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自身も収益物件を所有する不動産投資家であり、大家さん専門の保険コーディネーターとして活動する斎藤慎治氏に、保険の基礎から実践ノウハウまでを語ってもらう本連載。

今回は、所有物件が被害を受けた際、保険金を請求するために必要な手順を解説。また、災害発生時には特に注意したい悪質な業者についても取り上げてもらった。

災害はもはや「万が一」ではない

近年、災害発生の報道をよく耳にするようになりました。災害は「万が一」だったはずが、これだけ毎年のように被害が報じられていればもう他人事ではありません。不動産賃貸業を営んでいる方は、そうでない方に比べてこういった被害に遭いやすいと言えます。自宅以外にも物件を所有していればその可能性が高くなるのは当然ですが、所有する賃貸物件は必ずしも自宅の至近距離にあるわけではない、ということも関係しているのです。

災害への対策として、雨戸を閉める、窓ガラスなどを補強する、土嚢(どのう)を積むなどの対策は重要になりますが、賃貸物件が遠く離れた地域にある場合、資材や道具を携えて緊急作業を行うにも限界があります。入居者に依頼するのも難しいでしょう。

また、被害に遭ってもその事実を把握するまでにある程度時間がかかる点も問題です。洪水被害、あるいは強風で屋根が剥がされるといった大きな被害であれば入居者が知らせてくれるかもしれませんが、入居者の目に触れない程度の被害では誰も気付きようがありません。

管理会社に管理委託している場合でも、定期的な巡回以外で物件の被害確認はあまり行われませんし、定期巡回でも確認する箇所は限られているため、見落とされてしまうかもしれません。こうなると、被害に遭っても早期に発見されず、被害が拡大してしまうのです。大型台風の通過後などは自主的に賃貸物件の見回りをする必要があるでしょう。

被害に遭ったら、火災保険金はどう請求する?

さて、台風などの被害に遭ってしまった場合、頼りになるのが火災保険です。実際にはどのように保険金の請求をすればよいのか、いざという時に慌てなくて済むよう、流れを把握しておきましょう。

Step1.まずは写真撮影

被害箇所を発見したら、角度を変えてできる限り多くの写真を撮影しましょう。損傷部分の写真だけでなく、建物のどの位置にダメージを受けたのかが分かるアングルのものもあれば、被害について説明がしやすくなります。きちんと撮影された写真があれば請求が通りやすく、処理も早くなるでしょう。

Step2.被害の拡大を防ぐ措置を取る

屋根やサッシなどに被害がある場合には、その後の降雨などによって建物内部にまで被害が及ぶ可能性があります。ブルーシートで覆うなどの応急措置をいち早く行うようにしてください。ただし屋根の上などの高所作業は危険を伴うので、極力業者に依頼しましょう(火災保険ではこのような付随する費用についても補償しています)。

Step3.保険会社または代理店に事故報告を行う

契約している損害保険会社、または代理店に被害を受けたことを速やかに通知します。損害保険業界では、被害発生日からおおむね30日以内に通知するよう呼び掛けています。これは損傷を放置して被害が拡大することのないようにするためです。電話でもメールでも、伝達の手段は問いません。

なお、仮に被害発生から30日が経過してしまっても、保険金の請求ができなくなるわけではありません。ただし、明らかに時間の経過に伴う劣化が認められた場合、保険金減額の対象となることがあります。

Step4.修繕業者を選定する

信頼のおける建築業者に見積もりの依頼をします。台風被害の場合、同一地域に被害が集中しますので、周辺の業者に依頼が殺到します。良い業者を見つけるのが困難な場合があるので早めの対応が望ましいでしょう。

Step5.詳細な被害レポート、修繕見積書の作成を依頼する

広域大規模災害の場合、膨大な被害物件のすべてを調査会社、損害鑑定人が現場立ち合いすることは事実上不可能です。詳細な被害レポート、明確な修繕見積書があれば、現地調査を省略して保険金を支払うこともしています。早期の保険金給付のためには、とても大切なポイントです。

