女性専用シェアハウス「かぼちゃの馬車」など、投資用不動産をめぐる1兆円規模の不正融資が明らかになったスルガ銀行。シェアハウス向け融資の残高は9月末時点で1992億円に上るが、ローン延滞率が40%を超えるなど、回収に向けた見通しは不透明だ。こうした状況を受け、一定の条件を満たしたオーナーについて元本の一部カットに応じる姿勢を見せるなど、早期解決に向けた動きを強めている。

関係者によると、スルガ銀行は来年以降、一部のオーナーについて物件の譲渡と引き換えに債務を解消する「代物弁済」に近い対応をするという情報もある。この措置はシェアハウスのオーナーらで構成する被害弁護団が当初から要求を続けていた内容で、事実上の借金棒引きが認められれば異例の対応になる。

スルガ銀行が融資したシェアハウスをめぐっては、所有者が自己破産に追い込まれたケースもあり、借金を苦に自殺したオーナーも存在する。代物弁済的な対応が実現した場合、被害弁護団に加入していないオーナーも同様の対応が認められるかどうかははっきりせず、不公平感を訴える声も。そして、シェアハウスと同じように不正融資が行われていたとみられる一棟物件のオーナーは救済の対象となるのか、という問題もある。

スルガ銀行の経営再建に向けた動き、そして多額の借金を背負ったオーナーたちの現況を、2回にわたって紹介する。

元本一部カットを「検討する」

スルガ銀行の不正融資が顕在化したのは、昨年4月に経営破綻したスマートデイズ(東京都)の女性専用シェアハウス「かぼちゃの馬車」をめぐる問題が契機。同社は30年賃料を保証するサブリース契約で物件数を急拡大していたが、大半の融資を担当していたスルガ銀行の方針転換による販売不振で資金繰りが悪化し、サブリース賃料の支払いは昨年1月に完全停止した。

融資の過程で、スルガ銀行の行員がオーナーの資産状況改ざんや二重売買契約などの不正に関与していたことが発覚。全件調査の結果、シェアハウス以外も含めた不正融資は疑いのある案件も含め約1兆700億円に上ることが明らかになった。

スルガ銀行は今年5月、一定の条件を満たしたシェアハウス案件について、購入価格と積算価格の差額を上限に元本の一部カットを「検討する」と発表。(1)現在の物件収支が赤字である(2)ローン契約時にスルガ銀行側の不正行為が存在した(3)不正行為と投資判断の間に因果関係が認められる―などの条件を設け、11月末まで申し込みを受け付けていた。

来年1月に入札か

この元本一部カットとは別に、土地と建物を手放すことを条件に借金の返済を免除する「代物弁済」に近い対応も視野に入れ始めたという情報がある。

関係者によると、今年夏以降にシェアハウスのオーナー250人ほどが加入している被害弁護団とスルガ銀行の間で調停が行われ、弁護団が一貫して求めていた「物件を手放す代わりに借金を帳消しにする」という内容で合意、オーナー側は物件を手放すという内容の書面に応じたとみられる。

スルガ銀行はサービサーや投資会社など複数社に対し、来年1月に被害弁護団のオーナーが所有するシェアハウス約350件の債権450億円の入札を行うと発表した模様。落札業者がオーナーから物件を引き取って登記を行うと予想される。

もともとの販売価格が周辺相場と比較して著しく高いため、スルガ銀行は大きな損失を被る可能性が高い。しかし、シェアハウス融資の焦げ付きに備えて多額の貸倒引当金を積んでいることから、経営への影響は限定的と考えられる。

税金問題の行方

この代物弁済的な方法で借金を返済した場合、オーナーにとっては税務上の扱いがどうなるかという大きな問題がある。

債務者が不動産を譲渡することで所得が発生するため、本来であれば譲渡所得税が課されることになる。しかし、賃貸経営を専門にしている渡邊浩滋総合事務所の税理士大野晃男氏は「今回のケースではシェアハウスの時価が債務額より小さいと考えられるため、時価-(土地の取得価額+建物の未償却残高)がマイナスとなり、譲渡所得税は発生しない可能性が高い」と指摘する。

不動産を譲渡した後に残った債務が解消される場合は、時価と残債の差額が「債務免除益」として所得税の課税対象(不動産所得)となる。しかし、「債務免除益」ではなく「スルガ銀行が負うべき解決金(損害賠償金)」という形の扱いであれば非課税となる可能性がある。大野氏は「損害賠償金という扱いにするためには、不正行為と投資判断の因果関係など、スルガ銀行が元本一部カットの基準として示していた条件を満たす必要があるのではないか」と話した。

