PHOTO:gootaro/PIXTA

建物が建つまでには、構造から仕上げの各段階でさまざまな建材が使用される。こうした建材コストのうち、大きなウエイトを占めるのが木材と鋼材だ。たとえば木造住宅の場合、木工事(木材の加工や、骨組みを組み立てる工事)が全体コストの35~50%を占め、このうち建材費は25~50%程度とされる。つまり全体工事費の10~20%を占める計算になる。

今回はこの建材価格のメカニズムについて紹介する。どのような建材の価格が、どのような要因で変動するのか―。特に新築を検討している投資家は知っておいて損はないはずだ。

木材の国産比率、5割下回る

木材価格がどう形成されるかを知るには、まず木材の流通経路を知る必要がある。ここでは主に住宅の構造に用いられる国産製材を例に考えていきたい。

林野庁が発表している『平成30年度 森林・林業白書』によると、2017年は製材需要の全体のうち、国産材の比率が47.9%となっている。輸入先はアメリカ、カナダ、フィンランド、ロシアなど欧米が中心だ。輸入材の価格は各国の需給や為替の状況に左右される。傾向としては、森林資源の充実を背景に国内自給率が上昇しているという。

2017年の木材需給の構成(林野庁『平成29年木材需給表』)

一方、国産製材の多くは、やわらかくて加工しやすく、欠けにくいとされる針葉樹。中でもスギが多く、ヒノキ、カラマツと続く。生産地は全国的に分布しており、スギは宮崎、秋田、ヒノキは愛媛、岡山の各県での生産量が多い。国産材は全国各地からさまざまな小・中規模の事業者が関わりながら流通していく。その複雑さは下図をみれば一目瞭然だろう。

木材加工・流通の概観。輸入材は商社や住宅メーカーなどによる大口取引がメーンで、製材、販売まで一貫した流通体制が確立している。一方、国産材は供給までのプロセスが複雑だ(林野庁『平成30年度 森林・林業白書』、クリックで拡大 )

流通過程を簡略化して説明すると、大きく三段階に分かれ、俗に川上、川中、川下と言われている。川上は森林から伐採された樹木が丸太となって原木市場に出るまで。川中は丸太が工場へ輸送、加工され、製材として製品市場に出るまで。川下は製材が木材問屋を通じて需要家に届くまでを指す。

樹木から製材へ、付加価値10~20倍

川上、川中、川下の各過程で、材料に付加価値が生まれていく。ここではその過程を見ていこう。

最も川上に位置する、森林に生育している状態の樹木の価格を「立木(りゅうぼく)価格」と呼ぶ。2018年3月末時点では、スギの立木が1立米当たり2995円。ヒノキが6589円だ。これが最終的に製材となって流通する卸売価格になると、付加価値の高い乾燥させたスギで1立米当たり6万6500~6万8800円、ヒノキが8万5600~8万6900円となる。立木価格と比較するとそれぞれおよそ10~20倍に増えた計算だ。

伐採された後の丸太の状態の木材。このあとさまざまな工程を経て製材されることで付加価値が付く(PHOTO:花火/PIXTA)

各段階をもう少し詳しくみてみよう。まずは川上から。

森林所有者が所有する立木について、森林組合や民間企業などの事業体が価格交渉をして買い取る。交渉が成立すれば、事業体によって伐採、丸太にされ近隣の原木市場に持ち込まれる。あるいは製材工場や販売事業者に直接販売されることもある。農林水産省の平成30年木材流通構造調査によると、2018年時点では、原木市場に持ち込まれる割合が全体の43%と最も多く、製材工場が37%、販売事業者が20%だ。

次に川中。原木市場で競りにかけられた丸太は製材工場で角材などに加工される。ここから経路は4つに枝分かれする。最も多いのが問屋や材木店、建材屋などの木材販売事業者(30%)、次がより複雑な加工を施す2次加工の工場(29%)、建築事業者など直接需要家(21%)、また製品市場に持ち込まれるケースもある(20%)。2次加工工場や製品市場に持ち込まれた木材も、最終的には問屋や建築事業者の手に渡っていく。

