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外国人による日本の土地買収といえば、かつては中国人がその代表格だった。ところが、外国人不動産アドバイザーの佐野真広氏によると、最近は在留ベトナム人が、居住用として築古中古物件を購入するケースが増加しているのだという。彼らが日本の物件を購入する背景は。そして、どのようなエリアで、どのような物件を狙っているのか。佐野氏にリポートしてもらった。

ベトナム人のファミリー層が築古物件を購入

ここ数年、日本における空き家の割合が増え続けている。総務省統計局が公表した平成30年の住宅・土地統計調査によると、日本の総住宅数6240万7000戸に対し、空き家は848万9000戸。総住宅数に占める空き家の割合(空き家率)は実に13.6%となり過去最高を記録した。

少子高齢化の波が押し寄せる日本。今後も全国で「空き家問題」は深刻化が予想されるが、首都圏に限って言えばその問題が少しずつ解消されるかもしれない。日本に在留する外国人、特にベトナム人がここ数年、東京近郊の空き家や中古住宅を「物色」する動きが加速しているのだ。

東京のベッドタウンである千葉県船橋市で長年不動産売買に携わるM氏に話を聞くと「ベトナム人の問い合わせは増えつつある」と現状をこう明かす。

「外国人の不動産売買と言えば、10年前は圧倒的に中国人の富裕層が中心でした。しかし昨年頃から比較的若いベトナム人のファミリー層の割合が増え始めました。我々の担当するエリア(船橋市周辺)ですと、日本人が敬遠するような駅から徒歩15分以上の築古マンションや築古戸建てが人気です」

M氏によると、多い時だと月に10件程度の問い合わせをベトナム人から受けることもあるのだという。

「実際に成約になるのはそのうち1、2件あるかないかですが、ベトナム人のお客さんは仲間意識が強いのか、一度購入してくれると友人や知人を紹介してくれることが多いので助かります。売買に関わり始めた当初は『本当に買ってくれるのか』と疑心暗鬼でしたが、今では大切な顧客ですよ」

「1000万円以内」で物件探し

ベトナム人と言えば、かつては技能実習生や学生ビザなどで来日し、「過酷な労働環境で働く重労働者」といったイメージがあった。日本語学校に通いながらコンビニ、深夜工場で働く苦学生などだ。だが、昨今は母国の経済発展や日本の人手不足も追い風となり、生活水準が向上。日本語を流暢に話す在留ベトナム人の中には大学を卒業後、日本の大手企業に就職する人も少なくない。前出のM氏によると、そうした比較的裕福な世代が日本で結婚したり、家族を呼び寄せたりする節目に合わせて中古物件を購入しているというのだ。

日本では外国人による土地や一戸建て、マンションの購入に今のところ制限はない。企業から就労ビザを発給してもらえば日本での生活は安定する。こうした背景もベトナム人の物件購入意欲を後押ししているのだろう。

もっとも、彼らは中国人富裕層のように新築や投資対象となるような高額物件を買えるほど資金に余裕はない。狙う物件は現金一括で購入できる東京郊外にある中古物件。中でも「総額1000万円以内」の物件に人気が集まるのだと言う。昨年末、埼玉県越谷市内の木造築40年の中古戸建て(3LDK)を約800万円で購入したホアン氏(30代・ベトナム人男性)は自らの経験を基にこう話す。

「日本の企業に勤めている人や永住権保有者でなければ、ベトナム人は基本的に日本の銀行で住宅ローンが組めません。このため、日本で自宅購入を検討するベトナム人は手持ちの現金で買える物件を探します。その結果、1000万円程度が予算の上限になるようです」

この予算内で東京都心に近い物件を探そうとすると、築古の分譲マンションや大型団地の一室、築30年以上で駅から距離のある中古戸建てなどに絞られる。しかし、ベトナム人はそういったデメリットをあまり気にしないのだという。「別に外観が古くても、室内がある程度綺麗になればいいのです」(ホアン氏)

細かいことは気にしない

元来、ベトナム人は周囲への「体裁」をあまり気にしない。むしろ質実剛健な生活を好むため、できる限り低価格で中古住宅を購入し、その後、修繕や内装整備を重ねていくのが一般的だ。リフォームも同胞が経営する業者に依頼するため、格安で築古住宅の再利用を可能にするのだという。

「いくつかの業者にリフォームの見積りをお願いしましたが、ベトナム人が経営する業者は日本の内装業者に比べ相場の半額程度で引き受けてくれます。値段が安いのは外国人労働者を使っているからだと聞きました」(ホアン氏)

そういった業者にリフォームを頼めば、精巧な技術を誇る日本人職人によるものに比べて完成度は劣る。クロスの張替えや耐熱工事などには少なからず粗さが目立つが、購入物件はあくまで格安物件。リスク覚悟でのマイホーム購入のため、細かい点には気にかけない。いかに安く自己所有の住居を確保できるか。ベトナム人はこの点を重要視する。

「だからなのか、私の周りでも『賃貸で部屋を借り続けるぐらいなら両親、知人に借金をしてでも土地や資産が残る古い物件を買った方がいい』と中古住宅の購入を検討する人が多い。特に子供がいる家族はこの傾向が強いと思う。子供たちを日本で育てていくことを考えると、教育的にも金銭的にもなるべく1カ所に住み続け、引っ越しをしない方がいい。子供たちも転校を繰り返すことは望みませんからね。賃貸より購入を選択するのはこうしたベトナム人の考え方も大きいと思います」(ホアン氏)

とはいえ、彼らも「東京近郊」であればどこでもいいわけではない。ベトナム人が好む人気エリアや鉄道沿線がある。