病気や障がいで働けなくなった人、ひとり親家庭、身寄りのない高齢者など、自力で家を借りることができない世帯が増えている。

こうした「住宅弱者」に手を差し伸べ、寄り添う不動産会社がある。神奈川県座間市に小さな店舗を構える「プライム」だ。売買も扱うが、メインは賃貸仲介と管理。「困っている人を絶対に見捨てない」という信条のもと、主に生活困窮者のための住まい探しに取り組んでいる。

代表の石塚惠(めぐみ)さんは十数年前に不動産業界に身を投じ、2012年にこの会社を立ち上げた。周りから「そんな儲からない商売なんて」と否定されながらも、当初から現在のスタイルを貫いている。決して楽ではない「いばらの道」を自ら歩み始めたのはなぜなのか。その活動を取材させてもらった。

元ホームレス男性に住宅を借り上げ

石塚さんの会社に寄せられる住まいの相談は、毎月約100件にのぼる。そのうちの半数ほどが単身の高齢者だ。

かつて造船関係の現場で働いていたというAさん(86歳)もその1人だった。高齢を理由に仕事が回されなくなり、働き口を失った。その後も新たな仕事を見つけることができず、路上生活を余儀なくされる。しばらくして、県内の自立支援団体が運営する生活困窮者向けの寮に入所。路上生活を脱し、生活保護を受給できるようになったが、寮の環境が劣悪で耐えられず、飛び出してしまったという。

路上生活をしていたというAさん(左)は、寮での生活を「貧困商売のえじきにされているようで嫌だった」と振り返る。この日は電話に出ないAさんを心配した石塚さんが様子を見に部屋を訪れた

寮を出た後、住まい探しを行政に頼ったAさん。そこで石塚さんの会社を紹介された。今から6年ほど前のことだ。石塚さんはどうにか物件を見つけようと手を尽くしたが、80歳と高齢なうえ、身寄りもなく保証会社の審査にも通らない。孤独死など「万が一」を考えるオーナーにとってはリスクが大きく、受け入れてくれる物件はなかなか見つからなかった。

結局、石塚さんが理事を務めるNPO法人「ワンエイド」の名義で部屋を借り上げ、Aさんに転貸することに。見守りなどの支援活動を行うことを条件に、ようやくオーナーの承諾を得て、現在の部屋に入居できた。

Aさんが住む築40年の木造アパート。ワンルームに最低限の家具・家電が並ぶ。月額4万円の家賃は代理納付(行政から家主に直接家賃が振り込まれる制度)している

「寮での生活と比べたら、天と地の差ですよ。本当にありがたい」と笑顔を見せるAさん。「元気そうでよかった。また来るね」と声をかけ、石塚さんは部屋を後にした。

孤独死や滞納などのリスクが高いとされる単身の高齢者世帯は、保証会社の審査が通りづらく、部屋を貸すのを渋るオーナーも少なくない。Aさんのように借り上げの形で部屋を用意する方法にも限界がある。とにかく部屋が足りない──。これが石塚さんの目下の悩みだ。

門前払いされ、泣いている人を見て

石塚さんが不動産の世界に足を踏み入れたのは、今から約20年前のこと。

高校卒業後、手に職を付けたいと美容系の会社に就職しエステティシャンとして働いていたが、ほどなくして会社が倒産。一度は実家に戻ったが、知り合いの不動産会社社長から誘われ、賃貸の営業として働くようになった。そこで見た光景が、後の石塚さんの人生を大きく変えていく。

「(勤めていた不動産会社には)家を探していろいろなお客さんが来ました。障がいのある方、ひとり親家庭の方、その他さまざまな理由で経済的に苦しんでいる方。でもそういう人たちは、『お金にならない』『手間ばかりかかる』という理由で門前払いされてしまうんです。これまで何社にも断られたのか、泣きながら帰っていく人もいました。でも一社員にすぎない私にはどうしようもなくて。それが辛かった」

高齢者の見守り活動や電話対応に追われる日々。昼食は「(時間がなくて)ほとんど食べない」という

その後、別の不動産会社にも勤めたが、生活困窮者に対する扱いはどの会社でも変わらなかった。やるせなさを感じながらも、生活のために仕事を続けていたが、不動産の仕事を始めて十数年が経ったころ、転機が訪れる。

当時、会社勤めと親の介護を同時に行っていた石塚さん。介護に不便を感じることが増え、高校の同級生だった松本篝(かがり)さんと、高齢者の家事援助を行うNPO法人「ワンエイド」を立ち上げた。

石塚さんが代表を勤める不動産会社「プライム」と、同級生の松本さんが理事長を務めるNPO法人の「ワンエイド」。連携が取りやすいようにすぐ隣に事務所を構えている。石塚さんはNPO法人の理事も兼任

NPO法人の活動を続けていく中で、高齢者をサポートするためには「住まい」の問題に向き合わなければならないと改めて実感する。

「古くなった家から立ち退きを求められて、新しい家が借りられず困っている高齢者がたくさんいました。足腰が弱くなって階段が辛くなり、アパートの2階から1階に引っ越したいという要望もあります。でも、そうした人たちが借りられる部屋は簡単には見つかりません」

せっかく不動産業界にいても、一従業員のままでは困っている人を助けられない。石塚さんは独立を決意し、宅建免許を取得、2012年に「プライム」を開業した。「ワンエイド」立ち上げの翌年のことだ。

石塚さんの高校時代の同級生、松本篝さん(右)

開業から数年、地道な広報活動を続けたことで徐々に認知が広がっていく。前出のAさんのような生活困窮者の相談事が、行政を通じてNPO法人ワンエイドに持ち込まれるようになっていった。

日々の家事など、生活全般のサポートをワンエイドが、住まいの問題をプライムが解決するという体制が形になった。ワンエイドが行う高齢者の見守り活動は、物件オーナーの不安を払拭することにもつながる。

さらにワンエイドでは4年ほど前から「フードバンク」にも取り組んでいる。近隣の企業や個人から、売れ残り品や規格外品などの食糧を募り、生活困窮者向けに無償で配布する活動だ。こうして、生活困窮者に向け、「住と食」を一気通貫にサポートできるようになっていった。