各過程では、木材加工だけでなく、輸送や保管などさまざまサービスが提供され、コストが加算されていく。そこでは需給だけでなく、人件費や輸送にかかる原油価格、輸入材との価格競争などさまざまな要因が合わさって最終的な価格が決まる。

流通の合理化求める動きも

ここまで木材流通を概観したところで、仲介者が多すぎて余分にコストがかかっていると感じた方もいるのではないだろうか。実際、こうした流通の合理化を求める需要家は多く、伐採から加工まで一体的に運営する事業者や、問屋機能を持つ加工工場などなるべく流通コストを省こうとする動きも出ている。

本稿では主に製材を例に考えたが、近年は品質基準の厳格化に伴い、安定供給しやすい合板や集成材の需要も増えている。そうした効率化の究極的な形が、大手住宅メーカーの採用している輸入材の大量購入だ。商社を介して大量に仕入れ、一定の規格に沿って製材し、建築、販売まで一貫して行うことで仲介コストを省く。一方、海外輸送費分はもちろん、宣伝や会社維持にかかるコストなどのウエートは大きくなってくる。

複数の木材を接着して1本にした「集成材」を使った住宅。よく見ると木目が異なっている。乾燥による反りなどの狂いがなく、質が安定することから普及している(PHOTO:Photonn/PIXTA)

製材価格の決定要因の特徴として言えるのは、媒介コストはかさむ傾向がある一方、価格が需要側に近い市場原理に左右されやすいということだろう。木材生産者が全国各地に存在し、流通過程も多様なため市場参加者が多く、それぞれが自己利益を追求するため市場原理が働きやすい。

森林に生育する立木の価格は、製材品として流通する市場価格から逆算される性質があり、その点では、消費者優位の流通システムが確立しているともいえる。

鋼材は原料輸入コストがネック

続いて、鋼材価格はどのように決まっているのか見てみよう。鋼材は鉄筋コンクリート造の軸棒に用いられるほか、鉄骨造や軽量鉄骨造では構造を担う主要建材となる。

日本鉄リサイクル工業会のWebサイトによると、一般的な軸棒の異形棒鋼は2003年12月に1トン=4万900~4万1900円だったが、2020年1月時点では6万8100~6万9400円に。H型鋼は4万9900~5万900円が8万4900円~8万5900円にそれぞれ上昇した。こうした上昇の主な要因は、鉄鉱石やその溶炉に使用する原料炭の価格上昇が挙げられる。

PHOTO:haruyoshi yamaguchi/PIXTA

長期的な需給動向では、世界的には途上国の発展に伴い鉄鋼需要が伸びている一方、資源採掘業は少数の世界大手による寡占状態となっており、製鉄メーカーが価格交渉で劣勢とならざるを得ない。中国メーカーによる過剰な鉄鋼供給で価格が伸び悩んでおり、原料の価格上昇分を製鉄メーカーや問屋が一部吸収する形で鋼材価格の上昇を抑えているのが実態のようだ。こうした価格形成の硬直性が、国内市場の実勢価格の基調となっている。

木材とは異なり、鋼材原料の鉄鉱石と溶融に不可欠な原料炭は100%輸入に頼らざるを得ない。また流通過程は総じて相対取引(売り手と買い手が直接取引する)で、公開市場のようなダイナミズムが働きづらい。一方、為替や世界需給などの大きな外的要因が、需要家側にダイレクトに影響しないような制度にもなっている。

なお、鉄鉱石と原料炭の輸入先は、ともに半数以上がオーストラリアからだ。日本鉄鋼連盟の資料(『The Steel Industry of Japan』)によると、2016年時点では鉄鉱石が、オーストラリア(60%)、ブラジル(28%)、カナダ(4%)と続く。原料炭が、オーストラリア(71%)、カナダ(10%)、ロシア(9%)などとなっている。

大口の「ひも付き」、小口の「店売り」

そもそも建材に使われる鉄鋼とは、鉄に炭素やケイ素などをわずかに混ぜて作られた合金のことで、配分量の違いで強度や伸びが変わる。軽量鉄骨造では、リップ溝形鋼など厚み6ミリ以下の鋼材が組み合わされている。