否定はせず

スルガ銀行が代物弁済的な対応を検討しているという情報は事実なのか。

楽待新聞編集部がスルガ銀行に確認したところ、「元本一部カットについては個々の状況に応じて対応していく方針だが、代物弁済は正式に発表したわけではない。実際に行う場合は公表する」という回答で、否定はしなかった。有国三知男社長は以前の記者会見で「元本減免の可能性はあるが、代物弁済に応じることはできない」と明確に否定していた経緯があり、状況の変化がうかがえた。

被害弁護団は「現在も交渉中のため詳細は話せないが、物件を手放す代わりに債務を解消するという対応は弁護団が当初から要求していた内容で、認められたのであれば大枠として望ましい対応だと考えている」とした。

「毎月67万」の返済のみ

この件に関して、被害弁護団に加入していない複数のオーナーに話を聞いたが、代物弁済に関する連絡があったオーナーはいなかった。仮に被害弁護団に加入するオーナーの代物弁済が実現した場合、現状は「蚊帳の外」となっている状況で、オーナーの間では不公平感を訴える声もある。

和歌山県の公務員Aさん(40代)は2017年末、書籍も出版している不動産投資家から紹介を受け、1億3000万円で都内のかぼちゃの馬車を購入。スルガ銀行から金利4%・35年でフルローンを引いた。サブリースの保証賃料は81万円で、返済や経費を差し引いた手残りは月10万円ほどという説明だった。

しかし、81万円が振り込まれたのは稼働後の1回のみだった。

同年10月にスマートデイズからサブリース賃料の減額通知が届き、翌年1月にサブリース賃料の支払いが完全停止。毎月67万円の返済のみがのしかかり、Aさんは11月から翌年3月までの5カ月間、スルガ銀行から金利7%で借り入れていたフリーローンの800万円を切り崩して返済を続けていた。

「数十万しかなかった預金残高が3000万ぐらいに水増しされていたので、『お金がなくて返済できない』とも言えなかったんです」

当時のAさんの入出金履歴。毎月末にフリーローンから67万円を入金して返済を続けていた

「このままでは家族が路頭に迷ってしまうと思い、東京に行って『被害者救援』をうたう団体に駆け込んだら、200万円のコンサルタント契約を結ぶよう言われて断念しました。その後、スマートデイズから管理会社を代えてサブリースを解除したんですが、当初の入居は14室中2室のみ。入居がついても家賃2カ月分の広告料の方が高くて家賃収入はしばらくゼロでした。その後、なんとか満室までこぎつけたんですが、その会社が家賃を持ち逃げして消えてしまいました」

金利は交渉によって1.0%まで下がり、現在は月20万円ほどの手残りがある状態。「粘り強く金利の見直しなどを訴えてきて、ギリギリなんとか今日まで持ちこたえられた、という感じです」と振り返る。

「今月に入ってスルガ銀行に代物弁済について聞いたら、『そんな話は出ていない』と言われました。元本カットを申し込んでいるので、実現できたらそのまま持ち続けて運営していこうかと思っています」と語る。

対応の不公平さを感じている部分もある。

「現在の管理会社に聞いたんですが、シェアハウス被害者の中には2棟で100万円ぐらいの賃料収入があるのに、1年ぐらい返済をストップして1000万円ぐらい貯まっている人もいるということでした。そういう人が仮に代物弁済できたとしたら、まるまる1000万得したということ。さすがにズルいなと感じてしまいます。自殺した人だっているのに…」

スルガ銀行は元本カットの対象に関して「お客様ごとに立地や入居率が異なるので、きめ細かく状況をヒアリングした上で対応について協議する。基本的に、問題なく収支が回っていて返済が可能な方は含まれないと考えている」と説明。仮に代物弁済が認められた場合でも、同様の対応になる可能性はある。

「代物弁済に移行したい」

シェアハウス問題のADR(裁判外紛争解決手続)による解決を目指し、「シェアハウス等ADR総合対策室」を運営するNPO法人日本住宅検査協会理事長の大谷昭二氏は「これまでオーナーの方たちと再建計画を練って運営による収支改善に取り組んできたが、『代物弁済に応じてもらえるならそちらの交渉に移行したい』というオーナーも増えてきた」と明かす。

「スルガ銀行が代物弁済的な対応をするのが事実なら、異例の対応だと思います。本来、投資というのは自己責任を問われないといけない部分があるわけですが、銀行主導による不正の規模の大きさを、金融庁とスルガ銀行自身が厳しく判断した結果ではないでしょうか。ただ、最近はシェアハウスより一棟物件でスルガ銀行の高金利融資に苦しむオーナーからの相談が増えています」