固定金利住宅ローン「フラット35」販売首位のアルヒ(ARUHI、東京都)が手掛ける投資用マンションの融資で、源泉徴収票など審査資料の改ざんが行われていた問題。楽待新聞が報じた通り、アルヒ、アプラスはともに不正の有無などについて調査を進めており、2社の関与の程度などについては今後明らかになっていくと思われる。

今回のスキームでは、主に年収300万円前後の若年層が実勢価格の2倍にも上る価格でマンションを購入したケースが多く、サブリース賃料の停止や減額などによって自己破産寸前まで追い込まれている人も少なくない。

そもそも、彼らはなぜ「買ってはいけない物件」の購入を決めてしまったのか? 取材を進めていくと、購入者に接近して巧みな話術で物件購入に至らせる「ブローカー」の存在が浮上してくる。ある女性の証言を基に、その手口について明らかにしていきたい。

買いたくなかった

「買いたい気持ちはゼロでした。『買いたくない、買いたくない』とブローカーに言い続けた。でも、断り切れなかった」

東京都在住の会社員・北園花奈さん(仮名・28歳)は2018年6月、都内にある19平米の中古1Kマンションを2850万円で購入した。アルヒの仲介でアプラスから融資を受け、サブリースの保証賃料は12万2400円、管理費8340円、返済が14万1130円という内容。毎月2万7000円の持ち出しが発生するシミュレーションだが、「生命保険代わりになるし、完済後は老後の収入が安定する」と説明された。

物件購入から半年後、融資時に源泉徴収票と課税証明書の改ざんで年収が260万円から650万円に水増しされていたことが発覚。さらに、マンションの実勢価値が購入価格の半額程度の1500万円前後にすぎず、賃料相場も保証賃料より5万円以上低い7万円ほどであることが明らかになった。

――このように、改ざん発覚までの経緯は、前回の記事で紹介した購入者たちとほぼ同じだ。

「不動産買いませんか?」

なぜ、購入を決めてしまったのだろうか。

「転職を考えていた2017年の年末、数千人規模の異業種交流会に参加しました。そこで転職エージェントを名乗るAさんと知り合い、Aさんからフリーの転職エージェントBさんを紹介されたんです。Bさんは2カ月ほどにわたって相談に乗ってくれて、転職先も無事に見つかりました」

そのタイミングで、Bさんから「転職も大事だけど、もっと包括的な人生設計をした方がいい。10年来の付き合いで信頼できるFPがいるから、ぜひ会ってほしい」と、C氏を紹介された。

北園さんは転職で世話になったBさんの紹介を無下に断ることもできず、2018年4月にC氏と2人で会う約束をした。待ち合わせたファミレスで、突如こう言われた。

「不動産買いませんか?」

「えっ? 不動産なんて買いたくないし、そもそも年収250万円ぐらいしかないので融資審査通りませんよ」

北園さんは、はっきりと購入の意思がないことを伝えた。

「かっちりしたスーツを着た、40代ぐらいの頑固そうなオジサンでした。『年金制度が破綻します』『日本経済が危ないですよ』という話をし始めて、マンションを買うとどういうメリットがあるか、みたいな。不動産の知識が全くないので、よく理解できませんでした」

「ペテン師呼ばわりは心外だ」

C氏と別れた後、北園さんはAさんとBさんに「C氏から不動産を売りつけられそうになった」と相談した。Aさんは「自分も不動産を買った経験がある。あなたはBさんにお世話になったのに、その友達を『怪しい』などと言うのはひどい」、Bさんは「あなたにメリットがあるからその話を持ち掛けていると思う。私の友達をペテン師呼ばわりするのは心外だ」と言った。

詳しい物件の情報は知らされないまま、C氏からはその後もLINE電話での勧誘が続いた。

「賢い人はみんなやってます」「20代が一番多いんですよ」「知識がなくてもプロに丸投げすれば問題ありません」「私がここまでやったんだから、次はあなたが前に進む番です」「あなたのためにこれだけ説明しているのに、まだグズグズいうんですか」

「今考えれば、LINEのメッセージできっぱりと断り、ブロックすることもできました。でも、Bさんには本当にお世話になったという意識があったので、断るならC氏に面と向かって言いたいと思っていて…」

その後、C氏と4、5回会った。「毎回断るつもりで行くんですが、私の買いたくない理由を全て淡々と潰していくんです。途中から向こうが正論を言っているような雰囲気になってきて、言い返す言葉がなくなってしまう。何をされるかわからないという恐怖感もあって、断り切れなかった」

源泉徴収票と課税証明書を

その後も断り続けていると、相手はアプローチを変化させた。

「あなたが買いたくないということは分かりました。でも、金融界には『信用』という概念があって、これは自宅や車のローンを組む時に大事になります。金融機関のローン審査で自分の信用度を測るのはいろいろな計画を立てるのに便利なので、一度受けてみませんか?」

度重なる勧誘に疲弊しきっていた北園さん。前年の年収が250万円しかなく、この直前に退職して無職だったこともあり、審査に通ることはないと確信していた。

「審査に落ちたら、不動産を買う話はチャラになりますか?」

「もちろんです。融資を受ける資格がないと判断されたら、売ることはできないので。では、コピーでいいので源泉徴収票と課税証明書を送ってください」

激怒したブローカー

1カ月後。C氏から「審査に通りました」という連絡がきた。

「頭が真っ白になって、耳を疑いました。私を騙しても何も搾り取れないし、何のメリットがあるのか全く分からない。気持ち悪すぎて、次はどこで逃げられるんだろう…と考えていました」

審査が通った後、C氏からようやく「あなたが買うのはこの物件です」と販売図面を見せられた。都内の中古1Kマンションで、価格は2850万円。「建物の中を見せてください」と頼むと、「入居者がいてもいなくても12万円入るんですから、中を見る必要なんてないでしょう」と拒否された。1人で外観だけ見に行った。

北園さんはその後も断り続けた。「あなたみたいに理論的な理由は出せないですけど、私の心がノーと言ってるんです」。C氏は「それだけじゃ正当な理由にならないじゃないですか」「金融機関の人がどれだけあなたのために時間を費やしたと思ってるんですか」と激怒した。

あきらめに近い気持ちで

融資承認から1カ月後、契約のため販売会社のオフィスに向かった。

「もうこの人には何を言っても無駄だ、というあきらめに近い気持ちになりました。ここまできたら契約した後にクーリングオフすればいい、と思って、オフィスに行くことにしました」

オフィスに到着すると、個室に通された。「販売会社とアルヒの担当者、司法書士などがずらりと待っていました。6人のオジサンに私1人囲まれて、恐怖心しかなく、とにかく早く帰りたかった」

C氏は席を立ち、他の出席者が入れ替わり立ち代わり資料を持ってきた。

「正常な思考ができていなかったし、もうクーリングオフで逃げるしかないと思いながら、何枚もの書類に署名・捺印していました」

契約後、クーリングオフしたいとC氏に申し出た。C氏は「それはできない。あなたは自分で販売会社のオフィスに出向いているので、法的には自分で買いたいという意思表明になる」と説明した。

そして、最後にこう言い放った。

「本当にいやだったら、その場で印鑑しまって帰ればよかったじゃないですか」

その後、C氏からの連絡は途絶えた。