鉄鋼業には大まかに鉄鉱石から作る高炉メーカーと鉄スクラップから作る電炉メーカーの2種類があるが、日本では全体のおよそ4分の3が国内4社の高炉メーカーで製鉄されている。高炉メーカーは鉄鉱石と原料炭を輸入して、さまざまな用途に合わせて製鉄する。木材の場合、製材需要はもっぱら住宅だったのに対し、鋼材の場合は、建築物だけでなく、自動車や土木、産業機械など需要が多岐にわたっている。したがって需給要因も多様な産業動向を総合しないとつかみにくい。

製材の流通は木材ほどではないものの、少々複雑だ。経済産業省の資料によると、まず自動車メーカーなどの大口需要家の場合、「ひも付き」といわれる取引形態がとられる。これは年に1度の価格交渉で年間の取引量と価格を決める。長期に安定した取引を行うために生まれた商習慣とされる。一方、中・小の需要家は、メーカーから大量に購入する専門商社や加工業者から購入することになる。業界ではこれを「店売り」という。

ひも付きの鋼材価格は鉄鉱石や原料炭の輸入価格をベースに、世界的な需給や国内需給を踏まえて決定される。鋼材価格は基本的には相対取引で、公開市場は存在しないため、こうした大口需要家のひも付き価格が店売り価格の参照対象となっていく。

店売りでは、この他に業界紙、問屋などの提供する需給動向を頼りに価格交渉がなされる。1次問屋はメーカーの在庫調整機能を担うほか、需要家とメーカーをつなぐ情報収集・伝達機能を担う。そうした付加価値分が、問屋の裁量として販売価格に上乗せされていく。ただ、需要家の購買圧力が優勢で、問屋はメーカー買い取り価格が上昇しても、十分に販売価格に転嫁ができていないとの指摘もある。

ストライキ、脱炭素化も影響

鋼材価格は、どうしても外的要因に左右されやすい。ここでは主な変動要因をいくつかあげてみたい。

まずは鉄鉱石価格。これは世界市況の変動、たとえば中国経済の動向や主要産地の操業状況などが影響を与えている。ごく簡略化すれば、オーストラリアのある産地で労働者のストライキが起きれば、供給減懸念から価格が高騰する。逆に、中国経済が低迷するとの見通しが示されれば需要減懸念から価格が落ち込む、といった具合だ。実際には、経済指標が弱い見通しを示しても、中国当局が景気刺激策を講じるとの見方が広がれば、逆に買いが優勢となり価格が上昇することもある。

このほかには、輸送コストの原油価格も影響する。主要供給元の中東で紛争リスクが高まれば、供給懸念が高まって価格が上昇する。一方、原油の代替手段となる、たとえば米国産シェールガスの採掘拠点が新たに確立されたとのニュースが出れば、原油は相対的に価値が低下し、相場も下落する。鉄鋼需給だけでなく、こうした付随する資源やエネルギーの相場が、鋼材価格には大きく影響してくる。

国内の需給動向も当然無視はできない。東日本大震災の復興事業や東京五輪・パラリンピックに伴う再開発事業などの大型需要は、市況にも当然大きな影響を及ぼす。また将来的には、原料炭の燃焼にともなうCO2の排出が避けられない鉄鋼業界にとって、脱炭素化を推し進める世界的な風潮は、強い圧迫要因となる。従来通りの精製方法が採れなくなったり、融資が受けにくくなったりするなどの、想定外の価格上昇リスクを抱えることになっている。

さて、木材と鋼材に絞って建材コストの形成過程を見てみた。1つの建材の背景に多くの人が関わり、さまざまな思惑の中で価格が決まっていることが分かったのではないだろうか。また、一需要家がどうこうできる問題ではないということも痛感したかもしれない。

今回は紹介できなかったが、コンクリートやガラスなど、建材の主役はほかにもある。それぞれの背景を探ると、建材価格変動を予測するヒント、あるいは思わぬコストカットのヒントが見つかったり、住宅への理解が深まるきっかけになったりするのではないだろうか。

(楽待新聞編集部/山崎ハジメ)