アルヒ本社

アルヒ本社が入るビル=30日午前、東京都港区

固定金利住宅ローン「フラット35」販売首位のアルヒ(ARUHI、東京都)が手掛ける投資用マンションの融資で、源泉徴収票など審査資料の改ざんが行われていた疑いが浮上した。

審査資料を改ざんされたオーナー側の代理人を務める加藤博太郎弁護士によると、オーナーの多くは年収300万円前後の若年層で、販売会社が年収を水増しすることでローンを通りやすくしていたとみられる。オーナーの一部はサブリース賃料の減額や契約解除によって毎月数万円の持ち出しが発生しており、これまでに加藤弁護士が相談を受けた20人弱のうち、返済が立ち行かなくなった数人はすでに自己破産の申し立てを決めたという。

実勢価格の2倍にも上る価格で物件を購入しているオーナーも多く、サブリースの保証賃料が実賃料を大きく上回るといった問題もあり、加藤弁護士は「かぼちゃの馬車に似た詐欺的なスキームで被害者はかなり多く、自己破産に追い込まれるケースも増えていくと考えられる」と指摘。一部の販売会社は「アルヒから改ざんの指示を受けた」とも証言しており、問題の全容解明が待たれる。

「絶対損はさせない」

「知人に紹介された男性から投資用マンションの話を聞きました。最初は貯金より全然金額が大きい話なので断っていたんですが、『絶対損はさせない』と押し切られて…」

大阪府の会社員Aさん(20代男性)は2017年9月、紹介で出会った男性から投資用マンションを勧められた。神奈川県内の中古1Kマンションで、価格は約1600万円。アルヒ経由で新生銀行グループの信販会社アプラスから融資を受ける内容で、投資用マンションローンが約1200万円で金利2.65%25年、いわゆる諸費用ローンが400万円で金利5.8%15年という条件だった。

空室でも賃料が保証されるサブリース契約で、保証賃料が6万8200円、月の返済と管理費が10万円弱という計画。当初から毎月3万円近い持ち出しが発生する試算だが、「5年後ぐらいには同じぐらいの金額で売却でき、税金の還付などがあるのでトータル200万円ぐらいのプラスになる、というような説明でした」

しばらくは持ち出しを続けながら所有していたが、購入から2年弱が経過した昨年5月、サブリース会社から1通の手紙が届いた。

<現状家賃を継続するのは困難なため、近隣相場などを踏まえて賃料を3万7800円に減額させていただきます>

サブリース賃料の減額を通知する手紙

「『どういうことですか?』と男性に連絡を取ると、『サブリース会社が経営悪化で倒産しそうで、今その会社と裁判をしている』と説明されました」。さらにその2カ月後、一方的に「サブリース契約を解除します」という通知が届いたという。

その後、不審に思ったAさんが物件について調べると、このマンションの実際の取引価格は700万円程度にすぎないことが分かった。つまり、実勢価格の倍以上の値段で売りつけられたということになる。

「加藤弁護士に相談したところ、『審査資料が改ざんされているかもしれない』と言われたので、アプラスに連絡して資料を取り寄せたんです。そうしたら、提出した源泉徴収票は年収が345万円だったのに、437万円に水増しされていた。書式も違うし、会社印も押されていなくて本当に驚きました」 

(上)Aさんが提出した源泉徴収票(下)年収が改ざんされた源泉徴収票

現在は賃料が減額されたことで、月の持ち出しは6万円ほどに膨らんでいる。打ち切られた家賃保証はその後、別のサブリース会社が引き継いでいるが、入居者は12月に退去し、同じようにサブリース契約が外れれば10万円弱の返済だけがのしかかることになる。

取材に応じたAさん

「毎月の給料は手取り16万円ほどで、家賃や光熱費、携帯代などで8万円ぐらいなので、持ち出しが10万円弱となると生活ができない。もう貯金も尽きてしまい、このままでは立ち行きません。自分がもう少し調べておけばと思う気持ちもありますが、金融機関がちゃんと審査して不正を見抜いていればこの話は終わっていた。個人的には、ずさんな審査で詐欺的スキームに加担しているようなものだと感じています」