Step6.保険金請求書に必要事項を記入し、速やかに郵送する

台風被害の場合、保険会社の台風専門の部署が集中して事故の処理を行うため、事故報告をしておけば、保険金給付額が決定する前でも「保険金請求書」が郵送されてきます。氏名、住所、保険金受取口座情報などを正確に記入し、速やかに返送しましょう。被災直後の慌ただしい時期のため、郵送物の到着に気付かないまま紛失するようなことにならないよう気を付けてください。

なお、写真や見積書などの資料は、これには同封しないことをお奨めします。代理店を通じてメールで送る方が、迅速かつ正確に調査会社、損害鑑定人のもとへ届くからです。

Step7.保険金給付額が決定したら、即修理業者へ工事の発注をする

修理業者には同時に多くの受注が入ることが予想されます。保険金給付額が決定した時点で早めに工事の発注をしましょう。保険会社、代理店から工事の発注をすることはできません。必ず施主である家主自身が修理業者と請負契約を結ぶ必要があること、また保険金の受取りは、原則被保険者名義の口座への振込みに限られますので、修理業者への支払いは家主が一括して行うことを心得ておきましょう。修理業者との請負契約の際、請負金額の一部または全部を先払いする必要があります。

悪質な火災保険コンサルタント、修理業者にご用心

台風被害が報道されると、ちまたではネットを中心に「火災保険を有効活用して屋根をリフォームしませんか?」「火災保険金を申請する絶好のチャンス到来!」などといった宣伝文句をよく目にします。たとえば、火災保険コンサルタントなどと称してFacebookなどのSNS、またはダイレクトメールなどによって火災保険金の申請代行サービスの勧誘をしたり、「火災保険金獲得実践セミナー」などへ誘導したりするものなどです。

中には「一般社団法人○○協会」などといういかにも公共性の高そうな名称の業者もあります。一見便利で有効なサービスのように思われる方も多いかもしれませんが、こうした業者は、成功報酬を得るために保険金を水増し請求するケースもあるため注意が必要です。

保険会社から家主に支払われる火災保険金の30~50%もの法外な成功報酬を要求する業者も存在します。当然、業者はこの成功報酬が上乗せされた高額な修繕見積もりを、保険会社に提示していることになります。

仮にその見積り通りに火災保険金が支払われた場合、成功報酬を差し引いた残額で被害箇所の修繕を行うことになるので、家主の自己負担がないとしたらこれは明らかに二重見積もりであり、結果的に保険会社に虚偽の申請をしたことになります。それがたとえわずかな金額であっても、保険会社を欺いたことに変わりはありません。そのほか、単なる老朽化によって発生しているものを災害の被害としてでっち上げたり、みずから壊して被害をねつ造する行為も報告されています。

問われる不動産賃貸業としてのモラル

火災保険という「相互扶助」の精神を基本とする制度が、自然災害の増加などによって危機的な状況にあります。実際に被害に遭えば、火災保険金を受取る権利があるのは当然です。

しかし老朽化によって傷んだ屋根の修理費用を「火災保険スキーム」などと称して、火災保険金を「取りに行く行為」は、たとえ少額であっても犯罪であり、許されるべき行為ではありません。

仮にこのような業者が警察に摘発・検挙されたとしたら、過去に不正な保険金を受取った者の一人として捜査の手が及ぶかもしれません。

不動産賃貸業は、「住まいを提供する」という社会的貢献度の高い事業者です。社会的な地位も決して低くはありません。ですからモラルを守り、このような怪しい誘いには決して乗らないことです。被災して家を失ったなど、本当に困っている人々に保険金を届けることの妨げになっているということ、また結果として保険料の上昇を招いてしまうことを理解し、考えを改めてほしいものです。

(斎藤慎治)