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いよいよ今年の4月、改正民法が施行となる。不動産投資にもかかわる内容が含まれているため、オーナーとしてはどのような改正が行われるのか、注意すべき点があるのかといったことは知っておいた方が良いことは間違いない。
そこで今回は、弁護士の阿部栄一郎氏に、改正民法における「根保証契約」と「極度額」について解説してもらった。
改正民法は4月から施行される
令和2年(2020年)4月1日から改正民法が施行されます。今回はこの改正のうち、賃貸借契約における連帯保証人などが当てはまる「根保証契約」と、極度額の定めについて解説します。
最初に、改正前後の条文を比較してみましょう。
■民法改正前の条文
民法465条の2(第3項は省略)
1 一定の範囲に属する不特定の債務を主たる債務とする保証契約(以下「根保証契約」という。)であってその債務の範囲に金銭の貸渡し又は手形の割引を受けることによって負担する債務(以下「貸金等債務」という。)が含まれるもの(保証人が法人であるものを除く。以下「貸金等根保証契約」という。)の保証人は、主たる債務の元本、主たる債務に関する利息、違約金、損害賠償その他その債務に従たるすべてのもの及びその保証債務について約定された違約金又は損害賠償の額について、その全部に係る極度額を限度として、その履行をする責任を負う。
2 貸金等根保証契約は、前項に規定する極度額を定めなければ、その効力を生じない。
■民法改正後の条文
民法465条の2(第3項は省略)
1 一定の範囲に属する不特定の債務を主たる債務とする保証契約(以下「根保証契約」という。)であって保証人が法人でないもの(以下「個人根保証契約」という。)の保証人は、主たる債務の元本、主たる債務に関する利息、違約金、損害賠償その他その債務に従たる全てのもの及びその保証債務について約定された違約金又は損害賠償の額について、その全部に係る極度額を限度として、その履行をする責任を負う。
2 個人根保証契約は、前項に規定する極度額を定めなければ、その効力を生じない。
上記条文において、強調した部分からも分かるとおり、民法改正前は、貸金や手形の割引といった「貸金等債務」のみを対象として極度額の定めを求めていたのに対し、民法改正後は、貸金等のみならず、その他の取引についても極度額の定めを求めています。
貸金などにおける個人保証人の保護は平成16年(2004年)の民法改正で導入されましたが、当時においても、貸金など以外の取引における個人保証人の保護の必要性は確認されており(衆参両議院の付帯決議でも決定されていました)、今回の民法改正によって、貸金など以外の取引における個人保証人も保護されるように条文が改正されたという経緯があります。
改正民法の3つのポイント
改正後の民法465条の2におけるポイントは3つです。1つ目は「極度額」の定めを求めていること、2つ目は「保証人が法人でないもの」、3つ目は対象が「一定の範囲に属する不特定の債務を主たる債務とする保証契約」であること。です。
以下、それぞれ見ていきましょう。
○極度額
最初に、極度額のことを説明しておきます。「極度額」とは限度額のことをいいます。つまり「極度額」を定めるというのは、保証人から見て、自身の負う負担額を明示される状態を意味します。
保証人としても、自身の負う負担額がはっきりとわかっていれば、保証をする際に、合理的な判断ができるでしょう。
○一定の範囲に属する不特定の債務を主たる債務とする保証契約
「一定の範囲に属する不特定の債務を主たる債務とする保証契約」は根保証契約と呼ばれる類型です。表現もまどろっこしく、分かりにくいという印象を受けると思いますが、端的に説明をすると、現在だけでなく将来の債務も保証する契約のことをいいます。
例えば、貸主が借主に対して100万円を貸すという契約において借主の保証をした場合、保証人は「100万円を貸した」という1つの契約に関連する債務について負担すれば済むわけです。
その後に、借主がさらに貸主から100万円を借り入れたとしても、保証人は後から借り入れた100万円については保証する必要はありません。
それに対し、例えば、「賃貸人が賃借人に対して自宅を月額10万円で2年間賃貸する」という契約において賃借人の保証をした場合、保証人は、賃貸借契約締結当時に分かっている事項だけではなく、将来、賃借人が遅滞する賃料の保証や、賃借人が支払わなかった原状回復費用の保証といった1つの契約から発生するさまざまな債務を保証することになります。
このように根保証契約は、将来にわたって負担が発生するため、保証契約の時点で、保証人がどの程度の負担を負うのか分かりにくいといった課題がありました。逆に、債権者の立場からすれば、根保証契約の保証人に対してはさまざまな請求ができるので、便利であったということです。
賃貸借契約における賃借人の保証も根保証の一種です。そして、今回の民法改正によって、貸金などに限定せずに保証契約において極度額を定めなければならなくなりました。
つまり、賃貸借契約における賃借人との連帯保証人との間の保証契約も極度額を定めなければならない契約となりました。連帯保証人との間の保証契約をする際には、極度額を定めるよう注意してください。
○保証人が法人でないもの
「保証人が法人でないもの」というのは、文言どおり、会社などの法人ではなく、個人が保証人となる場合のことをいいます。
根保証契約の保証の対象が分かりにくいといっても、会社などの法人は、経済的な合理性の観点から冷静に判断できる(そのような能力がある)と考えられるのに対し、個人には合理的な判断能力があるとは限りませんので、個人を保護の対象としたと考えられます。
極度額を定めない場合にはどうなる?
