詐欺

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不動産の所有者を狙った詐欺まがいの話は、「地面師」の事件のように大きく報道されるケースもある。しかし、「報道されないような同種の事案が、身近なところで起きていることもある」と、不動産ジャーナリストの小林紘士氏は警鐘を鳴らす。今回は、小林氏の身近で発生したという2つの事案について解説してもらった。

知人から紹介された事業家に…

この1年ほどの間に、私の身近で不動産の所有者を狙った詐欺まがいの事案が2件あった。所有者の方に注意を促す意味で、その内容について紹介したいと思う。

都内の一等地に相続した土地と家屋を所有するAさん(60代女性)は、知人の紹介で事業家のB氏と知り合った。B氏はこれまでに2、3つの事業を手掛けて成功しているという触れ込み。知人は不動産や再生可能エネルギー関係のブローカーをしており、その取引上でB氏と接点を持ったという。

AさんはB氏と個人的に会食する仲になり、あるときB氏から新規事業立ち上げの話を持ち掛けられた。

B氏の説明では、バイオマス発電の燃料となる素材を海外から調達し、販路が確立されれば、電力の固定買い取り制度が継続する20年にわたって毎月安定した収入が得られる事業だという。

しかも、すでに海外での調達先と日本の発電事業者の双方と話は進んでおり、あとは契約と契約金の支払いの段階。発電が開始されて燃料の供給が始まれば、その事業ごと会社を買い取ってもらえることになっているとのこと。B氏は「売却すれば数億というまとまったお金になる」とAさんに説明していたという。

一度信じてしまうと…

夢のある新規事業に興味を持ったAさんに対し、B氏は資金の提供を依頼する。Aさんが「相続した都内一等地の不動産は所有しているが、現金はない」と伝えたところ、B氏から次のような話をされた。

「その土地建物を担保にお金を借りて、資金を作ってもらえないか」
「新規事業は1年ほどもあれば目途が立つ。そこで資金は倍程度にして返せる」
「それで借りた資金は返済できるうえ、手元の現金も増える」

ここまででも十分怪しいが、見栄えのよい事業計画資料と、各事業者との覚書のような資料を見せられて、Aさんは信じてしまったようだ。一度信じると疑えない心理になってしまう。知人の紹介ということで、なおさらその傾向が強かったのだろう。

結局、AさんはB氏の提案に乗った。相続した土地建物を担保に、あるノンバンクから返済期限1年、金利15%という条件で1億5000万円もの資金を借りることになる。

「事業は順調」

金融機関は当然、審査の過程で資金の使途や担保価値について調査する。しかし、金融機関というのは返済の目途が立つ資金使途か、貸した資金以上に担保価値があれば融資を実行してしまうケースがある。

この事例は、まさに「担保価値重視」となるケースだった。海外の事業者が絡み、実際に1年程度で会社の売却まで実現できるかという点でやや返済に疑問符がつくものの、不動産の担保価値は3億以上と貸し出し資金より高かったことから、Aさんは億単位の資金を借りることができた。金融機関からしてみれば、最悪、担保の土地建物を競売するなどして資金が回収できれば問題ないと考えたのである。

Aさんは金融機関から調達した資金をB氏へ提供した。あくまでも返済は資金の借り手であるAさんの義務となり、AさんからB氏への資金提供は事業への出資(投資)である。金消契約は「毎月金利のみを支払い、元金は期日一括返済」という内容であったため、B氏からは利息相当の約190万円がAさんに振り込まれ、Aさんは受け取った金額をそのまま金融機関へ返済する形を続けていた。

この間、AさんはB氏に対して特に疑いも持たず、また、B氏はAさんに対して「事業は順調」とだけ説明していた。

連絡が途絶えて

時が経ち、返済期限である1年が迫ったある日。AさんはB氏に「元金の返済が迫っているので、そろそろ資金を返してほしい」と申し出た。しかし、B氏は「まだ事業が軌道に乗っておらず、会社の売却に目途が立っていないので、今はまだ資金を返せない」という。

この後、何度もAさんはB氏に資金の返還を申し出るが、B氏は「まだ返せない」としか言わず、そのうちAさんはB氏と連絡が取れなくなった。

連絡が取れなくなるのと同時に、B氏からの利息相当の返済もなくなった。そうこうしているうちに金融機関への返済期限を迎え、Aさんは金融機関に「B氏からの返済がなければ資金は返せない」と事情を説明した。ところが、金融機関にしてみれば、あくまで資金を貸したのはAさんであり、担保の提供者もAさんであることから、返済の義務はAさんが負っているのである。

AさんはB氏との連絡がつかないまま金融機関への返済もできず、数カ月後、土地建物は金融機関に差し押さえられた。その後、競売の申し立てとなり、大切な財産であった都心一等地の土地建物は他人の手に渡ってしまったのである。

なぜ騙されるのか

現在、この問題は訴訟に発展しているが、B氏への追及が難しい面があるのか、少なくとも刑事では受理されていないようだ。

この例自体は、ところどころに詐欺の手口によく見られる点があり、どうして気づかないのか不思議に思ってしまうかもしれない。しかし注目してほしいのは、土地や建物などの不動産を売却した資金を騙し取る、あるいは騙して売却させるという手口ではないという点だ。

あくまでも「不動産を担保に借りたお金を貸してほしい」という手口。手元に現金がなく、不動産も売りたくないという相手でも、この手口なら現金を騙し取ることができるのだ。まして、当初は資金提供された人(例でいうB氏)が利息にあたるお金を支払っているので、金融機関から借りたお金が返せなくなり、自分の土地や建物が取られてしまうとは思わなかったのであろう。

手元に現金もなく、不動産を売るつもりもないから騙される心配はない、という人が騙された事例なのが恐ろしいところだ。

筆者はこれと似た例をもう1件、この1年の間に垣間見た。