「不正がなければ買えない層」

加藤弁護士のもとには昨年12月ごろからこれまでに20人弱のオーナーが相談に来たが、多くが年収300万円前後の「不正がなければ投資用不動産を買えない層」(加藤弁護士)。実勢価格600万~800万円程度のマンションを1800万~2000万円程度で購入する事例が多いという。

加藤弁護士の調査によると、多くのオーナーが源泉徴収票や課税証明書を改ざんされ、年収はアプラスの投資マンションローンの融資基準とされる400万円以上に水増しされていたとみられる。改ざん後の年収の金額については、返済比率から逆算して調整していたという情報もある。また、無職のオーナーにもかかわらず、申込書の勤務先の欄に本件のサブリース業者の名前が記されるなど、勤務先を捏造していたケースも見つかった。

2社のサブリース業者

改ざん以前に、Aさんの契約にはいくつか問題点がある。まず、そもそも初年度から物件単体の収支が赤字で、投資として成り立っていない。購入価格が実勢価格の2倍にも上るため投資家にとっては出口がなく、保証賃料が相場より約3万円も高く設定されている。物件価格を水増ししている分、見た目の利回りをまともにするために非現実的な逆ザヤの保証家賃でサブリース契約を結んでおり、もともと成立し得ない投資だったことが分かる。

加藤弁護士の見立てによると、今回問題になっているスキームの基本的な流れはこうだ。

販売会社の下に何人かのブローカーが存在し、低所得層に狭小の投資用マンションを紹介。オーナーはアルヒの仲介でアプラスから融資を受ける。オーナーとサブリース賃貸借契約を結ぶ「表サブリース業者」と入居者の間に「裏サブリース業者」が存在し、サブリース業者と裏サブリース業者もサブリース賃貸借契約を締結。実際の管理業務はオーナーと接点のない裏サブリース業者が行う。

裏サブリース業者は入居者から実賃料を受け取り、10%程度の金額を抜いて表サブリース業者に流していたとみられる。Aさんの事例でいえば、約3万4000円ほどが裏サブリース業者から表サブリース業者に渡り、表サブリース業者は倍額の6万8000円をオーナーに保証していた形になる。

つまり、もともと表サブリース業者が収支を成り立たせることが不可能なスキームだった。加藤弁護士の調査によると、表サブリース業者は契約段階で販売会社から保証賃料と実賃料の差額の2年分を先に受け取っていたとみられる。Aさんのケースであれば、保証賃料と実賃料の差額である3万円の2年分、72万円ほどというイメージだ。

加藤弁護士は「要するに表サブリース業者は2年だけ保証賃料を払うための空箱装置で、もともと2年で飛ばす計画だったと考えられる。オーナーと入居者の間に2社のサブリース業者が入ることで、オーナーから実賃料が把握しにくくなり、保証賃料との逆ザヤ状態に気付かれにくいというメリットがある」と指摘する。

破綻前提のスキーム

このスキームで表サブリース業者として40件ほどのサブリース契約をオーナーと結んだ不動産会社の社員は「販売会社からは、2年間でサブリースを打ち切ることを前提に2年分の上乗せ賃料だけを先に渡されていた。保証賃料が実賃料を大きく上回る逆ザヤ状態で、最初から2年後に破綻させることが仕組まれていたと考えている」と話した。

社員は「すべて販売会社に指示され、途中でスキームから抜けようとしたときは『逃げるのか』と言われた。裏サブリース業者とオーナーの間にもう1社挟むのは、何か問題が起こった時に汚れ役にしようとしていたのではないか」とみる。

加藤弁護士は「このスキームに絡む業者の中には、かぼちゃの馬車を大量に販売していた会社や、スルガ銀行のデート商法問題に関与した会社もある。スルガ銀行の不正融資で稼げなくなった複数の業者がブローカーなどと組み、アルヒ・アプラスのローンを利用した低所得者へのワンルーム販売スキームに流れたという構図が見え隠れする」と指摘する。