅の寿命を伸ばす動きが進んだ。

そのために行われたことは2つ。「寿命が長いコンクリートを使うこと」と、「住戸内の間取り変更や設備変更が簡単に行えるようにすること」だ。骨格は頑丈にして、内部は変更しやすくした。これで、長く使い続けることができる住宅を完成させたわけだ。

その成果として1985年、センチュリーハウジングシステム(CHS)の認定制度が生まれた。それは、センチュリー(世紀)の名前が示すとおり、100年の耐久性を目指すものだった。

最初に生まれたCHS認定マンションが、伊藤忠都市開発の「シーアイハイツ町田」と清水建設の「永福マンション」。しかし、今そのことを知っているのは一部の業界関係者のみ。一般には全くといっていいほど知られていない。

というのも、CHSの認定を受けたマンションはその後、10物件程度までしか増えなかったからだ。数があまりに少ないので、忘れ去られてしまったのである。

つくっても「アピールできない」

数が増えなかった理由は、CHSの認定基準が厳しかったこと。床下に設ける空間が広すぎるなど、求められる基準レベルが高く、手間と費用がかかりすぎた。加えて、「100年の耐久性」を大きくアピールできなかったことも大きい。手間とお金をかけてよいものをつくっても、そのよさを具体的に宣伝できなかったので、つくり手がいなくなったのだ。

「100年の耐久性」を大きくアピールできなかった理由は、当時、センチュリーハウジングシステムを推進した建設省(現在の国土交通省)の関係者が「100年持つかどうかは、100年経たないと分からない」と発言したことがきっかけだったとされる。

つまり、「100年持ちますよ」とは言えなくなった。

一方で、手間とお金がかかるので、分譲価格は割高になった。購入者にとっては「価格が高いのに、理由はよく分からない」という物件になったので、当然、売れ行きは鈍る。それでは、不動産会社が及び腰になるのは当然だろう。

「長寿命住宅をつくっても、そのよさをアピールできないこと」。これはその後も、長寿命住宅のネックとなっている。