改正民法465条の2第2項は、「貸金等根保証契約は、前項に規定する極度額を定めなければ、その効力を生じない」と定めています。
つまり、極度額を定めない場合には、連帯保証契約の効力が生じません。2020年4月1日以降は、賃貸借契約の賃借人にかかる保証契約をする場合、極度額の定めをしなければ保証契約は無効となってしまいます。
なお、改正民法465条の2第2項は、2020年4月1日以降に締結される保証契約に適用されます。では、2020年4月1日以降に賃貸借契約の更新を迎える場合において、賃貸人は連帯保証人との間の保証契約に関して、どのように対応すれば良いのでしょうか。ケースごとに見てみましょう。
○ケース1:更新の際に更新の確認書のみを交わす場合
前提として、賃貸借契約が更新された場合、更新された賃貸借契約は従前の賃貸借契約と同一性を保っており、保証契約に関して、特に何もせずとも連帯保証人は、その同一性を保った賃貸借契約の借主の保証を継続します。
つまり賃貸人は、賃借人との間で賃貸借契約についての更新の確認書などを交わしておけば、賃貸人と連帯保証人との間で保証契約を締結し直さなくても連帯保証人による保証を継続してもらうことができます。
この場合、賃貸人と賃借人との間では合意がありますが、賃貸人と連帯保証人との間では合意はありません。賃貸人と連帯保証人との間の新たな合意がないのですから、保証契約は従前の契約が維持されている(この保証契約には改正民法465条の2の適用はありません)ということになります。
この点、更新における賃貸人と賃借人との間の合意の有無と賃貸人と連帯保証人との間の合意の有無については、きちんと分けて認識することが必要です。
○ケース2:更新の際に連帯保証の条項のある賃貸借契約書を交わすことがある
他方で、賃貸借契約を更新する際、従前の賃貸借契約書と同一、または、ほぼ同じ内容の賃貸借契約書に賃貸人と賃借人が署名・捺印し、更に、連帯保証人が署名・捺印をするということも行われます。
更新の際に、連帯保証人の保証の意思を確認するという意味では、非常に良い方法だと思います。ただし、この場合、賃貸人と賃借人との間で合意があるとともに賃貸人と連帯保証人との間での合意もあるという点をきちんと認識しておいてください。
法務省は、改正法の施行後である2020年4月1日以降に賃貸借契約が合意更新され、この更新契約書に連帯保証人が署名押印したことにより新たな保証契約が締結されたと評価される場合には、改正民法が適用され、更新契約では連帯保証人の極度額を定めなければならないという見解を採っています。
つまり、法務省の見解によると、賃貸借契約の更新の際に連帯保証の条項がある賃貸借契約書に賃貸人と連帯保証人とが署名・捺印した場合には、新たな保証契約の締結と評価できる改正民法が適用されて、極度額を定めなければ保証契約が無効となる可能性があるということになります。
上記の法務省の見解を基に考えると、賃貸人の立場からすれば、更新の際にわざわざ連帯保証人の署名・押印を求めない方が良いようにも思います。
なお、連帯保証人の署名・押印を求めない場合には、賃貸人は連帯保証人に対して、賃借人に対する保証が継続していることを通知しておくのが丁寧なやり方でしょう(通知をすることによって、連帯保証人の状況が分かるということもあると思われます。賃貸借契約が長期に亘る場合、連帯保証人が死亡しているということも、ままあります)。
もちろん、保証契約が無効となるリスクを避けるために、連帯保証人との間で極度額の定めのある保証契約を締結するということも十分に考えられるところです。
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